第29話

 -魔力量が平均的に高いブースター軍団が仲間になってくれるのは心強い。

 俺は会ったことがないが、オズワルドとかいう先代国王の有能さを伺い知った。

「さっそくですが私がこれから先に考えていることを話したいと思います」

  青髪のサウザーが先陣を切って話し始めた。

「当初はクリスタル城に行きロゼ様の身の潔白を証明するつもりでした。しかし、それはブースター軍団の突然の派手な襲来によって無くなった」

「すまなかったな」

 ザッカリーがプイッと横を向いて謝って来た。

「そのブースター軍団が味方に付いてくれたのなら心強い。クリスタル王国の城下町は今ロゼ様の目撃情報が出て厳戒態勢になっている。だが、真実はそこにある。我々の計画としては今度はもっと少数でクリスタル城下町に潜入し、ドウマン殺害の真相を探るつもりだ」

「なるほど、そちらは何人で行くつもりだ?」

「ロゼ様、リック、そして俺の三人だ。獣族側から一人あるいは二人欲しい」

「少数精鋭ならばフィオナとドナに行かせようと思っている」

 ドディは二人に目配せした。

「私は構いません」

「私もです」

 二人はすぐに返事をした。


 俺はフィオナ、ドナ、リック、サウザーと共に直ぐに準備してクリスタル城下町に向かった。コラン、リスター、ジルは他のブースター軍団と残ることになった。コランらはいずれブースター軍団と共に動いて貰う時が来る時まで待機して貰う。魔力量の多いシルバーエンジェル達に対抗出来るとしたらブースター軍団しかいないからだ。

 生い茂る森林を通り抜け、崖を数回登り降りした。クリスタル王国の城下町の麓まで辿り着いた。目前に広がる城下町には活気があった。フィオナはドナ達ブースター軍団の大人から、クリスタル王国の城下町は上級国民ジースが住む街だと教えて貰っていた。


 フィオナがブースター軍団に入ったのは3年前のことだった。それまではブースター軍団とは無縁の獣族で、各地を旅して渡りながら生活していた。一緒に旅をしていたのは両親と兄の四人だった。


 当時2、3歳当たりの年齢だったと思う。断片的にしか記憶はないが森の中に居た。それは今来たブースター軍団の拠点からクリスタル王国の城下町までの道のりより険しかった気がする。木の枝と葉っぱの多さで太陽の光が遮られ、地面は薄暗かった。

 その中を父親を先頭にして家族四人は走っていた。父親はこちらは振り向いた。

「はぁはぁ、ここらで休憩しよう」

 岩と岩の隙間が有った。獣族が四人は入れる大きさはありそうだ。

 全員、息が切れていた。獣族の姿や特徴は家族間で遺伝子する。フィオナは猫の特徴を持って生まれた家族の元に生まれた。走って移動する時は猫の姿の方がやりやすい。フィオナは前足を伸ばして少し足をほぐした。


 岩の隙間に入った。中は湿気でジメジメしていた。家族四人が入ったことを確認すると父は言った。

「一体なんなんだ。あの連中は」

兄は不安そうに言った。元々自分よりも気が弱い兄のことだ。今夜は眠れないだろう。

「あれがクリスタル王国の権力を握る人々が行う残酷な娯楽。通称、上級国民ジース狩猟ハンティングだ。俺達家族は狙われたのだ。だから、逃げる必要があった。何も言わなくてごめんな」

 あの黒いフードを被った連中が上級国民ジースというのか。フィオナは幼いながらに恐怖を覚えた。


 そんなフィオナを母は黙って抱きしめた。フィオナにとって母は女神のような存在だった。女神とはこの世の全てを受け入れくれる者らしい。確かリンス・ゴッドと言うの名前で人々に言い伝えられていた。

 

「とにかくここまで来れば安心だろう。フィオナ、ノウズ、今日のことは忘れよう。嫌な思い出は出来るだけ忘れた方が楽だよ」

父はフィオナと兄のノウズを励ますようにそう言った。

「お父さん、お母さんもう眠たい」

 ノウズは目を擦った。

「そうだなノウズ、フィオナもそうだがもう寝よう。明日の朝また移動すれば良い」

 父はそう言って寝転がった。

 続けて母も横になる。フィオナは母の岩の入り口から一番遠い所に寝転がった。兄は入り口に一番近い父の隣にした。フィオナは疲れていたのか直ぐに眠りに着いた。


 フィオナの眠りは浅かった。だからだろうか、遠くから落ち葉のパキパキという音に反応して目を覚ました。体を半分起こして周囲を見渡した。岩の隙間の出口の向こうには誰も居ない。


 父、母、兄の三人はぐっすりと寝ていた。落ち葉の音は聞き間違いだと思った。フィオナはもう一度寝ようと寝転ぶ。しかし、その瞬間に鳥肌が立った。それは一瞬の出来事だった。出口の方向から並んで寝ていた、家族が次々と放たれた矢に串刺しになったのだ。矢は家族三人の体を貫き、おびただしい量の血が出て来る。フィオナは咄嗟に更に隙間の奥への暗闇へと入り込んだ。


「これで全員か」

誰かが近づいて来る。いや、殺しに来るのだ。フィオナは体が震えた。やがてフードを被った男が数人で隙間を覗き込んできた。

「偉く逃げ回ったくせに死ぬのは早かったな」

 先頭で矢を構えている男が言った。

「流石です。矢がドラゴンの如く突き刺さりましたね」

「魔術を使えばこいつらが逃げる前に殺せた。狩猟ハンティングは難しいな」

「そこが奥の深さでもありますから」

「ふん、まぁ良い。とにかく目的は達成した。獣族の毛皮は高く売れる。こいつらの毛の皮を剥ぐぞ」

「はっ」


 フィオナはその言葉に驚愕した。なんて酷いことをするのだ。これがクリスタル王国の上級国民ジースなのか…。暗闇の隙間から何もできなかった自分を恨んだ。

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