カナタノショコノカザリミチ
数多ある本棚があるカナタノショコで、本棚が置かれていない広間があった。ここにはソファやテーブルがあり、カナタノショコの訪問者は長時間本を読むときに活用できるようになっていた。訪問者は本棚を巡った後、休憩のために広間に立ち寄った。
広間にいくつかあるソファ。その内の一つにカナタノショコの管理人であるエリムが本を読みながら座っていた。持っていた本は訪問者がまだ読んだことのない本、エリムはどうやら楽しみながら読んでいるようだった。
訪問者が近づくとエリムは本を閉じ、軽く会釈をする。この前彼は『今日は挨拶ぐらいにしておきましょう』とこの場所について何も話さなかった。エリムは今度会う時に何を話すのか、訪問者は待っていた。
「こんにちは。前は特に話しませんでしたから、今日はこのカナタノショコの案内をさせて頂きます。早速ですが、行きましょう」
エリムはソファから立ち、本棚へと向かった。訪問者は今だに慣れない、足元にあるフワフワした感覚をこらえて彼についていく。
「カナタノショコには無数の本棚と、数えきれない本たちが生きています。本棚を奥へ奥へと進んでいくと、迷ってしまうぐらいには広いので注意してください。僕もここの全ての本は把握しきれていませんので、迷子になりやすいんですよ」
エリムが浮かべる笑顔は無邪気さが目立つ。本棚や動物を撫でる仕草も、全てが愛おしそうに触れていった。
「実は今進んでいる本棚と本棚の間にも、カナタノショコには名前があるんです」
エリムの足が止まった。よく見ると、小さな手のひらサイズのドラゴンが彼の肩に乗っていたようだ。彼が指で頭を撫でるとドラゴンは可愛らしい鳴き声を上げ、エリムの顔もさらに朗らかになる。
「この道を飾り道と言います。永遠にある作品を飾っている道という点から名付けられていましてね、僕もカナタノショコにピッタリだと思うんですよ」
ひとしきり撫でられて満足したのか、ドラゴンは飛び去って行く。訪問者とエリムはその姿を見送って再び歩き始めた。
「飾り道は全ての通り道です。これは覚えておいてください。あ、見えました。僕はここに向かっていたんです」
二人が飾り道を抜けると、一軒の家が見えた。木製の家のようだが、逆さまになったヒョウタンが何個か連なっている。壁にはコケや多くの弦が絡んでおり、家周辺の地面も同じように多くの植物が生えていた。形がすべて違う窓からは白熱球色の光が漏れだして、この家の温かみを増していた。
草木が生い茂る中、石が敷き詰められた道を進む。ドアの前に辿り着くと、エリムは振り向いた。
「ここの人はちょっと癖があるんです。僕が対応するので、あなたは後ろをついてきてください」
エリムはドアを開けて進む。ドアの先は歪んでいて、訪問者は見ることができなかった。
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