第49話

 サーロンは最上階にある自室から窓の外を眺めていた。自分自身がシルバーエンジェルやドウマンら上級国民ジースに提示したシナリオはロゼの殺害と獣族の壊滅。それを同時に成功させる計画の本番はシルバーエンジェルでもクリスタル工場の従業員との戦いではない。

 連絡用の赤い魔石が光った。

「サーロン国王様、手はず通り、移住賛成派のリーダーであるミンディと折り合いをつけましたぜ。これから、クリスタル王国に全軍1万で戦いに行くことに決まりました。これで見事な同士討ちですね」

 魔石の向こうからシルバーエンジェルのルーソンの声が聞こえてきた。サーロンは安心したように机に頬杖をついた。

「俺のシナリオを実現させるのが、お前らシルバーエンジェルだろう。契約通り権力は偽りで書き換えろ」

「権力は作るもの。全て俺が居ればなんとかなりますよ」

 ルーソンが自信を孕んだ声で返してくる。ルーソンはなんと言ってもサーロンにとって最高の仕事人だった。それは本人も分かっているようだ。

 なんと言っても幼い頃、ルーソンはその特殊な魔術をサーロンに使用した。サーロンが魔術の訓練をサボっていたことがバレなかっただけでなく、成績もトップになるように書き換えたのだ。

「いつも通り頼んだ」

 そう言ってサーロンは赤い魔石の着信を切った。


 ルーソンがサーロンとの通信を切って改めて思ったのは、アニマリー平原は殺気立っているな、ということだった。獣族の内、子供とその片親を除く全てが集結していた。移住賛成派と言われる彼らは、ブースター軍団と戦う準備をしているのだ。

 ルーソンの正面でキリンの獣族であるミンディは集まった獣族の先頭に立ち、皆を鼓舞していた。

「皆のもの、今日は良く集まってくれた。クリスタル王国の情報によると、ブースター軍団は我々を裏切ったどころか、恩人であるクリスタル王国の私有物の一つ、クリスタル工場で暴れている模様。我々はこのような勝手な行為を行うブースター軍団に、制裁を加える。なんと今回は、クリスタル王国の魔軍局も工場にて加勢するとのことだ。今こそ、害をなすブースター軍団を滅ぼそうぞ」

「オオーーー」

 ミンディの演説に、アニマリー平原に集まった移住賛成派の獣族は一斉に気合いの入った返事をした。

 ミンディの後ろから、その様子を眺めていたルーソンは、計画が上手くいっていることを実感した。

「では、ミンディさん。俺が工場までの道を案内します。ブースター軍団は我々にとっても逆族ですからね。最後まで協力しますよ」

 ルーソンは後ろからミンディに言葉をかけた。ミンディは振り返る。

「ルーソンさんには資金や情報面からもいつも感謝しています。それどころか、我々の問題であるブースター軍団討伐にも手を貸してくださるとは。この戦いの後、大きな礼をさせてくださいね」

 -戦いの後、お前らが生き残っていたらな。

 ルーソンは心の中で、そう呟いた。サーロンの計画では獣族はここで全滅してもらうことになっている。俺は戦場に着いたら、生き残っているシルバーエンジェルのメンバーと合流する。そしてロゼの殺害の手伝いをするつもりだった。

 そんなことも知らずに、馬鹿な奴らだ。ウェルトが言っていた通り、脳まで筋肉でできているのだろう。

「健闘を祈ります」

 ルーソンは最後に思ってもないことを口にして、アニマリー平原を出発した。



 クリスタル王国の魔軍局の室内練習場2階は、休憩スペースになっている。複数の丸いテーブルに、明日がそれぞれ4つほど囲むように配置してある。

 2階からはガラス越しに魔軍局の練習場が見える。ハイゼンは練習場に待機しさせている1万の兵士を横目に椅子に腰掛けていた。

「相変わらず、便利な魔術のようじゃの。ハイゼン様」

 同じテーブルに座っていた、マハダがそう言った。

「様はつけない約束だっただろ、マハっちゃん」

「ここには、お主の正体を知っているものしかいんのじゃから良いじゃろう。のお、エレナ」

「私は、大丈夫です。しかし、どこであの人の部下が目を光らせているか……」

 同じテーブルの椅子に座っているエレナは不安がった。

「この国で俺より感知魔術が優れたやつは存在しない。誰も俺たちの周りにはいないさ」

 ハイゼンはそう言って右手を肩の位置にまで持ってきた。マハダとエレナはその動きを凝視する。

 魔力を高めたハイゼンの右手に白い塊が現れた。その中にクリスタル工場の様子が空中視点が写し出される。

「見ての通り、現在のクリスタル王国の様子だ。ブースター軍団が従業員と戦っている。ここにロゼ様もいる。この現状だけ見ると、ブースター軍団が悪のように見える。いや、そう仕向けられているのさ」

「これをどう、魔軍局の兵士たちに説明すると納得してくれるかしら……?」

 エレナが窓の外で整列している兵士を見ながらそう言った。

「戦況を見渡す限り、シルバーエンジェルがかなり数やられている。魔軍局にシルバーエンジェルの存在をバラす。話はそこからだ」

 1人こちらに近づいてくる足音が聞こえた。

ピシッとしたスーツ姿が目に見える。

「すみません。書類整理で遅れました」

 外交局のアランだった。椅子を引いてテーブルを挟みハイゼンの正面に座った。

「よし、全員揃ったな。これから、サーロン国王を巡る緊急会談を始める」

 ハイゼンは皆にそう宣言した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る