第42話 ドナ,メリッサ,レイvsドロシー

残り魔力量

ドナ   15万

メリッサ 5万

レイ   7万


ドロシー 23万

 

 同時刻

 炎に囲まれた場所の中でドロシーと対峙していた。肩に入ったシルバーエンジェルの証明とも言える天使のタトゥーが目立っている。今やブースター軍団と工場の従業員は乱戦とも言える状態になっていた。


「しかし、獣族を相手にしないといけないとわね」

 ドロシーは青く長い髪を整えながら言った。

「嫌なのか?」

ドナは聞き返す。

「そうじゃない。うちがシルバーエンジェルに入ったのは動物の躾のためじゃ無いって事だよ」

「じゃあ、大人しく降参してくれるかしら」

 蜂の獣族であるメリッサが威嚇した。

「それも嫌。うち、戦いよりも暗殺の方が好きなんでね。目立つ戦いは弟にやらせてたよ」

「弟?」

「ああ、なんでもないわよ。風加速かぜのかそく」 魔力量1000

 ドロシーの走っている足の裏に風が吹いた。

「複合魔術 風水糸ロマンストリングス」 魔力量1万

 更にドロシーの目の前に魔法陣が発生した。その魔法陣から風と水の魔力性質が混じった糸が複数本現れた。

 ドナ、メリッサ、レイの3人を絡め取ろうと糸が動き出す。

電気羊ライトシープ」 魔力量1万

 レイの肉体変化によって大きくなった身体に電気が走る。そこからドロシーに向かって突進していった。途中で絡め取ろうとしてきた糸は電気で弾いてドロシーに詰め寄った。

 だが、予め風加速かぜのかそくを発動していたドロシーは難なくレイの背後を取った。

「お前からだ…複合魔術 風斧水ミストホーク」 魔力量2万

 魔法陣から現れた水の斧を手に持ち、レイを一刀両断しようと振り下ろした。

炎花盾フラムシールド」 魔力量4万

 レイの前に炎を纏った花が咲く。それは不思議な幻覚を引き起こす花だった。ドロシーの斧はレイの幻覚を見て振り下ろす場所がずれた。レイは慌ててドナとメリッサの元に戻った。

「ただの炎の魔術が複合魔術に優っただと?

どういうことだ…」

 ドロシーは不満気に言った。

「私の花は特殊な幻覚を見せることが出来るのよ」

「助かりましたわ、ドナさん」

 レイがお礼を言った。


「…でもその魔術、あなたの魔力量的にそんなに連発出来ないらしいわね」

 ドロシーはドナに確信をつく様な言葉を言う。

「確かにそうね。でもこっちは3人いる。バラバラではダメ。同時に魔術を撃って攻撃しよう」

「うん」

「はい」

 ドナの提案にメリッサとレイは賛成した。 

 再び炎の花がドナの周りに咲いた。

炎花砲フラムキャノン」 魔力量4万

 美しく咲く炎の花がドロシーに向かっていった。

 それと同時にメリッサは自身の尻から針を出し、羽を生やした。蜂の獣族であるメリッサは身体能力だけで相手を攻撃出来る。

 炎花砲フラムキャノンに紛れて飛んでいくその姿はまるで花の間を飛ぶ蜂そのものだった。


「調子に乗るな。複合魔術 風水糸ロマンストリングス」 魔力量1万

 再び風と水の魔力性質の糸が襲ってきた。


「レイ、後は頼んだよ」

 ドナ隣にいるレイにそう言った。

 炎花砲フラムキャノンとメリッサの蜂の針による攻撃に雷の魔力が付随した。

「はい、雷蜃気楼サンダーミラージュ

 魔力量2万

 突然、メリッサの姿が2人になる。更に炎花砲フラムキャノンの攻撃範囲も2倍になった。次々と分身したかの様に増えて行く。蜃気楼でひとつだけが本物だが、それを見分ける術は無い。


 ドロシーは雷蜃気楼サンダーミラージュによって視界いっぱいに広がる攻撃に迷いが生じていた。シルバーエンジェルのタトゥーが疼く。


 -あれはサウザーが魔軍局に最年少で入隊した後だった。ドロシーはなにかとサウザーと比べられる様になった。トール家の長女であるドロシーはただ女だという理由で戦いではなく料理や裁縫など、家庭的な事を学ぶ様にと教育された。トール家と同じ上級国民ジースの男と結婚して、その繁栄の為に子供を産み育てるのがお前の役割だと父に言われたのだ。

 ドロシーはそれに反発した。トール家を抜け出し、魔軍局に入ろうとした。だが、上級国民ジースの家を捨てる様な人に魔軍局が受け入れられる訳が無かった。サウザーに会うこともなく門前払いされた所にベルギアンがいた。

「少女よ。上級国民ジースはこの国の権力者で魔軍局も慎重になのだ。俺はシルバーエンジェルのリーダー、ベルギアンだ。裏へ来い。強い魔術使いは何も軍だけとは限らないぞ」

 ベルギアンの威圧する様な魔力量にドロシーは一瞬怯んだ。だが、ベルギアンについて行きクリスタル王国の地下にあるシルバーエンジェルの極秘訓練場に案内された。

 そこからはシルバーエンジェルとして活動が出来る様に魔術や暗殺術を仕込まれた。途中でリーダーがセシルに変わってもベルギアンとの修行は続いた。タトゥーを入れたのは、今まで自分がやりたかった事をやらせてくれたシルバーエンジェルに忠誠を誓うためのものだった−


 そうだった。ここで負けてる様では何の為に裕福な家を出たのかわからなくなる。ドロシーは自身の出来る最大の魔術を繰り出した。

「複合魔術 風水天使ミストエンジェル」 魔力量10万

 ドロシーは迷いを断ち切った。背後に巨大な魔法陣が出現した。水の魔力を纏った天使が大きく手を広げて空を見上げる。その手を振り下ろすと巨大な風と水の衝撃波を繰り出した。

 衝撃波は地面をえぐりながら進行して行った。ドナ、メリッサ、レイの3人の魔術攻撃を全て跳ね返した。ドナ、メリッサ、レイの3人は倒れていた。起き上がって来る様子もない。

「はぁはぁ、手こずらせやがったな」

かなり体力を消耗していた。ドロシーはふらふらになりながらも進んだ。とどめを刺さなければならない。シルバーエンジェルとしての仕事はきちんとこなすべきだ。


「そこまでだ、姉貴」

 懐かしい呼ばれ方だった。振り返ると身長が高くなったサウザーがそこにいた。

「サウザー、久しぶりね。あれを片付けたらお話しでもしましょ」

「その必要は無い、姉貴。あんたはこれ以上シルバーエンジェルの作戦に加担するな。もう魔力の疲労も大きいぞ」

「うちをどうする気?」

「とりあえず拘束させてもらう。この戦いが終わるまで大人しくしてもらうぞ」

「…分かったわ。うちはこれ以上やろうと思わないし」

 ドロシーは手を差し出してサウザーの魔術で作った罠についた。

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