第58話 ゼロの過去
「おはよう」
僕はその声に目覚めた。
霧が立ち込めている。目の前には、巨大な檻があり、僕はその目の前で椅子に座っていた。
「‼︎」
檻の中から目が二つギロリとこちらを見ている。中は真っ暗で姿は見えない。
「なんだここは? 僕は死んだはずじゃ?」
「よくきたな、ロスト・ゼロ。これからそれがお前の名だ」
「名前? よくわからないが、そんなものを勝手に決められても困る。それに僕の質問に答えてないな。記憶が正しければ、僕は死んだはずだ。ここは地獄か?」
その問いの意味がわからなかったのか、檻の中の何者かは、五秒ほど沈黙した。
「はっはっはっ。そうだな。ゼロよ。残念ながら苦しさはない。それに地獄なんてものはこの世界にはない。あるのは光と影だ。お前には期待しているぞ」
「なんの話だ? ていうかそういうお前は誰だ?」
「おっと自己紹介が遅れたね。私の名はアース・フレイ・ゴッド。かつてこの世界を収めていた神さ」
檻の中の人物はそう言って手を広げた。
「かつてということは、今は違うのか?」
「おっ、さすがは前世でエリートだったことはあるね。そうさ少し昔話をしようか」
そう言ったフレイが語った内容は、僕にとってどこか奇妙で、不思議なファンタジー世界の因縁にまつわる話だった。
「ゼロくん。きみには私が渡せる中で最高の100万の魔力量と、アース家に伝わる最強の黒魔術を与える。きみには期待しているよ」
突如、座っているゼロの前に漆黒の渦が巻き起こった。
「なんだ⁉︎」
渦はゼロの周りを旋回し始める。そして徐々に縮まり、ゼロを飲み込んだ。
体に吸い込まれる力にゼロは覚醒した。
これが黒魔術か………。
全ての渦が体に入った時、俺は椅子ではなく、地面に伏せていた。
今度は死んでいない。
僕は腕に力を込めてゆっくりと状態を起こし、立ち上がった。
「なるほど、状況は飲み込めた。ちょうど僕は王になりたいと願っていたんだ。契約成立だな。フレイ」
「頼んだぞゼロ。必ず白魔術を倒し、黒が支配する世界を作るのだ」
フレイは檻の中で指パッチンをした。すると、全ての視界が真っ黒になった。
オギャーオギャー。僕は目も開けずに泣いていた。
体が小さい。
「おお………生まれたぞ」
「なんと、この子が将来モノクロ帝国を背負われるお方になるのですね!」
「ああ、なんともりりしい魔力量だ。これは才能があるぞ」
どうやら僕は生まれたての赤ん坊からやり直しらしい。
僕は声が聞こえたのが気になって、目を開けた。
そこには、出産のためベッドに横たわった母親とそれを見守る父親。そしてモノクロ帝国に使えるメイドや、執事たちの前だった。
「はじめまして、私はロスト・クロエ。あなたの母親よ。これからよろしくね」
母が満身創痍の中、ウインクして僕を掲げた。
「ほら、あなたも挨拶して」
「おお、俺……じゃなくてパパの名前は、ロスト・ディラン。このモノクロ帝国の皇帝だ。そしてきみが次世代の皇帝になるのだ」
僕にはフレンのおかげなのか、生まれながらに異世界の言語が理解できた。
そして僕は第二の人生でもエリートっぷりを発揮した。モノクロ帝国中のあらゆる書物を読み解き、わずか五歳で黒魔術をマスターした。
「よくやったゼロよ。もう本題に入っても良さそうだ」
僕はあの日から五年ぶりに、フレイに呼び出され檻の前に立っていた。
「この世界には勇者と呼ばれる存在がいてな。かつて世界中で暴れていたドラゴンどもを魔術を使って沈めたのだ。名はオズワルド。彼もまた異世界転生者だ」
「………‼︎ どういうことだ。僕は一人じゃなかったのか?」
「ああ………異世界転生魔術は本来、白魔術の神オール・リンス・ゴッドが開発した魔術だった。世界を変えたオズワルドは勇者と崇められた。こいつだ。こいつさえいなくなれば、我々黒の時代がくる」
「僕が世界の王になれるのか?」
「もちろんだ」
フレイはニヤリと笑った。
「分かった。エリートから王へ必ず上り詰めてやるよ」
そう言って僕は檻があるこの部屋で唯一の扉から出て行こうとした。扉を開けると再び世界に戻れる仕組みだ。
「まぁ待てよ。まだ話は終わっていない」
取ってをつかんだ僕は動きを止めた。
「なんだ」
「オズワルドを倒してここから俺を解放してくれ。そうしたらもっとお前の理想に近づくだろう」
「分かった。期待はせずに待っていてくれ」
僕はそう言って扉を開け、光り輝く中に入った。そしてすぐにモノクロ帝国のベッドで目覚めた。
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「で、なんで俺をここに呼び寄せたんだよ。せっかく気持ちよく寝てたのに」
俺は大きくあくびをした。
目の前の階段の上では、なんと優雅にお風呂に入っているリンス・ゴッドの姿があった。
「なんだロゼ。こっちを見るでない。私は神といえど人間の身なりをしておる。プライバシーというものがあってだな」
そう言って急に風呂の中で立ち上がった。もちろん素っ裸である。
「わっ………あっ………クソ、服着ろよ」
俺は咄嗟の反応で目を伏せた。と言っても少し見たいという欲がなかったかといえば嘘になる。
「今から服着るから私がいいと言うまでそのままにしておいてね」
「分かったよ」
リンスは少しイラついている俺の横を通りすぎた。そして後ろのハンガーラックにかかってある服を着た。
「はい! もう顔あげていいよ」
「まったく、なんなんだよ」
俺は頭を掻きむしった。
「そういうカリカリしたことは言わないの! 今日はせっかくあなたを褒めようと思ったんだから」
リンスが俺に顔を近づけていった。ほのかなシャンプーの香りがする。前世から引き続き童貞の俺は、本能的にエロさを感じる。だが、レディの手前そんなことは顔に出さずに冷静を演じた。
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