血圧

 20歳から今に至るまで40年間、定期的に行っている健康診断の値を見て我が目を疑った。ほとんどの値は正常値や基準値であるが血圧だけが異様におかしい。高血圧、低血圧だからというわけではない。明らかに測定ミスと思う値だ。あまりにおかしいので、私はこの検査結果を測定してくださった先生に持って行った。私よりも若干年上の、人が良さそうなおじいちゃん先生だ。


「先生、血圧の値が異常なのです。本当に測定ミスは無いのでしょうか」


 先生は私の検査結果を見て苦笑いした。


「えーっと最高血圧が15000で最低血圧が測定不能、何度見ても笑っちゃうね。何でこの値で健康なの?」


「いや、わからないから先生の下に来たんですよ。これ本当に大丈夫なんですか?」


 さもお手上げかのように先生は降参の意を示した。降参されても、こちらもわからないんですけど。


「ま、健康みたいだし気にする必要は無いんじゃない?他の数値はあなたの年齢ではかなり優秀な方です。あんまり気に病むことも無いと思いますよ。病は気からとも言いますし」


 先生はそれ以上何もアドバイスをくれなかった。私は別の病院でも診断を行ったが、そこでも検査結果は同じで、原因がわからないということだった。だがしかし、おかしいでしょ。脳の血管が血圧15000を耐えることができるとは到底思えない。毛細血管はことごとく破裂してしまいそうだ。


 原因がわからない。そして、自分の体には何も問題はない。先生の言う通り、病は気からとも言うしなぁ。これ以上は気にしても仕方が無いのだろうか。仕方がないので帰路につくことにした。しかし、病院帰り突如私の体は今まで感じたことのない熱を帯び始めた。熱は上昇し続ける。だが熱が上昇している意外に体に異常は見られない。それどころか動かしにくくなっていた体も以前より動くようになっていた。


 どうしようか。流石に病院へ戻るべきだろうか。足元を見ると何度の熱を放出しているのか、アスファルトが溶け始めていた。依然として体の機能に異常はない。うーん、今は熱を冷ましたいな。私は公園の噴水の近くへと足を運んだ。


 公園の噴水は地面から出てくるタイプで、真夏には良く小さい子供が遊んでいる。この冬の時期は行っていないかと思ったが、どうやら誰かがいたずらで弁を空けてしまっていたようだ。水は天高く飛び、私に降りかかる。水たちはやがて私に触れると次々に蒸発していった。


「何が起こっているんだ?」


 変わらず体温は上昇していく。足元がぐらつき始めて体は地面にめり込み始めた。


「一体何なんだ!誰か助けてくれ!」


 辺りを見渡しても誰もいない。放っていた熱気は人が近づけるようなものではなく、人を含めすべての動物たちは避難していた。熱によってぬかるんでいた地面は底なし沼のようで、体はいよいよ半分まで埋まってしまった。体温は上昇を続け、少し離れた位置にあった木々でさえ熱で枯れ始めてしまった。


「だ、誰か!誰かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 体は沈み続けて完全に体は埋まってしまった。しかし、測定不能の血圧と共に流れていく血液によって体温の上昇は止まらない。地球上で体温を測定できるものは、そして近づくことができる存在はいなくなった。やがて、熱を発し続ける体は地殻を溶かし続け、地球の引力によって地球の中心へと突き進んでいった。

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