大事なデータが消失

この当時はある特定のウイルスが流行していた。そのせいでインターネットに接続できなくなったり、パソコンが起動しないなどの問い合わせが主流だった。

早速コールが鳴り、受ける。

「お電話ありがとうございます、コールセンターです。」

」パソコンが今朝から、起動しないんです。」いきなり要件から来る。

どうやら高齢者の男性のようだ。

名前と会員番号を照合する。

ここから現象を確認する。

昨日まで起動していたことの確認をする。

特に何も操作していないのに、今朝から起動しないという。画面の状態は真っ暗で、ケーブルTVは視聴できるという。

通信の問題ではない。落雷などの事故でもない。おまけにそのパソコンは1ヶ月前に新規購入したものである。機器の故障の可能性は低い。

時間が経過するたびに焦りが出てくる。

そうだ、ウイルス感染だろう。

ウイルスを駆除するソフトを入れていたか確認すると、無防備であったことがわかった。

ウイルス感染の判断を下し、メーカーへの問い合わせを勧めて対応を終えた。

先輩は、妥当な判断として同意してくれた。

数時間後再度電話が来る。

自分の名前を記憶していたようで、ご指名だ。正直勘弁して欲しい気持ちだったが。

メーカーに問い合わせ、パソコンの初期化を案内されそのまま作業をしたらしい。

初期化して過去のデータが行方不明になったらしい。メールや写真、wordで作成したデータ等だ。

「バックアップは取られてますか」

見事に無残な回答が帰ってきた。

「バックアップとは何ですか」

メーカーの対応に激しく怒りを覚えた日だった。

それから3日後、この方からまたもや指名で問い合わせが入る。家電量販店でデータ復元ソフトをすすめられ、購入したらしい。そのソフトの金額は一万円超えだ。騙されたとしか思えない。その使い方を教えて欲しいとのことだ。社内ルールに従い、自社ソフト以外はサポートしない方針なので、丁重にお断りました。孫の写真が沢山あるらしく、大切であることを切にお願いされたが、身を切る思いでお断りした。

翌日に朝一番で、またもや問い合わせが入る。正直ノイローゼになりそうな気分だったが、やけに明るく元気いっぱいの声であった。

過去のデータはシステムドライブではなく、Dという別のドライブに存在していた。初期化ではCのドライブを書き換えるため、保持されていたのであった。

ぐったりするとともに、ホッとした瞬間であった。お礼を言われてその日は終わった。

翌週、その方からコールがあったが、あえて取らなかった。隣の席の同僚が対応した。気になったので聞いてみた。

アダルトサイトを見て、ウイルスに感染したらしい。

絶句。男はいくつになっても男である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る