コタツムリ

「ぬくぬくだね~」


「うん、ぬくぬくだね~」


 近年、背中の貝殻にコタツを背負った新種のカタツムリが発見された。彼らはコタツムリとして名付けられて人気を博している。コタツムリは一般的なカタツムリと違って、真夏ではなく冬の間に出現するのだが、背中のコタツは個体によって違って毛布の色も鮮やかなものが溢れているのも人気の秘訣だ。


 彼らは登下校中の小学生に人気だ。コタツムリというだけあって掌の上に乗せるとじんわりと温かい。一方、大人たちにとっては非常に美味な食材として重宝された。突如大量発生するものだから、色んな場所に影響を与えていた。あまりに多く、うんざりしている人が多かったため、一部の人がコタツムリ料理を紹介すると瞬く間に拡散されていった。


「食べたことのない味ね。エスカルゴともまた違う」


「コタツムリ…人気な理由がわかるよ」


 子供は遊び、大人は食事に利用する。その年から冬に大量発生するようになったコタツムリはあらたな風物詩として日常に溶け込んでいった。しかしそれだけではなく、彼らのコタツは非常に高い熱交換率を持っていることがわかった。やがて研究は進み、彼らの技術を利用した発電所まで次々に建てられていった。


 ある日、コタツムリが世界から消えた。一匹残らず、標本も何もかもが消えた。彼らの仕組みを応用した技術はたちまち誰も使うことができなくなった。本で記していたことも、誰も理解することができなくなった。残ったのはコタツムリという名前と、楽しかった記憶だけだった。



 それから、人間はコタツムリの真似をするようになった。コタツから頭を出すだけの事だが、一大ブームとなり冬の文化として親しまれていったのだ。もうコタツムリが何故現れたのかを考える人は現れなくなった。しかし、人間の文化としてコタツムリが記憶されていった。コタツムリが一体なぜ急に現れ、急に消えたのか。もはや誰も知ることはありませんでした。


―コタツムリ誌:最終号より―

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