第50話
クリスタル工場正面の戦いはシルバーエンジェルの全滅。そして
ブースター軍団も半数ほどが死亡した。だが、工場の従業員の被害はもっと多いだろう。実戦経験と身体能力の差が出たと、前線で未だに戦っている仲間を見ながら、ドディは思った。
「総大将。ドナ、メリッサ、レイの三人は傷が多いものの、治療すれば元に戻るレベルです。しかし……ザッカリーとポンチはやはりダメです…。既に息を引き取っています」
傷ついた仲間を象の広い背中で運んで来たダーロが言った。
ブースター軍団の死の報告が絶えず、悲しみに暮れている者もいる。
「そうか…動けるもので2人を寝かしてやってくれ」
「はっ」
近くにいたブースター軍団数人がすぐに、ダーロの背中から死んだ2人を下ろした。
「寝て覚めたら、生きてた。なんてことがあったらいいのですけどね」
そう言ってダーロは再び前線に戻って行った。
ドディもブースター軍団設立時からの仲間である2人の死に心が動かない訳は無かった。だが、まだ戦いは終わっていない。感情的になるにはまだ早いだろう。残りはロゼ達が無事に問題を解決したかどうかだ。
工場内の様子を見ようとドディは感知魔術を発動した。
その時、ドディは背後に違和感を感じた。とてつもない量の魔力が存在している。いや、物凄い勢いで近づいてくる。
「おい、お前ら。工場の背後から何か来るぞ。動けるものは戦闘準備を取れ」
ドディは大声で怪我人の治療に当たっていたブースター軍団に指示を出した。
地響きが聞こえてくる。この匂い。ここにいるブースター軍団なら誰もが分かっただろう。かつて同胞だった者たちの匂いだ。
次第に森の中から聞こえる地響きが歓声に変わっていく。あらゆる種の獣族が姿を見せた。最前線でこちらを睨んでいるミンディを見つめた。ドディは後ろめたい気持ちが蘇ってきた。
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「ちょっと、弱すぎなぁい。あたしは世界最強の魔力をあなたに与えたつもりだったんだけど」
暗闇からリンスの声が聞こえる。俺は目を覚ました。
地面が水平に見える。上半身だけ身体を起こした。どうやら俺は倒れていたらしい。
ここは俺が異世界に飛ばされる前にいた場所だ。正確に言うと前世で死んでから初めてきた場所。そう“異世界のはざま”だ。
高い階段の上にリンスが玉座のような椅子に座っている。前には机があり、何やら美味そうなご飯を食べていた。
「まったく、飯食ってる場合かよ。人が倒れてる時に」
「あなたの肉体はまだ向こう側よ。今は精神だけこっちに引っ張ってきたの」
リンスはご飯を頬張り、手元で口を押さえながら喋った。
「そっか……。あっ、てか聞きたいことがあるんだった」
「何よ」
「俺はあんたの力で白魔術を使えるようになった。それは感謝してる。あの世界じゃ白魔術を扱えるようになってからは殆どの魔術に打ち勝てる様になった。でも、もう一つ白魔術と同等の力を持っている魔術があった。それが黒魔術だ」
俺はそう言ってセシルを思い出した。あいつの結界によって魔力量を半減させられた。それがなかったら今頃クリスタル工場でも白魔術で無双できただろう。
「へぇ〜もう黒魔術が復活してきているんだ。以外にあの子も頑張ってるんだな」
リンスはご飯を食べていた箸を止めて、少し考え方をするかのように顎に手を当てた。
「なんだ……心当たりでもあんのかよ」
「まぁね。もう喋ってもいい頃か」
そう言ってリンスは指パッチンをした。
俺の前に白い光でできたテレビ画面のようなものが現れた。そこに俺と同い年ぐらいの男の子が写っている。
「その子はモノクロ帝国に異世界転生したゼロ。黒魔術の使い手だよ」
「黒魔術の異世界転生? 転生してきたのは俺だけじゃなかったのかよ」
「正確に言うとあなたの方が3年早かった。でも、ゼロは前世でも成績優秀のエリートだったの。あなたがこの子を知らないのに黒魔術を知ってるってことは、既に他人に力を与える能力を得たということ。これは色々ヤバいかもね」
「エ……エリートだと」
俺は動揺した。エリートとか天才とか俺はそういうのが大嫌いなのだ。だから、異世界転生してからはむそう無双できると思っていたのに。邪魔が入ってしまったか。
「でも、大丈夫だよ。今は白魔術がこの世の王だから。あ、私は女神だけど」
俺はリンスの話が耳に入っていなかった。頭の中では前世でエリートとやらに後ろ指を刺された思い出が、何度も何度も抑えようとしては這い出してくる。
「後一つ。私があなたを呼び出した理由だけど、白魔術の纏魔術のことね。あれは最強の防御なんだけど、使いすぎると異世界自体に負担がかかる。そして遂には肉体が影に飲み込まれるかもしれないよ。だから、本当にヤバい時にしか使わないこと」
そう言ってリンスは手のひらを俺に向けた。俺は少し心に引っかかる話を耳にして、ハッと我に帰った。だが、先に口を開いたのはリンスの方だった。
「じゃ、どうやら助けが来たみたいだし、そろそろだね」
「お、おい。待てよ。なんだよ。異世界に負担がかかるって?」
俺は問いを投げかけた。
しかし、リンスが答える間も無く、視界が白く見えなくなり消えていった。
「ロゼ君、ロゼ君。早く起きて」
フィオナの声が聞こえてくる。
俺はハッと飛び起きた。どうやら気絶していたらしい。
「そうだ…ドウマンは?」
「あいつならあたしが倒した。それより今はもっとヤバいことが起きてるよ」
「なっ……そのヤバいことって?」
俺は頭の中を整理しながら聞いた。
「ここはクリスタル工場の入り口じゃ。そして、あそこに見える戦っているのが獣族の移住賛成派見えるじゃろ。みんな騙されてあるのじゃ。このままじゃと獣族は絶滅するぞ」
ジルはそう言ってブースター軍団と移住賛成派の戦いの方を指した。
俺は考えるより先に立ち上がった。身体を見るとどこから持ってきたのか包帯を巻いていた。外から新たな歓声が聞こえる。移住賛成派とブースター軍団を止める為、俺は単身で戦場の中心に向かうことを決めた。
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