第43話 ザッカリー、ポンチvsガブリエラ

残り魔力量

ザッカリー 22万

ポンチ   15万


ガブリエラ 25万


 同時刻

 ドナ達が炎で分断された裏側では、ザッカリーとポンチがガブリエラと対峙していた。不気味な女だとザッカリーは思った。特に理由は無い。ザッカリーの勘だった。

「ポンチ、まずは俺が様子をみる。お前は援護しろ」

 トラの獣族であるザッカリーはそういうや否や飛び出した。

「複合魔術 炎炎溶化エンエンヨウカ」 魔力量 5万

 ザッカリーがそう言うと魔法陣から溶岩が噴き出てきた。それは瞬く間に周囲を覆う規模になった。

「ふん、何度やっても無駄よ。結界魔術 五性質吸引オールバキューム

 ガブリエラの前に現れた透明の結界は溶岩を吸収していった。

 ガブリエラ 魔力量25万→30万

「あー美味しい。ほんとに獣族ってバカね。5万も魔力量をくれるだなんて」

 ガブリエラは見下した様子でザッカリーとポンチに言った。


 その様子を観察していたザッカリーは冷静に分析していた。

「あれはまともな魔術じゃ無いな。5大魔力性質の誰にも当てはまらない」

「未知の魔力って所ですかね」

 ポンチが聞き返した。

「恐らくな。だが、相手の魔術を吸収して自分の魔力量に出来ることは分かった。それは俺たちにとって不利には働かない。そうだろポンチ?」

「はい、ザッカリー殿。我々はブースター軍団で1.2位の獣族体術の使い手。この人間の女は運が悪かった」

 ザッカリーとポンチは4足歩行になった。トラのザッカリーと犬のポンチ。肉体変化によって5mを超える巨体となった二人が並ぶ姿は圧倒的だ。


 ガブリエラの着ている獣族の毛皮で出来た服がなびいた。

「トラと犬が調子に乗ったんじゃないよ。わたしの黒魔術の前に滅びなさい。黒魔術 暗黒星雲ブラックスター」 魔力量3万

 ガブリエラの手のひらに黒い星が現れた。禍々しい魔力に空気が重くなる。

「なんだあれは?」

 ポンチは黒魔術の力に驚いた。

「黒魔術……クリスタル王国で?」

 ザッカリーは疑問が浮かんだ。だが、考える時間は無かった。黒い星がすぐに襲いかかってきたからだ。

 ザッカリーとポンチは左右は分かれてかわした。だが黒い星も2つに分かれて追いかけてきた。

「この魔術はかわすことは不可能。当たるまで追いかけてくるぞ」

ガブリエラは勝ち誇った様子だった。


 ザッカリーは黒い星をかわしながら考えていた。いくらシルバーエンジェルがクリスタル王国の秘密部隊だとしても黒魔術を使えるのは奇妙なことだ。なぜならクリスタル王国の国王は白魔術の系譜である。白魔術と黒魔術は相容れない運命のはずだった。

 しかし、黒魔術が白魔術と同じように5大魔力性質を全て合わせたもので出来ているのなら、こちらにも可能性はある。

「ポンチ、やはり獣族体術だ。黒い星を破壊するぞ」

「よし」

「獣族体術 嵐牙ランガ」 魔力量4万

 トラと犬の牙がそれぞれ黒い星を噛み砕いた。

「チッ……」

ガブリエラは悔しさを露わにした。


「よし、効果あったようだな」

 ザッカリーは手応えを感じた。

「黒魔術とやらも大したことありませんね。このまま、畳み掛けましょうぜ」

 ポンチは言った。

 いつのまにか周りは死体が多くやっていた。ブースター軍団とクリスタル工場の従業員の戦いが激しくなっていることを意味している。

「獣族体術 遠吠とおぼえ」 魔力量 2万

 ポンチは犬の口を開いた。そこから思いっきり吠える。その音が音波となってガブリエラに届いた。

「…これは、音による攻撃か」

 ガブリエラは対処する前に身体が動かなくなった。

「貰ったぞ。獣族体術 獣破壊拳けものはかいけん」 魔力量3万

 ザッカリーの拳がガブリエラを襲った。

五性質放出オールリリース」 魔力量5万

 ガブリエラの前に魔法陣が現れた。そこから溶岩が飛び出してくる。

「マジかよ」

 ザッカリーは拳で溶岩を殴った。砕ける。相殺出来たようだ。

「俺の攻撃だぞ。それは」

 ザッカリーはポンチのいるところまで下がった。


「これが黒魔術の力だ……あんたら、もう諦めな」

「一つ聞いて良いか、ガブリエラとやら?」

 そう言ったのはザッカリーだった。

「なんだ?」

「俺はシルバーエンジェルが何者かはよく分からん。だが、黒魔術の使い手がクリスタル王国にあるはずがない。いや…今まではそうだった。黒と白が存在するなら、必ずぶつかり合う筈だ。」

「なんだ、そんなことか。あのサーロンとか言う国王は生粋のバカだからな。まさか、スパイが入り込んでいるとは考えもしないのさ」

「なに?」

「おそい」

 ガブリエラは既に黒いレーザービームを出していた。

「黒魔術 黒光吸引ダークバキューム

 黒いレーザービームはザッカリーとポンチを照射した。

「グワァアアア」

 次々と魔力を奪われていく。

 ザッカリーとポンチはなすすべなく、魔力が0に近づいた。

「クソ…こうなったら……獣族体術 獣神演舞じゅうしんえんぶ

 ザッカリーは跳ね除ける為の最後の手段を使った。自分の命と引き換えに舞う、獣族の伝統演舞。これなら魔力は関係ない。

 ザッカリー黒いレーザービームを掴んだ。そして、へし折ると、ガブリエラに向かって突進した。

「なんだ、その力は…?」

 ガブリエラは驚いて動きが止まった。


 能力ではない。獣神演舞じゅうしんえんぶは神が作った力だ。

 本来は黒と白の均衡を保つ為の。


「黒魔術 黒銃こくじゅう」 魔力量15万

 黒魔術で出来た銃が一丁、ガブリエラの手におさまった。狩猟ハンティングの時間だ。黒銃こくじゅうは目の前で舞うザッカリーを狙い撃ちした。

 発射した銃弾はザッカリー目掛けて飛んでいく。ザッカリーには全て見えていた。手刀で銃弾を跳ね返す。そのまま、ガブリエラに追従した。

 ガブリエラは避ける隙がなかった。ザッカリーの舞に巻き込まれ、骨をバキボキに折られた。

「はぁはぁ……俺もここまでか…」

 ポンチの方を見ると魔力量が0になり死んでいた。

 ザッカリーは膝をついた。視界が暗くなっていく。まだ敵は多い。それでもザッカリーは信じていた。必ず獣族は未来を切り開くと。

 

ザッカリー

ポンチ

死亡

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