第36話

 フィオナは目を覚ました。体を動かそうとしてみたが、鎖とテープでガチガチに縛られていて逃げ出せそうにない。見上げると檻の外に一人の男が立っていた。髭が生えた顔で髪は茶色。薄暗い工場の地下に似合わない高級な服に身を包んだ姿はなんとも異様だった。

「フィオナという者よ。ここがお前の死に場所になる。恨むのなら自分が獣族という劣等

種族に生まれたことを恨むんだな」


 きつい言葉と共に乗ってきた声の感じが何処か聴いたことがある様な気がした。ドウマンの顔を見ながら記憶辿った。すると見つけた。フィオナがブースター軍団に入る前、狩猟ハンティングで追われていた時だ。まだ幼かったがその時以上の恐怖を体験したことは無かった。隠れていた目の前で家族が殺され、皮を剥がれた。その時の声に似ていたのだ。


「なんだその目は。思い出したのか? 昔俺は白い毛の生えた猫の獣族の一家を狩猟ハンティングしていたことがある。後で気づいたがその家族はもう一匹妹がいたな。そいつを取り逃した事に気づいたが遅かった。やはりブースター軍団に逃げ込んでいたか」

 ドウマンはそういうと手に持っていた鍵を檻の鍵穴に差し込んだ。ゆっくりと回して檻の扉がわずかにずれた。ドウマンが檻の中に入ってくる。そのままドウマンはフィオナを持ち上げた。


「だが、お前の家族はいい値段で売れた。この工場で剥いだ皮を鞄と服にして他の国の金持ちどもに売ってやったのさ。その金で俺はクリスタル王国を更に発展させていった。今の国が豊かなのはお前の様な弱者が死んで金になってくれたお陰だよ」


 フィオナは震えてた。私の家族を殺したのはこの男だった。ブースター軍団から諜報員としてクリスタル王国に潜入する時、それ以外の目的として家族を殺した犯人を見つけようとしていた。

 結局見つからなかったどころか、逆に犯人に捕まってしまった。ロゼが殺した事になっている男。全ての元凶なのだろう。目の前にいるのに何も出来ない自分が腹正しかった。


 鎖は繋がれている壁の根元に魔術を流し込む事で切れる様になっていた。フィオナはドウマンに担がれてベルトコンベアに乗せられた。鎖はベルトコンベアの動力部分に繋がれて、フィオナは宙吊りになった。周りには同じように宙吊りにされている獣族や魔獣が大量にいた。


「教えてやるよフィオナ。この工場はクリスタル王国のあらゆる生活必需品を生産している。だが、それには犠牲が付き物だ。クリスタル王国の人間以外の誰が死のうがどうでもいい。それで国が潤えば関係ないのさ」

 フィオナは悲しさに打ちのめされた。




 アントは作戦会議室で人に囲まれていた。

 そこにいるのはシルバーエンジェルで、全員が揃っていた。

「ベルギアンというメンバーの1人がやられた。死体は見つかっていないことから、ロゼ達が連れて帰ったのだと思う」

 セシルはそう言った。

「魔力量60万でも負けるほどか」

「ああ、あいつがこの場所を話すかどうかは分からない。我々は忠誠心で動いているわけではないからな。だが、準備はしておいた方が良いだろう」

「クリスタル工場には5千の従業員がいる。それ以外なら魔軍局に応援を頼むしかない」

「待てよ、魔軍局はハイゼンとかいう奴が指揮をしている限り当てにならない。だから俺達がここに来た」

 顔に傷がある銀髪の男、ウェルトがそう言った。

「6人もシルバーエンジェルが揃ったのは久方ぶりだ。これも全てロゼを止める為」

「その通りだ。ロゼは既にベルギアンをやるほどの力を持っている。魔力量100万は侮れん。ウェルトも一度やられたな。ルーソンの話ではブースター軍団とくんでいるらしい。ここの勢力でも全力を出さなければ勝てないぞ」

 アントは窓から工場の外を見た。周囲は森に囲まれている。もし森に強いブースター軍団が攻めてきてもここからじゃ分からないだろう。アントは冷や汗をかいていた。




「おかえりなさい。ロゼ様」

 ジルが迎えに来てくれた。俺達はブースター軍団の拠点に戻ってきた。

「すぐに作戦を立ててクリスタル工場に行くぞ。フィオナが捕まった。時間は無い」

「既にドナから話聞かされた、ブースター軍団総大将のドディ様を含め全員が土俵近くに集まっています」

「良し、すぐ行く」

 土俵の中心にいるはドディを囲むようにしてブースター軍団が綺麗に座っていた。

 その横にはコラン、リスターもいた。周囲は既に殺気だっている。


「ドディか、遅くなって悪かったな」

「ロゼよ色々聞きたいこともあるがまずは無事で何よりじゃ」

「ドナと分かれてからのことを全部説明する。そこから作戦を練るぞ」

 俺は土俵の中心に立った。


 ブースター軍団やサウザー達クリスタル王国から着いてきた人たちが見守る中、俺は語り始めた。そして最終的には今夜にもクリスタル工場に討ち入りすることになった。それからフィオナが誘拐された事に対しては誤った。

「顔を上げてくれロゼよ。ブースター軍団は既に協力関係にあり、フィオナが連れ去られたなら我々にも落ち度がある。共に取り戻そうぞ」

 ドディは俺を慰めるようにそう言った。

「そうですよロゼ様。俺たちの力をドウマンの野郎に見せつけてやりましょう。そうすればフィオナも自然に助けられるに決まってる」

 コランが力強く拳を上げた。

「盛り上がってるところ悪いが直ぐに作戦を立てよう。俺に少し考えがある」

 サウザーの声に皆が冷静になった。

「そうだ。サウザーさんの言う通りだ。ここでじっとしてても始まらねぇからな」

 コランは戦いたくてうずうずしていた。俺も同じだった。いつまでもドウマンやシルバーエンジェルにやられっ放しという訳にはいかない。

 ここから反撃にでる。

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