第31話
「獣族はクリスタル王国から出て行けー」
「出て行けー」
「獣族のクリスタル王国内への移住反対ー」
「移住反対ー」
クリスタル王国の国民達が大人数で移動していた。口を揃えて獣族反対と唱え続けている。それはまるで前世での政治デモのような感じだった。今まで8年ほどこの国で生きてきたが見たことがない光景だ。フィオナとドナはもっと困惑していた。獣族がここまでクリスタル王国の多くの国民に嫌われているとは思っても見なかっただろう。
「何よこれ…」
ドナは自分達がある意味信じてきたクリスタル王国の国民に、こんな感じに思われている事にショックを感じた。
「ドナさん、これは何か間違えですよ。俺がいた時は一度もこんな事なかった」
「じゃあ何が起こっているのよ」
「さぁ……様子が変だとしか言いようが無い」
俺は周囲を見た。クリスタル王国の国民全員が獣族反対デモやっている訳では無い。中にはデモに興味を示さず淡々と仕事をしている人もいる。
「あそこで野菜を売っている人に聞いてみよう」
俺は少し先を見た。屋台で色々な種類の野菜を前に、デモ隊を見ないように目を背けている人がいた。
「そうね…」
ドナは静かに言った。
「すみません。少し伺いたいのですが、よろしいですか?」
「あなた達は?」
「旅のものです。クリスタル王国を訪れたばかりなのですが、あのデモ隊の人のことが気になって…」
俺は前世の社畜社会人生活で学んだ事を生かした。愛想の良い喋り方で野菜を売っている人に喋りかける。フード付きの服を着た三人組に話しかけられて少し怪しまれたが、ポツリポツリと話してくれた。
「獣族の移住計画を進めていたドウマン様がロゼ様に殺さられ事件がありました。しかし、ロゼ様がそんな事をするとはクリスタル王国の国民は誰一人として思っていません。ドウマン様が殺される直前に獣族の人間と会っていたと魔術新聞社がリークしていました。そこであのような人達が、悪いのは獣族だと訴えているのです」
「なるほど…そんな経緯があったんですね。ありがとうございます」
「いえいえ、クリスタル王国は豊かな国です。デモはこの国の問題ですので旅の方は楽しんで下さいね」
「はい、そうしたいと思います」
俺はニッコリしてそう言った。
「ここからがクリスタル城の中の様子が一番見える」
サウザーとリックは城下町のとある館の屋上にいた。ここは8階建ての宿泊施設になっていてクリスタル王国では一番大きな建物だ。
サウザーとリックの目線の先には以前と変わらないクリスタル城があった。
「クリスタル城は無事か。問題はあのデモ隊だな」
サウザーは下を見た。目下では獣族反対デモが大きな声を上げている。
「クリスタル王国と獣族には恨みあう関係は今まで無かったはずだ。一体何があったというのだ」
「あれ? サウザーさん、あれってもしかして…」
リックが指差す方を見るとクリスタル城の窓から誰かがこちらを見ていた。サウザーはその男と目が合う。初めて見る人物だった。窓から目があった。遠い一瞬の出来事だったがサウザーはシルバーエンジェルの様な感じがした。
「クソ、嫌な感じがする。今の一瞬だが魔力量が35万あった。あの様な者をクリスタル城で見たことが無い」
「シルバーエンジェルかな」
「恐らくそうだろう。我々がクリスタル王国の城下町に潜入する事を読んでいたのかもしれない。こうなってくるとロゼ様達が危ない。一旦合流しよう」
「はい」
リックはロゼに連絡を入れる為、赤い魔石を取り出した。
俺はその後も数人に話を聞いた。その中で出たのはやはり獣族に対する不信感と怒りだった。対してフィオナやドナは何も言わなかったが明らかに顔が曇っていた。
-まずいな。なんとかして機嫌を取らないと行けないと思った。だがそんな方法を俺は知らない。
とにかく俺は必死に仕事をするふりをした。ドウマンに繋がる手がかりさえ得られれば再び明るくなってくれると思って頑張った。
その後多くの人に同じ事を聞いた。だがそれといった成果は得られず、ドウマンは皆んなロゼが殺したという認識だった。
「結局どれも一緒か…。随分と情報統制がされているのだな」
俺はクリスタル王国の見慣れた大通りを見つめた。
「場所を変えるのはどう?」
フィオナが言った。
「確かに今まで大通りの人にばかり聞いていたからな。もっと裏通りのひっそりとした所に住んでいる人にも聞いてみるか」
「では、早速行ってみましょ」
ドナは急かす様にそういった。
俺とフィオナとドナの三人は裏道にある、少し怪しげな占い師の所に来た。ここは以前俺が城下町を探索していた時に見つけた場所だった。魔術を使った占いをやり、当たると評判だった。
「いらっしゃい……ここになんの用かな?」
扉を開けて中に入ると全身紫色の服を着た怪しげなおばあちゃんが出てきた。
「すみません、旅の者です。少し聞きたい事がありましてここに来ました」
「ふっ……ここには皆悩みを解決して欲しい人が来るのじゃ。一人一人個人的に話を聞こう。それ以外の人は外で待ってもらうのじゃ」
そう言っておばあちゃんはくじ引きの箱を俺の目の前に突き出して来た。
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