第47話 

残り魔力量

ロゼ  5万

リック 5000


ドウマン 25万


 ドウマンと対峙している俺は、試しに放出魔術で白魔術を発現させ、纏魔術で白魔術を体に纏ってみる。

 魔力量を消費せずに体に白魔術そのものを纏うのは始めてだった。普通、魔力だけを体に纏うことを纏魔術という。魔力性質を持ったまま、魔力を纏うと、炎の魔術だと体が燃え、雷の魔術だと体が痺れる。それを防止する為に、放出魔術と纏魔術を同時に出すことで、大きな魔力量の魔術でも、体が耐えられるのだ。しかし、今は纏魔術だけを白魔術で纏った。それで副作用が出るのかどうかは分からなかった。

「リック、作戦がある。できる限り俺があいつを引き付ける。その隙にあの壁の元まで行って魔力を流し込むんだ」

「分かった」

「魔術は使うなよ。リックはこれ以上魔力量を消費するとほんとに死んでしまうからな」

「僕はもうそんなヘマをしないよ」

 リックはロゼにそう言って強がった。


 ドウマンは腕に付いている魔石で作られた、黒い時計を見た。

「残念ながら……お前らにはサーロン国王様より、内乱を起こした逆賊として処刑せよとの命令が下った。国民も皆それを望んでいる」

「だからなんだ。俺やリックは何もしていないだろ。全てお前が仕組んだことじゃねぇか」

 白魔術を纏ったまま、跳躍したリックはドウマンの元に近づいた。魔力の消費を抑える為にできる限り、ドウマンの近くで放出魔術を与えるつもりだった。


雷上柱サンダーノック」 魔力量 3万

 だが、近づき過ぎたのか仇になったのか、ドウマンが繰り出した地面から生える電撃をモロに喰らってしまった。

「グバアアアアア」

 俺は全身に衝撃が走った。

 だが、すぐに痛みが引いてくる感覚がある。これは……。

「ウオオオオオオ」

俺は時間にして、ほんの僅かな間に持ち直した。ドウマンを思いっきり殴る。

「ヌォ」

 しかし、子供の力で大人を殴っても差して効いていなかった。

「このクソガキが……オラァ」

 ドウマンは同じように殴り返してきた。俺はサウザーとの修行で格闘戦にも慣れていたので、余裕を持って顔を手でガードした。

 だが、またしても大人と子供の差が出た。体重の乗ったパンチに俺はガードごと吹き飛んだのだ。

 俺は鎖が繋がれたベルトコンベアにぶつかって止まった。

「今だ、リック」


 リックは俺がドウマンと戦っている隙に遠回りして、魔力を流す壁に向かっていた。ドウマンが振り返った時には既に遅かった。壁が青く光りだす。魔力が青い光りになってフィオナを繋いでいる鎖のところまで広がっていったのだ。


「いい連携だな……なるほど、こりゃセシルもやられる訳だ…」

 ドウマンは焦った様子はなく冷静にそう言った。

「だが、残念だ。その鎖は魔術を流しただかじゃなく、正真正銘、引きちぎらないと取れない仕組みになっている。複合魔術 天上炎風てんじょうえんぷう」 魔力量4万

 鎖で繋がれたフィオナの前に魔法陣が現れた。その中から風に乗って沢山の炎の矢が突き出てくる。

「この術なら近づけまい。そして、まずはお前からだ。下級国民ジャラスのガキ。風加速かぜのかそく」 魔力量1000

 ドウマンは壁際にいたリックを狙って高速で移動した。リックの胸ぐらを掴むとそのまま持ち上げた。

 

 俺は迷っていた。いつものリックなら魔術で反撃するだろう。しかし今は魔力量が5000しか残っていない。つまり、抵抗できる魔力がもう残っていないのだ。

 俺は思いたったように炎の矢に白魔術を纏ったまま突っ込んだ。幸い、未だに副作用は確認できない。むしろ、5大性質の魔術攻撃から受けるダメージを弱めてくれる為、メリットしか感じなかった。

 真っ直ぐに向かってくる大量の矢は俺とぶつかった瞬間に消えた。白魔術は5大性質を合わせた魔術だ。恐らく炎の魔術も相殺されたのだろう。フィオナが吊るされている場所までもうすぐだった。


 ドウマンはロゼの行動を視界の端っこの方で捉えていた。直感で白魔術の特殊な纏魔術が魔術を無効化していることを悟った。

 今首筋を掴んでいるリックとかいう少年に時間をかけている暇はないことが分かった。

雷強打サンダーブロー」 魔力量3万

 ドウマンの余っていた方の拳から雷が発生する。勢いよく振りがぶった。

 雷性質を加えた拳をリックの腹に思いっきり叩きつける。元々雷性質に弱かったリックは白目をむいて気絶した。

 そこから、ドウマンはさらに持続時間が続いていた風加速かぜのかそくで今に鎖を引きちぎろうとしているロゼに急襲した。

 5大性質の魔術が効かないなら、素手でやるのみだ。

 

「待ってろよフィオナ。今からやってやるよ」

「ロゼ君……気をつけて」

 フィオナが真剣な顔でそう言った。

 俺は鎖を掴んだ。リックの魔力を感じる。

 なるほど…感触的に、この鎖は魔石を砕いて、それから固めて作られているのだろう。

 だから、魔力を流すと脆くなるのだ。

 俺は思いっきり力を入れた。だが、その時後ろに気配を感じた。

「ガハッ」

 ドウマンに後ろから思いっきり蹴られたのと、俺が鎖を引きちぎったのは同時だった。

 俺は吹っ飛んで壁に激突し、ちょうどリックの横で気を失った。

 一方でフィオナは巻き付いていた鎖を掻い潜ると、跳躍した。

 くるくると空中で回ってドウマンから離れた地面に着地する。

「絶対に許さない……!」

 フィオナは怒りを露わにする。

 全ての思いを胸にドウマンと対峙することを決めた。

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