泥酔客

金曜日の昼過ぎにそのコールはあった。

顧客は、渋谷区の一等地に住む中年男性だ。画像加工ソフトがいつもの動作をしないということらしい。画像や動画を編集している仕事らしく、とても高価なソフトだ。おまけに泥酔している様子で、言葉がはっきりしない、何を言っているかも明確でない。こちらでは他社製品をサポートしないことを伝え、簡単に終わるはずだった。

顧客情報の備考欄を見ると、かなり古くからのの契約者で、サポート外でも対応した履歴がある。嫌な予感がした。

サポート外であることを伝え電話を置く。

その2時間後に、渋谷の警察署から電話がある。自宅で暴れて、両親が警察に電話したとのこと。そこで、警察へサポートしてくれないという対応だったと言ったらしい。事実を確認するためにここへ警察から電話があった。こんなことがあるのか。

仕方なく、警察へ事情を説明すると、暴れるのを収めるために何とか対応してくれないかとの依頼。更に驚く。マネージャーに事情を話して、交代してもらう。そのやり取りを今後の参考に聞くようにとの指示。

実にうまい、流暢で丁寧。泥酔客らしく、たまにお酒の話しなど加え、ソフトウェの再インストールにて解決した。

自分へのあてつけのように、捨て台詞を残して終わった。「今度からあなたに指名で頼むね。」冗談じゃない。ルールに従っただけで、まさか警察介入にまでなるとは。

後に、渋谷区の御曹司であることを聞かされた。契約数も家族単位で8契約している。

お得意さんだから、例外もありってことなんだね。絶句。長いものには巻かれろ。

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