第54話 新国王就任式
クリスタル王国の練習場は、人でごった返していた。魔軍局の訓練が再開されたのだ。サウザーとコランが声を出して軍をまとめている。
俺はその横を通り過ぎて、城の西側に向かった。そこには新たな局となる建物が建てられている途中だった。名前は獣族局である。
ブースター軍団と移住賛成派がまず、そこで平和条約を結ぶことになっている。いずれは、全ての獣族が、クリスタル王国城下町で自由に暮らせるようにする。俺の目標の一つだった。
「ロゼ国王様。いよいよ明日お披露目ですね!」
「あっフィオナ! 怪我は良くなったんだ」
フィオナは赤と白を基調としたドレスを着ている。さらにおしゃれな帽子を被り、猫耳が帽子から出る仕組みになっている。
「そうよ。あなたが助けてくれたおかげだね」
「えっ、ええ。まぁ俺のおかげかなぁ」
うわっ、意中の女の子から褒められてんのに、動揺してしまった……。心の中で前世の37歳童貞、女経験なしの自分を殴った。
「でもクリスタル工場の戦いでたくさんの仲間が死んじゃった。悲しい」
フィオナの顔が、戦いの後のたくさんの死体を思い出して曇った。
「ザッカリー、ポンチに関しては残念だったとしかいいよがない。俺の力も及ばなかった。すまない」
「ううん。ロゼ国王様が謝る必要はないよ。私も魔力の戦いだったから仕方がないと割り切ってる。それにこれからが楽しみだから!」
「楽しみって?」
「そりゃ、ロゼ国王様はめちゃくちゃ魔力量が高くて、しかも強いし優しい。みんな期待で溢れているんだよ」
「そっ、そっか。俺も頑張らないとなぁ」
俺は内心、たじたじだった。ただでさえ可愛いフィオナに励まされているのだ。ここで頑張らなければ、異世界に来た意味がない。と思いたかった。
「じゃあ俺はそろそろ、明日の就任式の予行練習があるから、またね!」
「あっ、頑張って〜。バイバイ!」
俺はフィオナが笑顔で手を振ってくる中、るんるんで城の中は戻った。
次の日。ロゼの国王就任式当日となった。クリスタル王国中からたくさんの国民が見に来てくれた。
「それにしてもも考えましたねロゼ様」
「どうしたんだ、サウザー」
俺はサウザーに聞き返した。サウザーは魔軍局局長として、今回の就任式の護衛隊長を務めていた。
「
「ちょっと示しただけだよ。実際に身分制の撤廃はまだ、サーロン派のメンバーを炙り出してからだ」
俺は王の印となる服に袖を通した。近くにある鏡を見ると、俺もついにこの世界で出世したのだと実感した。あの時の前世のくそみたいな生活とは大違いだ。決して届かなかったことが目の前で起きている。
クリスタル城の真ん中よりも少し高い場時には、就任式の時にだけ開く、特別で巨大なとびらがあった。俺は王冠を被り、まだ閉まっているそのとびらの前に立つ。
とびらの両側には、クリスタル王国の魔軍局の兵士二人がそれぞれ開く役割を担っている。俺は腕を伸ばして、合図を出した。それと同時に兵士二人は、力を込めてとびらを開きはじめた。
開いた瞬間から城を揺るがすほどの歓声が聞こえてくる。どこからか現実世界でいうところの紙吹雪のようなものが、魔術で作られてあちらこちらに舞っている。
空が青いな。俺が最初に出た感想だった。そして、目下に広がる人、人、そして獣族。
それらがクリスタル王国の城の城壁の内側と、さらにその外側に続くクリスタル王国城下町まで観衆で埋め尽くされていた。
とびらが全て開かれると、俺は歩いて、皆に姿が見えるようベランダに向かった。背後から護衛のサウザーとコランがついてきている。
俺は両足を揃えて立ち止まると、皆に向かって手を振った。またもや大歓声が起こる。
城下町の方から音楽が聞こえてきた。青、赤、緑の映像の魔石を持った魔力記者たちが、待っていたとばかりに、俺に魔石をかざして録画してくる。
するとベランダにいる俺の横に、司会役の資材局局長ケイブがやってきた。魔石で作られたマイクを持って語りかけた。
「えーでは、みなさんお待ちかねだと思いますが、ついにこの時がやってまいりました。本来なら就任式は前サーロン国王からの継承という形を取るため、前国王も出席願うのですが、残念ながら国外逃亡によって………」
「その話しするのかよ」
「まぁまぁ、事実を言った方が後々政治的に良かったりするじゃないですか」
城下町の宿泊所の屋上から見ていた、リスターの言葉をリックは戒めた。
「なんだよリック。俺たち魔軍局の隊長レベルの人間はいつも危険ととなり合わせなんだ。少しは愚痴らせてくれよ」
「それは俺たちもだが?」
リックが振り返るとゾウの獣族であるダーロが、タルに入った水だか酒だかわからない液体を一気に飲み干した。
「みんな今回の戦いで仲間を失ったんだ。だが、それは平和に必要なシロモノだった。シルバーエンジェルとサーロン一派が組んだのはかなり厄介だった。だが最終的に勝ったのは俺たちだ。そしてロゼ様が国王になられた。これからは必ず良くなる」
「ダーロさん、僕もそう思います」
リックは遠くのロゼを見つめた。これだけの国民がついているんだ。きっとできるよ。そう心の中でつぶやいた。
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