my heart draws memories

魔女さんとママは料理が下手

「魔女さん」

「まよさん」

「ま、じょ、さん」

「ま、よ、さん」

「まよ…あ、つられた」


 テーブルで向かい買った魔女はぷうと頬を膨らませたあと、諦めたように立ち上がった。

「まあ、いいか、呼び名なんて何でも」


 魔女の手を取ってししばらく経った頃、海街にいた男の子はコハクと呼ばれ、少し北の涼しい街で暮らしていた。

 彼女は最初、森の奥に住もうとしていたが、コハクが蜂蜜を取ろうとして、熊に襲われてから、「蜂蜜なんて買えばいいのよ」と引っ越してしまったのだ。


 なんだかんだ優しい魔女は、文句を言いながらも、色々と面倒を見てくれている。


 今日も、キッチンの前に立って、「世話なんてしないって言ったのにー」なんて言いながら街の古本屋で買ったレシピ本と睨めっこしている。


「はい、ビーフシチュー」

 魔女は料理を作るのは苦手なので、いつもは街で買ってきたパンと食堂のお持ち帰りだ。

 こうやって何か料理を作ってくれるのは、お店が休みの日だけ、コハクが食べたいと駄々をこねるときだけだ。


「あんたこんなまっずい失敗作、良く美味しそうに食べるわね」

 じいと魔女が見つめると視線に気付いたコハクがニコッと笑った。

「ままの料理に似てるんだー」

「へー」

 魔女の顔がピクリと動きかけたが、次のコハクの言葉に撃沈した。

「ままもねーりょうりへたっぴだった」

「遠回しにまずいっていってんじゃない」

 このガキもう作んないわよ、と睨まれるが、コハクは平気な顔をして続けた。

「でも、ぱぱがじょうずで…僕はあれ好きだったんだー…」

「何がすきだったの?」

 真夜の問いに応えようとして、コハクは詰まった。

「あれはね…」

 見た目は出てくるけど、名前がどうしても思い出せないコハクは、目を瞑って頭を左右に振った後、諦めたように、目を開けてシチューを見ながらつぶやいた。

「わすれちゃった」

 軽い言葉に反して、俯くコハクを横目で見た魔女は、何も言わずにパチンと指を鳴らした。

「わぁ!」

 どこからともなく出てきたミルクの容器を、魔女は指揮者のように触れずに器用に操るとビーフシチューに魚の絵を描いた。

「これならまずくても食べやすいでしょ。」 

 顔をキラキラとさせるコハクは先ほどまで、なんの話をしていたのか、忘れてしまっていた。

「ありがとー!」


 しばらく、スプーンを口に運びながら、コハクは突然顔を上げた。

「思い出した!」

「何を?」

「まよさんの料理はパンケーキがいちばんすきー」

 父親の料理を思い出してたんじゃないのか。と真夜は首を傾げながら笑う。

「はいはい。今度の休みにつくってやろうね」

 口の端についてるわよ、と、魔女は近くにあった布巾でコハクの顔を拭った。

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