第45話 ロゼ、リックVSセシル

 ギイイイイイン‼︎

 白剣はくけん黒剣こくけんがぶつかり合っている。

 白と黒が織りなす、疾走感のある魔術の応酬が続く。

 気づけば俺の魔力量は残り30万を切っていた。セシルは器用に近距離の剣劇と遠距離の放出魔術を繰り返してくる。俺もそれに合わせて魔術をぶつけていた。

 それになんだか、身体が重く感じる。俺はどこに原因があるかは分からなかった。こんな感覚は初めてだ。

「そろそろ大人と子供の力の差が出始めたんじゃないのか? 黒魔術 黒手裏剣くろしゅりけん」 魔力量2万

 セシルは盲目にも関わらず、俺の場所を把握し、黒魔術を飛ばして来た。感知魔術で居場所を見つけ、素早く放出魔術に切り替え、また感知魔術にスイッチしている。魔力量の大きさだけではなく、器用でもあるようだ。

赤城山レッドキャッスル」 魔力量 4万

 俺は目の前に巨大な燃え上がる城を出現させた。結界の天井まで高くそびえたった城は黒手裏剣くろしゅりけんとぶつかった。

 何事もない静寂が訪れた。だが、それはすぐに終わった。赤城山レッドキャッスルにヒビが入り、黒手裏剣くろしゅりけんは突き出て来た。

「やっぱりダメか」

 黒魔術は普通の5大性質の魔術では、止めるのに骨がいる。

 一番手っ取り早いのは手に持っている白剣はくけんで切り裂くことだ。俺は思いっきり振り上げた。

 ガギイイイイイン‼︎

 再び金属と金属がぶつかる音がして、黒手裏剣くろしゅりけんは真っ二つになった。

「はぁはぁ……」

 俺は体力が限界を迎えていた。

 手の力が抜ける。白剣はくけんが離れた。地面に落下すると白剣はくけんは吸収される様に消滅した。

 

「なんだ、案外君も大したことないね。あのベルギアンをやったと聞いたから全力で相手してたのに、まさか白魔力の持続時間を鍛えてなかったんじゃない?」

「……なんだ…それは?」

「別に……なんでもないさ。白魔術を倒す為に我々は訓練されていたのだ。それ以上は教えられない。知らずに死んでいけ。黒剣演舞 落蝶らくちょう

 セシルの剣が、奇妙な動きで舞っている。

 持続時間。その言葉が俺の頭の中に残った。俺はとある想像を掻き立てた。

風空浮遊スカイドライブ」 魔力量5000

 出来るだけ少量の魔力で宙に浮かび上がる。

「白魔術 白幻影ホワイトシャドウ」 魔力量5万

 白魔術による分身。俺と同じ姿、形をしたものが複数人浮かび上がった。

「そんなもの、全て切って終わりだ。風空浮遊スカイドライブ」 魔力量5000

 セシルも同じ魔術で宙に浮かんだ。

 

 リックは時間な問題だと思った。このままいけばどちらが勝つかは明白だ。今助けられるのは自分しかいない。

 始めてセシルと出会った時、奴の盲目を見て直ぐに気づいた。感知魔術で全てを補っていると。だから、咄嗟の判断であの技を繰り出したのだ。

 今もう一度その時はやってきた。

水大噴霧レブロウォーター」魔力量 7万

 リックは周囲に霧を発現させた。それはセシルの場所まで届いていた。


 セシルは違和感を感じた。感知魔術が反応しない。思い出した。ドランと戦っていたあのリックという少年。確か、視界を奪い、感知魔術を無効化する特殊な魔術を使っていた。

大突風だいとっぷう」 魔力量2万

 セシルの頭上に風が生じた。それは周囲にある水大噴霧レブロウォーターによってできた霧を追い払った。

 だが、そのスキに俺はセシルの真上に回り込んだ。

大雷来玉ビッグサンダーボール」 魔力量2万

 巨大な雷の塊をセシル目掛けて放出した。

 セシルは放出魔術から感知魔術への切り替えで魔術への反応が遅れた。モロに雷を喰らい、地面に墜落していく。

 

「悪いなリック。今のでやられてくれたらいいけど」

 俺は空中を飛んでリックの元で着陸した。

「全然いいよ。それにもうまともに動けるのは僕とロゼ君だけみたいだし」

 俺はチラッと後ろを見ると、ジルとラスターがコランを治療している様子が見えた。

「それは問題ない。こいつをサッサっと片付けてフィオナを助けにいかないとな」

 俺は起き上がってくるセシルを見ながらそう言った。


「イタタタ……」

 セシルは頭を押さえながら起き上がった。地面に墜落した衝撃で服に付着した汚れを払う。盲目で前を向くと感知魔術ですぐにリックの気配を感じとった。

「おお、リック君じゃないか。そうか…ドランを倒したんだね。素晴らしい。ところで何故白魔術の側に付く。君の様な人材は黒魔術と共に在るべきだ。白魔術はかつて世界を滅ぼそうとした凶悪な魔術だ。リック君ならまだ間に合う。共にロゼ君を殺そうよ」

「リック、そんな奴の言うことに耳を貸すなよ。俺には白魔術とか黒魔術とか関係ない。セシルを倒してフィオナを救いに行く。話はそれからだ」

「わかってるよロゼ君」

「良し、俺の魔力量を3万渡す」

 俺とリックは握手する様に手を繋いだ。魔力が確かに流れていくのが伝わってくる。

「奴の弱点もわかったか?」

「感知魔術と放出魔術の切り替わりの瞬間に感知出来ていないタイミングがある」

「同意見、上出来だ 白魔術 白玉しらたま」 魔力量 10万

「合わせるよ。水大噴霧レブロウォーター」魔力量 7万

 白魔術で出来た無数の玉が空間に浮かび上がった。

 リックがそこに水大噴霧レブロウォーターを吹きかけて姿を消した。さらに水大噴霧レブロウォーターはセシルの元まで届いた。

「……また、その魔術か。俺に二度も同じ手が使えると思うなよ。大突風だいとっぷう」 魔力量2万

 セシルは再び、霧を吹き飛ばそうと魔法陣を発現させた。


 -今だ。

 俺は霧の中から無数の白玉しらたまを繰り出した。放出魔術に集中していたセシルは当然、感知が遅れた。

「チッ……」

 セシルはギリギリのところでかわした。


「魔術の持続時間も知らなかったガキ共が、調子に乗るな。結界魔術 寝耳水みずのさざめき」 魔力量1万

 再びセシルは放出魔術を使った。

 俺ははそれを待っていた。白玉しらたま水大噴霧レブロウォーター。どちらもは続いていた。

「喰らえ…合体技 白玉虹色大噴霧しらたまフルーツポンチ

 巨大なトルネードが発生した。

 俺とリックの合体技。かつて密かに魔軍局の広場で練習していたものだ。

「ぐアアアァ」

 トルネードに巻き込まれたセシルは、その中で白玉しらたまに何度も何度もぶつかった。

 ビキ…ビキキ……

囲っていた黒魔術の結界にヒビが入った。

 パリリン!

 音を立てながら崩壊する。


 勝った。俺は起きはがってこないセシルを見てそう思った。もっとも盲目なので表情だけ見ても死んでいるのか生きているのかあまり分からなかったが。


残り魔力量

ロゼ   5万

リック  2万5000

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