セキュリティオタク

ウイルスにやたら詳しい人がいた。チーム内では一番スキルも高く、各種セキュリティソフトのメーカーのことまで詳しく熟知している。ただ一つ厄介なのが、コミュニケーションが今ひとつ取りづらく、何でもかんでもウイルスやアダルトサイトを見たということで片付ける癖がある。融通がきかなく、おまえが勝手に操作したから自業自得でしょ。という感じを客に与えるらしい。当然チーム内で親しくしている人もいなく、いつもランチはひとりぼっちだ。ある時、ウイルス感染した客の対応でデータ復旧をひどくお願いされた。そのときに、彼に助言を求め、対応策を絞り出してもらい無事データ救出をすることができた。評判だけあってさすがだ。嫌々やってくれた感はいなめないが、仕方ない。この日何故かランチに誘われた。人間観察とでもいうのか、彼のことをもっと知りたくなった。さびれた大盛りで評判の町中華でランチをともにした。彼の父親は何とパイロット、裕福な家庭らしい。もっぱら他の話題は、セキュリティ対策とウイルスの話ばかりである。そこまで詳しいなら、ベンダーへ転職すれば給与も高いのにと勧めたが、彼は自由に感染したアホどもをサポートして、マウントを取ることに生きがいを感じているらしい。自分がいかにスキルが高いか、見下して、まるで神のような存在であることを錯覚している。思わず吹き出してしまうのは、その身なりである。他の人はカジュアルだが、一人だけスーツにネクタイ、髪の毛はかっちり固めて7:3に分け目を入れ、黒く光沢を放っている。悪いやつではないので、自分のツールとして彼とは仲良くしておく決意をした。その日の夕方、やたらコールが多く、退勤時間ぎりぎりまで、鳴り止まなかった。すべてのデスクは大忙しだった。定時のチャイムが鳴ると、さっそうと彼は「お先に失礼します」と言い残して帰宅した。翌朝、タイミング良く定時に終われることに驚いていたら。定時に帰れるコツを教えてくれた。

定時前に問い合わせが解決しそうであれば、時計をしっかり見つめ、分単位で客と世間話をして、ダラダラとそのままジャスト定時まで持ち込むらしい。その間履歴なども入力して済ませておくのが基本だそうだ。絶句。何ともしたたかな男だ。明日から早速真似をさせてもらう。

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