第52話 終焉に向けて

 俺はブースター軍団と移住賛成派を説得した直後、空中で強大な魔力量の衝撃波を感じて空を見上げた。

 すると1人の男が落ちてくるのが見える。地上へと頭から真っ逆さまに落ちてくる姿に俺見覚えがあった。アフロヘアーのその男はかつて、フィオナを連れ去ったと公言しにきた者だ。

 フッと俺は背後に気配を感じた。感知魔術を発動していたはずなのに、何処からどうやって近づいてきたのか分からなかった。いや、衝撃波を感じた空中から、目にまとまらないスピードで俺の背後にきたのだ。俺はそれが味方と分かっていなかった時のことを想像して冷や汗をかいた。

 俺の周りにいたドディやミンディを含む獣族も同じことを思ったのだろう。びっくりしたような反応を見せている。背後現れたのはハイゼンだった。

「ロゼ様、気づかれましたか。天空に意識を向けておられたので、あえて声はお掛けになりませんでした。背後からすみません」

「今のはハイゼンさんがやったのですね?」

 俺は振り返って聞いた。

「ええ、そしてあと数秒で魔軍局本体が到着します。それにしても、驚きましたよ」

「何がですか?」

「まさか、あの厄介な暗殺部隊。シルバーエンジェルを全て仕留めるとは。あっ、サウザー局長も来たみたいだし、俺は軍の指揮に戻ります」

 そう言ってハイゼンは魔術で空中を浮遊しながら、どこかに行ってしまった。俺はその後ろ姿を見て、魔力量を計測した。魔力量20万となっている。だが、さっきの攻撃はその実力で出せる技ではなかったような気がした。

「怪我はないか。ロゼ様」

「あ、サウザーさんこそ、大丈夫?」

 サウザーは三尖刀の刃のついていない方を地面にして杖のように体を支えながら歩いていて来た。既に魔力量は残り1万になっている。残りの従業員を全て一人でやっていたのだ。それぐらいになっていてもおかしくないだろう。

「俺は感動しましたよ。獣族の争いを止めることができるとは……。ロゼ様にはやはり今すぐにでも、クリスタル王国の国王になってもらいたい」

「そんな、今すぐは無理でしょ。サーロン国王がいることだし」

「そのサーロン国王は恐らく今頃、アランやマハダの爺さんによって詰め寄られているだろう。我々はここを治めて、すぐにロゼ様が生きていることが分かったら、国民もクーデターを認めてくれるはずです」

「ク、クーデターって。出来るだけそのような形で王にはならたくないのだが」

 俺は少し動揺してしまった。前世でもそうだが、あまり暴力的なやり方は好きではない。

「サーロンは既に人の道に反した行為をいくつもやっています。ロゼ様には、王になる決断を。もちろん、ゆっくりと考えてくださいね」

 サウザーはそう言って拳を手のひらで受け止めるポーズをした。(クリスタル王国では、王に自身の願いを叶えてもらうときにそのポーズをするのが慣わしとなっている)



 サーロンは嫌な感じがした。近くに殺気を感じる。ここはクリスタル城の中だ。自分は王様だ。本来はあり得ないことである。だが、クリスタル工場での作戦が失敗に終わったらどうなるか。ロゼが、あるいはロゼを慕っている者たちが復讐しに来るだろう。自分はそれなりのことをやってきたと言う自覚がある。

 サーロンはざっと部屋を見渡した。近くにある鞄に大事な物を詰めるだけ詰める。クリスタル王国の特産品であるブランドの服や高級なお菓子。それらは別の国に行っても自らが王様であった証拠になる。もうここには戻ってこれないかも知れない。

「ミール、ハナ。これから俺の言う通りに動け。クリスタル王国を脱出するぞ」

「はい、ご主人様」

 サーロンはパンパンに膨れ上がった鞄を背負って立ち上がると、部屋にいた使用人二人に声をかけた。二人とも城下町でサーロンの遊郭で働いていたところをサーロンが声をかけた人物だった。


 サーロンはぶら下げていた白い魔石を取り出した。キング家の当主になったものだけに代々伝えられてきた魔石である。空いている窓から差し込む太陽に白い魔石を照らした。

「大いなる魔石よ。ドラゴンの魂よ。我をこの城から無事に出したまえ」

 サーロンの言葉と同時に窓の外に白いドラゴンが現れた。それは10年前にクリスタル王国を襲ったオロスターに比べると5分の1ぐらいのサイズしかない。しかし、3人が乗るには十分な大きさだった。

 サーロンは窓の枠に手をかけ、魔術で一気にドラゴンに乗り移った。

 ミール、ハナもそれに続いてドラゴンに乗った。

「行き先は…」

 それ以上先は喋れなかった。なぜなら、膨大な魔術が体にのしかかってきたからである。

医体衝撃炎メディカルリンク」魔力量7万

 それは細胞を内側から焼く魔術だった。ドラゴンも攻撃を喰らい、力無く落下していく。ドラゴンの上で落ちながら、サーロンは考えていた。これは我が妻、エレナの魔術だ。つまり、裏切りである。

 地面に激突したドラゴンはううっ…と唸り声を上げている。

 サーロンは周りを見渡した。エレナ、マハダ、アラン。その他の上級国民ジース

「お前達、自分が何をしているのか分かっているのだろうな……」

「それはこちらの質問じゃな。サーロン前国王よ。ロゼ様追放、クリスタル工場での紛争。獣族の件。全てクリスタル王国の歴史に泥を塗る違法行為じゃ。お前に王を名乗る資格はもうないぞ」

「なんだと、このくそジジイが。非合法こそが国を豊かにする方法だと言うのに」


 サーロンがそう言った後、エレナが前に出た。

「私は貴方この時より、縁を切ります。この指輪も返します」

 そう言ってエレナは指輪を外して、サーロンに投げつけた。

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