第51話

 -まさか、移住賛成派がこのタイミングで攻めてくるとは。想定外だ。

 ザッカリーとポンチを運び終えた後、先陣を切ってクリスタル工場の従業員と戦っていたダーロはそう思った。しかも後ろには負傷兵が多い。そこにはドディもいるが魔力量的にもこの大人数相手はできない。

 ブースター軍団は前と後ろに挟まれる格好になった。

「お前らぁ、ここが踏ん張りどころだ。従業員は既に指揮官を失って指揮が下がっている。ここは後ろの移住賛成派に集中するんだ」

ダーロはブースター軍団全体に聞こえるように叫んだ。

「いや、ダーロ。残りの従業員は俺1人で片付ける。お前らは移住賛成派に当たれ。なんとしても突破口を開くんだ」

 サウザーが近くに来て耳元で、そう言った。

「サウザーすまん」

 ダーロはブースター軍団全軍を率いて、背後から攻めてきた移住賛成派の元に向かっていった。


「さて、残り魔力量は20万か。まだまだいけるな」

 サウザーは向かってくる従業員に1人、三尖刀を構え迎え撃った。


 ドディは移住賛成派を次々と倒していた。獣族の群れを抜けたのは既に30年も昔のことだ。それでも寿命の長い獣族の特徴もあり、知った顔も多い。それが今や自分を敵と認識して攻撃してきている。

「ドディ、お前がブースター軍団の親玉だな」

 移住賛成派のリーダーであるミンディがブースター軍団を蹴散らしながらこちらに向かってきた。

「目を覚ませ、ミンディ。こんなことをして何になるというのだ」

 ドディは少ない魔力量ふらふらになりながらも、怒りを向けてからミンディと向かい合ってそう言った。

「それはこっちのセリフよ。この状況でどう言い訳するつもりかしら。あれだけ恩があるクリスタル王国を裏切るなんて。この逆賊が。獣族体術 獣破壊拳けものはかいけん」 魔力量3万

「まずいな」

 ドディは慌てて後ろに退いた。度重なる戦いで魔力量が少ないドディには避けることしか出来ない。

「お前にはうんざりだよドディ。昔の拠点の時も、なにかとルールを無視した行動ばかり。挙句の果てに、群れを抜けてこんなことをするなんてね」

「待てよミンディ。確かに俺は昔、獣族である自分も群れも嫌いだった。だが、ブースター軍団設立とは別の話だ。このままだと獣族という種族の存続が危うくなってくるぞ」

「それをお前がいうのか」

 ミンディはドディを完全に悪党だと決めつけた目で睨みつけた。キリンの獣族の力で首を伸ばした。振りかぶってドディに頭突きを繰り出そうとしている。

「クソ、やっぱり止まりはしないか」

 ドディはそう言って、冷や汗をかいた。


「そこ。もっとやれ。やっちまうんだ」

 ルーソンは殺し合いを始めたブースター軍団と移住賛成派を見て声を上げて喜んだ。

 ルーソンはこの世で最も珍しいとされている空間魔術の使い手だった。空間上に幻覚を見せたり、自分の姿を消すことができる。

 今は空中から透明になり、獣族の同士討ちを眺めている。魔術と話術で他人を動かして、クリスタル王国を守る。それがルーソンのやり方だ。ルーソンは今回の自分の仕事の出来に満足していた。

 すると、クリスタル工場の入り口から1人の子供が戦場に向かっている様子が見えた。

「おいおい、ありゃ一層面白くなってきたな」

 ルーソンは楽しそうに観戦を続けることを決めた。


白加速しろのかそく」 魔力量1万

 俺は全速力で走った。既に間に合ってはいない。この戦いは本来ならシルバーエンジェルとドウマンを止めれば終わるはずだった。少しでも無駄な血を流させない為に俺はやらなければならない。

 工場の外にはサウザーが膝をついていた。側にはおびただしい数の従業員が横たわっている。

「はあはあ……俺はどうやら魔力が底をついた。後は任せる」

「良し」

 俺はサウザーとすれ違い様に一言そう言った。


 前を見るとドディがキリンの獣族と戦いを繰り広げている。

 俺は息を思いっきり吸い込んだ。そしてそのまま、前世で発したことのない声を出した。

「止まってください!」

 その一言が、ブースター軍団と移住賛成派の意識を持っていき、注目を集めた。


「……この子は…? 死んだはずじゃ?」

 ミンディが俺ののことを凝視してくる。

「はぁはぁ……生きていたかロゼ」

 ドディはそう言った。

「どういうことだ。何故生きているんだ?」

「ならあれがサーロンの息子?」

 その他の移住賛成派からは驚きの声が聞こえてくる。

 

 俺は皆が注目する中、ドディとミンディの間に割って立った。

「皆さん、無駄な争いはやめて下さい!! 確かにクリスタル王国は狩猟ハンティングや差別など色々な問題があります! でも……このロゼが王になったら必ず変えます。狩猟ハンティングも身分差別も無くします!!!」

 そう、俺が異世界転生して見てきたこの国の人たちは、全員が悪人ではなかった。

「皆んな、騙されていますよ……!!! 全てはサーロン国王が上級国民ジースと画策してたこと! 獣族を殲滅させ…俺を裏で殺害する為にサーロン国王が全て仕組んだんです……!! 目を覚まして下さい!」

俺は出来る最大限の声で叫んだ。

「そんな……私たちは騙されていた?」

 ミンディが転がった獣族の死体を目にして悔しがった。

「……そういうことだ、ミンディ。我々はロゼに手を貸していただけ。もう手を引いてくれないか」

ブースター軍団と移住賛成派。お互いの手が止まった。戦場となっていたクリスタル工場が静まり返る。


「あーあ、あのガキにあんなカリスマ性があったとは」

上空で見ていたルーソンは吐き捨てるように言った。何も無い空中でカメレオンのようにルーソンが姿を現すと、すぐに頭から戦場に急降下した。

「今、殺すべきだ」

「そうはさせるか」

 急降下しているルーソンの横に突然仮面の男が現れた。ハイゼンだ。

「なんだと?」

正義魔拳ジャストキング」 魔力量30万

 ハイゼンは急降下している最中の無防備な腹を思いっきり殴りつけた。一瞬、白い衝撃波を放ち、ルーソンは体内に強いダメージを受ける。

「ガハッ……」

 気絶したルーソンは地面に落下していった。

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