第30話
それから後の出来事は到底受け入れられる物では無かった。フードを被った男達はまず、父の死体にナイフを入れた。フィオナの目の前で皮を剥いでいく。酷すぎる有様にフィオナは思わず目を瞑った。全て剥ぎ終わると次は母、兄と順に同じことをしていった。
フィオナは泣き叫びたくなるのを必死に抑えた。一言でも声を発するとバレて殺される。自分は魔術など出来ないのだ。我慢するしかない。
「これはかなり上質な毛皮だ。金持ちコレクターの間で高く売れるに違いない」
男達は家族の毛皮を袋に詰め込んで立ち上がった。毛皮を無くし、ぼろぼろになった家族の死体を見つめるフードの男達。そこにはまるで感情を無い。ただ獣族を金のなる動物としか思っていない様な者達。フィオナは悲しみを通り越して怒りが湧いて来た。
「愚かなる獣族よ。恨むのなら自分が獣族という劣等種族に生まれたことを恨むんだな」
そう言ってフードの男達は去っていった。
外はいつのまにか雨が降っていた。
フィオナはフードの男が去ってからも暫くは恐怖で動けなかった。というのも何処かに隠れいて、自分が姿を現した瞬間に「待っていたぞ、愚か者が」と言って殺そうと待ち構えているのかも知れないと感じたからだ。
やがて、耳を澄ませて、鼻をひくつかせても気配が感じられないことを確認した。フィオナは恐る恐る家族の元に向かった。
幸い誰もいる気配は無かった。自然に涙が出てくる。フィオナはこれ以上無いくらい泣きじゃくった。涙が水滴となって死んだ家族の元に伝っていく。声を出してももう戻ってこ来ない。当たり前のことだったが受け入れられなかった。
そうして何時間も時が経った。生まれて初めて一人になった。寂しさを紛らわすためにずっと歩いた。目的はある。父と母が向かっていた先。それはクリスタル王国の北部にあるブースター軍団の拠点だった。
時に喉が乾いたり、お腹が空き、その度に自分は生きているのだと感じられた。
街は敢えて避ながら歩いた。街のどこに
そこからは色々なことを教えて貰った。それは学業から魔術の出し方まで多岐に渡った。
そこでは
最初は信じられなかったが、何度かクリスタル王国の城下町に行くことでその疑いは晴れた。
それでも自分の家族を殺した
「フィオナちゃん? おーいフィオナちゃん?」
俺はフィオナに呼びかけた。
フィオナはハッとした様に我に返った。
「あ、ロゼ…。ええっと何かしら?」
フィオナは少し動揺した様子だった。
「何ってさっきからクリスタル王国の城下町にどうやって潜入しようかって話ししたるのに、ボーっとしてて何か考え方でもあるのかと思ってな」
「ううん、なんでもない。クリスタル王国に入る前は少し緊張するの。これは凄く個人的な事なんだけどさ」
−ええっと…。こういう時は励ました方が良いんだよな。
「まぁ大丈夫だよ。ほら、僕はこの街の生まれだからさ。もしバレても逃げ道は知ってる。それにサウザーに関しては俺よりも長い間この街のに住んでいるんだ。しかも強い。ヤバかったら俺やサウザーを頼ってくれたら安心だよ」そう言って俺は微笑みかけた。
「ちょっとリック君、僕は?」
リックが起こった様に割り込んできた。
「ああ、ごめん。リックにも頼ったら良いよ。少し頼りないけどな」
「頼りないってなんだよ。頼りないって」
「いや、冗談だよ。ハハハッ」
リックが少し突っかかって来た。俺はそれを華麗に避ける。フィオナはなんだかつられて笑っていた。
そんな様子を見るドナ。そしてサウザーはこの先の事を考え気を引き締めていた。
俺、リック、フィオナ、サウザー、ドナの五人は二組に分かれてクリスタル王国の城下町に潜入することにした。俺、フィオナ、ドナの三人と、リック、サウザーの二人だった。服装は全身を包み込めるフード付きの服を着た。
俺はフィオナと一緒のチームになれた事を喜んだ。これはドウマンについての収穫が無くてもフィオナと仲良くなるという収穫を得れるかもしれないと思ったからだ。
「よろしくね。フィオナちゃん」
「うん…」
俺はフィオナに握手をしようと手を出した。しかし、それにはフィオナは反応しなかった。
-どうやら今日は機嫌が悪いらしいな。いや、さっき何か考え事をしている時に話しかけたせいで嫌われたのかもしれない。でも流石に作戦会議の時に聞いてないのは良くないよな…。いや、そうか。もしかしたらもっと重要な何かを考えていたのかもしれない。全く女心はわからんな…。
俺は自分に女性経験が無い事にまたショックを受けた。そんな俺の心境とは他所に大きな声が、ひどく耳に入って来た。それが俺の心を新たに動かす事になった。
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