第34話

 風のドラゴンは正確にサウザーとリックを狙って来た。その速さと威力に二人はなすすべもなく巻き込まれた。と、本人達も感じた。

 だが、攻撃は届かなかった。


 突如視界が白に包まれたのだ。リックが面をあげると風のドラゴンは白い光と共に消滅しのだった。


 一方のベルギアンは、魔術に集中していた。その為、本来なら気づいても良い後ろからの攻撃に気づかなかった。獣族のドナが放った炎魔術に身体を焼かれた。風は炎に弱い。ベルギアンは燃え盛る身体の前にして、何も出来なかった。


 俺はサウザーとリックの元に向かった。

 白魔術 白龍爆ホワイトドラゴン 魔力量40万。

 俺が今出せる最大威力の魔術だった。魔力量の高い魔術ほど体力の消耗が激しくなる。それでもサウザーとリックを助ける為に仕方が無かった。


「ロゼ君がやったの?」

俺に気づいたリックが言った。

「ああ、お陰でもうふらふらだけどな」

「ロゼ様、すみません、こんな姿を見せてしまって…」

 サウザーが申し訳なさそうに頭を下げた。

『ロゼ、ベルギアンを確保したわよ』

 赤い魔石からドナの声が聞こえて来た。

「よくやったよドナ。俺達も直ぐにそっちに向かう。それまで抑えといて」

「炎の縄で縛ってるから、暫く動けないはずよ」

「それは良かった」


 俺がドナの元に着くとベルギアンは燃え盛る炎の縄で全身を縛られて気絶していた。

「気をつけろ。こいつはかなりタフだ。いつ起き上がるか分からない」

 サウザーが言った。

「ねぇ早く逃げた方がいいんじゃない?」

 リックが心配そうに、皆んなに声をかけた。

「ああ、その通りだな。とりあえず城下町を抜けて一旦拠点まで戻ろう」

「それがいい」

「あれっ? ちょっと待ってフィオナは?」

 リックがそう言って周りを見渡した。ドナはそれを聞いて俯いた。

「リック、それは後で説明する。いつまでもここにいたら正体がバレて魔軍局に狙われる事になるぞ」

 リックは納得しないような表情を見せたが、結局はリックに従った。


「白魔術 限界白鳥スカイデリバー」 魔力量1万×4

 俺は白魔術で具現化した鳥に乗った。

 ドナが獣族の力でベルギアンを背負いながらそれに続いた。リック、サウザーも乗った。


 それから暫く空中を移動し、森の中にいた。ある程度行ったところで俺の白魔術の発動時間を超えた為に休憩に入った。


 俺はそのタイミングでフィオナが攫われた事を話した。サウザーもリックもがっかりしていた。それはそうだ。なんの成果も得られなかったどころか、フィオナを失ってブースター軍団の所に帰ろうとしているのだ。


 だが、そこでタイミング良くベルギアンが目を覚ました。

「久方ぶりだ、俺が負けたのは」

「あんたもめちゃくちゃ強かったよ」

 サウザーはそう返した。

「俺はこれから拷問でもされるのか?」

「その前にフィオナとドウマンの事を話せば酷いことはしない」

 俺は気になっていることを聞いた。

「そうか…、確かにそうだな。ドウマンの事なら話してやるよ」

「いや、知ってるなら両方話してもらおうか、ベルギアン。この状況。お前は分かってないのか?」

 サウザーが三尖刀をベルギアンの首元に突きつけた。

「待てよサウザー、俺はフィオナのことは本当に知らない。仮に別のシルバーエンジェルがやっていたとしても情報は共有されない。我々は個人であり、集団でクリスタル王国を守る兵でもある。だが、ドウマンのことなら知っていることは全て話そう」

「そうか、なら聞こう」

 俺はベルギアンの事を信用する事にした。この状況と魔力量ではもう何も抵抗出来ないからだ。

「残念ながらドウマンの住処はあのクリスタル王国城下町ではない。あいつはかなり警戒心が高いタイプでな。城の近くの城下町では信用出来ないと、ハズレのリンゴ村に屋敷を建ててひっそりと暮らしているのさ」

「ほう…で、ドウマンは生きているのか?」

 サウザーは問いただした。

「ああ、あれサーロン国王様の策略だ。シルバーエンジェルがやったのかどうかは定かでは無いがな」

「サーロン国王はロゼを殺すつもりなのか?」

「ふっ、恐らくな。お前も知ってるだろ。あの方は自分より強くて、カリスマ性のある人物に恐怖を感じる。過去にもその片鱗を見せた人物を何人も我々シルバーエンジェルが消してきたのだ」

「あの人、やっぱり敵なのかな?」

リックが呟いた。

「とにかくこのままじゃ、負けてばかりだ。リンゴ村に向かおう。奴を捕らえるぞ」

 俺はそう意気込んだ。ドウマンを再び見る。

「この限界白鳥スカイデリバーを使っていいから、誰か一人ベルギアンを獣族の拠点まで連れて行って欲しい。ここからまたリンゴ村に向かう者とベルギアンを拠点に運ぶ者に分かれよう」

「なら、私に任せて下さい。拠点までのルートは幾らでも知ってますから」

「ドナに任せよう。俺はサウザー、リックとドウマンの住んでいると言うリンゴ村に向かってみよう」

「決まりだな」

 サウザーそう言って三尖刀を持ち立ち上がった。


 その様子をベルギアンはじっと見つめていた。

 -やはりロゼには王になるカリスマ性がある。俺がシルバーエンジェルではなく魔軍局にいた時だったら、恐らくロゼに着いて行っただろう。白魔術の神よ、どこかで見ているんだろ? お前が力を与えたのか? 

 ベルギアンは何も無いはずの空に語り掛けた。

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