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まずは「彼女」を動作させるマシンが必要だ。クラウド上の
とは言え、マシンの性能を上げると、消費電力も大きくなってしまう。電気代がかさんで、同居の長男夫婦に迷惑をかけるわけにもいかない。というわけで、僕は部品単位で性能と消費電力を天秤にかけて十分吟味し、「彼女」の器となるマシンを組み立てた。
続いて、プログラミングだ。SNS上のボットなら開発経験は豊富だが、今回は音声で会話できるようにしたい。と言っても、今はネット上に転がっているオープンソースの音声認識システムの精度もかなり上がっている。僕はそれらをカスタマイズし、バックエンドになるニューラルネット学習エンジンと接続した。この学習エンジンはかつて僕が会社で働いてた頃に開発に携わったもので、当時僕が作った有名人ボットのバックエンドにも使われている。
昼も夜も、僕は一心不乱に開発に取り組んだ。僕のミッションである孫の幼稚園の送り迎えや買い物以外の時間は、ずっと画面に向かってキーボードを叩き続けていた。実働時間は現役で働いていた頃よりもよっぽど長いくらいだった。早く美由紀に会いたい。話がしたい。その強烈な思いが、僕を激しく突き動かしていた。
それに、もう一つ。
僕を動かしていたのは、焦りだった。
「ずっと覚えている」なんて美由紀には言ったけど、人間はどうしても忘れてしまうものだ。日が経つにつれ、彼女の印象はどんどん薄れていく。僕が彼女を十分覚えている間に、「彼女」を作り上げなくてはならない。なんで人間はコンピュータのようにずっと記憶を留めておくことができないのだろう。僕は人間の特性を呪った。
そして、開発から半年後。
ようやく最低限の機能を実現するシステムが完成した。僕はマイクに向かって話しかける。
「おはよう、美由紀」
『おはようございます、孝之さん』
スピーカーから転がりだしたその声は、本物の美由紀とは似ても似つかず、感情も全く込められていない。だけど、胸の中に熱いものがこみ上げてくる。
視界が歪む。僕は拳で涙を拭った。
ここからが、スタートだ。ボットである「美由紀」と過ごす、毎日の。
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