第53話 一夜明け
サーロンは飛んできた指輪を掴んだ。
「馬鹿女が……。ふん、まぁいい。ロゼもティムも、俺よりはこの国をうまく回せるだろう。だが、俺はお前らの言うことは聞かんぞ。さらばだ。爆ぜろ白きドラゴン」
サーロンは大声で叫んだ。するとエレナの魔術にやられて、ぐったりしていた白いドラゴンは、皮膚の色と同じく白い光を発した。ドラゴンは背中にある大きな翼を、何度かバサバサと上下に動かした。その都度に風が巻き起こる。風は入り乱れて竜巻に変わった。周囲にいるエレナやアランら
「そうか……このドラゴン。ホワイトゼウスのかけらか……お前が受け継いでいたとはな…サーロン」
土煙と猛烈な風によって身動きが取れないマハダは、去っていくドラゴンを見上げながらそう言った。
風が治まる頃にはどこにもサーロンの姿はなかった。
既に感知魔術にも反応がない。どうやら、随分と遠くに行ってしまったのだろう。
「まぁ、良い。サーロンはこれでいなくなった。ロゼ様は不本意かもしれんが、間違いなく王の器じゃ。戦いが終わったら即位式になるだろうのう」
「ええ、後はクリスタル工場がうまく行くかですが……」
「そこはハイゼンに任せたのじゃ。あの男ならなんとかしてくれるだろう」
マハダとエレナはそう言った後、やはり気掛かりなのかクリスタル工場がある方角に目を向けた。
「まぁまぁ、まだ納得できていない国民もいるでしょう。ここはせめて
「そうね、アラン。まだサーロン派がいないとは限らないし」
「なら、私の番だな」
周りにいた数多くの
「おお、通信局のルーテ局長。これは助かるぞ」
「私が国にいる
「決まりじゃのう。それから弟のティムにはワシから言っておく」
マハダは最後に言った。
クリスタル工場での戦いは完全に終息に向かっていた。移住賛成派のリーダーであるミンディとブースター軍団の長ドディは俺が間に立って和解という形になった。疲労が顔に出ているなと俺は思った。お互いに仲間同士で殺し合ったのだ。しばらくは心と体の傷を癒すところからだろう。
ハイゼンの後に続いて入場してきた魔軍局の軍勢達は複数に分かれて責務をこなしていた。その中でも、シルバーエンジェルや今回の事件を引き起こした
クリスタル工場内部でフィオナに倒され、気絶していたドウマンはサウザーによって直接、連れてこられた。そのほかの方々で伸びているシルバーエンジェルも次々に鎖でぐるぐる巻きにされ、暗唱できないように、口をテープで貼り付けにして連行されていった。
一方でいつの間にか姿を消した者達もいた。俺がクリスタル工場で倒したセシルとガブリエラだ。この2人は黒魔術の使い手だった。だから、なんらかの魔術で姿を消したのだとサウザーは見解を述べた。
クリスタル工場でチークとアントに雇われていた従業員達も取り敢えずは拘束された。と言っても全員がサウザーに倒されていたため、息があるのは数名しか居なかった。リックなんかはそのことに怯えていたが、これが戦いだとサウザーは返事をした。
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激しい戦いから一夜明け、クリスタル王国の城下町にある、病院は大忙しだった。戦いに行った魔軍局と獣族をばらけて入院させたのだ。クリスタル王国にいる総勢500人の医療局の人間が、エレナを筆頭に魔術による治療を行っている。幸い現在の医療局の魔術の実力は、死んでいない人間はほとんど意識を取り戻すことができるほどだった。さらに腕や足がなくなった場合でも、くっつけて元に戻すこともできた。
その様子を見て、俺は現実世界よりも魔術は便利なものなのだと思った。俺自身も体の至る所に打撲を受けたが、クリスタル工場の帰り道で、エレナから受けた魔術によって痛みは全て吹き飛んでいた。
「ロゼ様〜。サーロン前国王のお部屋の整理がつきました。クリスタル王国の法律上、次はロゼ様が王におなりになるので、ぜひご入居なさいませ」
モニカがやってきそう言った。聞けばあのくそ親父、と言ってももう親父でもないからサーロン呼びするが、俺がいない間に城の女に手をあげまくったらしい。
モニカもその一人だそうだ。どこに逃げたかは知らないが、次あったら俺の手でぶっ飛ばしてやる。
俺はそう誓った。
王の部屋に着くと、懐かしい顔ぶれがいた。モルとピュナだ。どちらも教育係として、幼少期の俺のお世話をしたり、この国の言語や歴史や科学を教えてもらった。
「お二人とも久しぶりですね。随分とお世話になりました」
「何をおっしゃいますか。ロゼ様が王国になられるとのことで、このピュナはとっても嬉しいです」
ピュナは黒眼鏡をくいくいさせながら自慢げに言った。
「ロゼ様は僕の授業中よく寝てたんだもんな。でも今や立派な王。僕の科学者としての新魔術開発にも余計力が入るだもな」
モルは出会ってから数年が経ち、さらにモゴモゴというようになった。まんまるお相撲さんのような体型もどこか似合っている。
「ええっ、モルさんの授業寝てたんですか?勿体無い! この人、実はすごい人なのよ」
ピュナがびっくりして言った。
「いえいえ、その前のサウザーさんの稽古が厳しかったので疲れてただけですよ」
俺はなんとか言い訳して二人のちくちくした攻撃をかわすと、何事もなかったように窓の外を見た。クリスタル王国の街並みは今日も美しかった。
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