第55話 祝福

「えーでは、いよいよロゼ国王様より就任の挨拶になります。みなさまどうかご静粛に願います」

 ケイブが片膝をついて俺にマイクを差し出してきた。俺はマイクを受け取ると、一度皆をゆっくりと見渡した。これは前世で聴取の前で喋る前、注目を浴びるために一度黙まった方がいいとテレビで誰かが言っていたからだ。まさか落ちこぼれだった俺にそんな機会が来るとは思っても見なかった。

 だが、この間俺はめちゃくちゃ緊張してしまった。前世でここまでの人間の視線を浴びたことなど一度もない。落ち着け俺。深呼吸だ。深呼吸をしろ。

 スゥー

「あーあー。この度クリスタル王国の王に就任しました、ロゼです。どうもよろしくお願いします」

「ウオオオオオオーーー」

「ロゼ様〜」

 観衆が沸く。

 俺は気づいた。いざしゃべってしまうと、あれこれ考えていることが一本に集中でした。もう頭が真っ白になっていた前世とは違う。

「みなさん、僕が王になったからには前国王のサーロンのような利益を貪り、人を見ない政治はやめて、全てを国民の幸福のためにささげます。クリスタル王国で古くからある身分制の撤廃。そしてあらゆる種族を平等に扱い、必ず平和を築き上げます!」

「ウオオオオオオーーー」

 観衆が再び声を上げる。


 クリスタル王国の城内で聞いていた、ロゼの言葉を聞いてドディは涙を流した。戻ったくるのだ。あの頃の獣族とクリスタル王国の関係が。

 ドディの横ではミンディも拍手をしている。


「はい、ではロゼ国王様ありがとうございます。ここでロゼ様にお祝いの言葉が送られます。エレナ様」

 ケイブは次にベランダの端で座っていたエレナにマイクを手渡す。

 エレナは立ち上がって俺の横にきた。そして、頭を撫でる。俺は思わずエレナの方を向いた。優しく微笑みかけるエレナと目があった。

「えー皆様、ロゼ国王の母親であるエレナです。まずはロゼ国王様、こんなに立派になられて私はとても感動しています。すごく賢く、強い子です。きっとよりクリスタル王国を発展させていけるでしょう。そして、このたびはサーロンのことで国民の皆様を不安にさせてしまいごめんなさい。サーロンは権利の振り翳し、さまざまな不正を働いていました。でも敵は先のクリスタル工場での戦いで全て壊滅しました。サーロンは国外逃亡でここにはいません。戻ってきても居場所はない。これからはロゼ国王様の時代です」

 エレナの言葉を静かに聞いていた観衆から、拍手が巻き起こる。

「はい、エレナ様。ありがとうございます。では続いて我が国の相談役でもある、マハダ総局長。最後の締めのあいさつをお願いします」

 ケイブが俺の後ろにいたマハダにマイクを渡した。マハダはマイクを受け取ると、俺の横までやってきた。俺はちらっとその姿を見た。魔力量45万。サウザーより高い。


 俺はほとんどこのマハダという人物と話したことがなかった。サーロン一派だと勝手に思っていたし、ほとんどクリスタル城の一室からでない。丸坊主の頭と話恐らく60歳は過ぎているであろう年齢から、前世の修行僧のイメージがある。


「総局長のマハダです。まず言いたいのは、ロゼ様で、私が扱えした国王は四人目ですが、その中で最もポテンシャルがある。これは間違いありません。なんと言っても、オズワルド様以来の白魔術と魔力量100万は、天からの贈り物。そして、優しさも持っておる。私はロゼ国王様が今までクリスタル王国で、見て見ぬ振りをし続けてきた、下級国民ジャラスや獣族と積極的に関わり、仲間に引き入れている。これは素晴らしいことです。この優しさが強さとなり、クリスタル王国を必ずやより発展させていくはずです。クリスタル王国の未来に幸あれ」

 そう言ってマハダは指パッチンした。すると周囲の空気が変わった。俺は気づいた。マハダの目線の先、つまり観衆の上空に魔力が漂っている。そしてそれは弾けたように感じた。

 ボンボン、バンバン!

 花火だ。あちらこちらに、クリスタル王国の紋章やさらには俺の顔、そしてたくさんのはカラフルな色の花火が弾けては消えていった。

 誰もがそれに見惚れた。魔力でこんなこともできるのか。俺は素直に感心したのだった。


 ハイゼンことオズワルドは全ての様子を遥か上空から見ていた。乗っているのは、光臨龍こうりんりゅうロガンド。これはかつて前魔軍局局長で、シルバーエンジェルとしてサウザーたちを襲ったベルギアンが負けたドラゴンだ。

 魔力量は80万

 それをオズワルドは手懐けていたのだ。

 マハダもえらく熱が入っているな。オズワルドは仮面の中の瞳を輝かせながら思った。

 光臨龍こうりんりゅうロガンドには、一時的に魔力を0にして姿を消す魔術がある。今のオズワルドの存在は透明であり、花火のために空を見上げても誰も探知できないだろう。

「ロゼよ。これからが勝負だな。俺はクリスタル王国の国民の前に姿を見せるわけにはいかなのでね。でも見えないところでサポートはしてあげるよ。そろそろ奴が動くからだし………」

 オズワルドはそう独り言を呟いて近くの雲を触った。もしも神がいるならはやく現れて欲しい。そして誰も巻き込まず、自分たちで決着をつけて欲しい。オズワルドは心の中で願った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る