第28話
クリスタル城での会議の後、ミンディはサーロン国王の部屋に直々に呼ばれた。国王の王室は城の最上階にある。階段を登っているとかつてのドウマンが死んだ現場のことを思い出した。あの時はよく状況が分からず、とにかく自分の身の潔白を証明しようと必死だった。でも、よく考えるそのせいで獣族移住計画は保留になっていた。サーロンが何の用で自分を呼んだのか分からない。いい機会だった。ここで移住計画の話を先に進めるチャンスだ。
王室に入るとサーロンともう1人、銀髪の男がいた。ウェルトと名乗ったその男はドウマンの後を継いで移住計画を進めて行く者だと言った。
「移住は確実に実効するつもりだ。なんなら今回の件のお詫びに、クリスタル王国から移住の資金を出そうと思う。世話を掛けたな」
サーロンは自身が座っている黄金の椅子の上で頭を下げた。
「え……いえ。そんなことは……」
そのサーロンの側からウェルトがアタッシュケースを見せて来た。中身を開けると大金が入っている。
「ミンディさん、是非受け取って下さい。我々は獣族の移住を応援しています」
ミンディはクリスタル王国の対応に心を打たれた。こちらから移住計画を急かす必要は無かった。クリスタル王国はキチンと考えてくれている。
「ありがとうございます。この恩は必ず返します」
アタッシュケースに手を伸ばした。ミンディも深々とお辞儀をした。
その姿を観たウェルトは心の中で笑った。この恩は必ず返すだと? ならばやってもらおうじゃないか。
ウェルトはサーロンが黄金の椅子から頭を上げたタイミングで話し始めた。
「ところでミンディさん。ロゼ様のことですが、何者かの手を借りて軟禁されている場所から逃亡した模様なのです」
「えっ、そうなのですか?」
「安心して下さい。既に目撃情報は入っています。クリスタル王国の城下町でロゼ様とその協力者がブースター軍団と接触ていたというのを近隣住民から聞きました」
「ブースター軍団ですと、彼らが…まさか」
「ええ、元々獣族の中でも過激派で知られているブースター軍団は、ロゼ様達と協力して何やら企んでいる様子です。恐らく移住賛成は今後狙われます」
「そんな………どうしましょう」
「我々クリスタル王国には計画とそれを実効できる権力がある。任せて下さい。必ずやロゼ様とブースター軍団の野望は打ち砕く。そこでミンディさん達賛成派にも協力してほしいのですよ」
「賛成派に出来ることなら、なんでも協力します」
-貰った。やはり獣族はちょろいな。全てはここにいるサーロン国王様の為。我々クリスタル王国の繁栄に獣族の存在に係る金や労力は無駄なんだよ。この作成で早く朽ちて消えてくれないかな。
サーロンは黄金の椅子から立ち上がった。
「ウェルトの言ったとおりだ。俺を始めクリスタル王国中が獣族の移住側に着くつもりだ。簡単な話し、ここで協力関係を結んでおこうと思ってな」
「はい、そういうことでしたら是非お願いします」
サーロンはニヤッと笑い手を差し伸べて来た。
「末永く頼むよ」
ミンディはキリンの腕を伸ばしてサーロンと握手を交わした。
「はい」
ミンディが出ていき、暫くするとサーロンとウェルトは大声で笑った。全てが計画通りに進んでいる。騙して動かす。そうやってこの国を守る。それが一番の最善策だった。
「ウェルトよ。これでロゼと獣族の両方を消すことが可能となった。だが、場合によっては予想を外れた出来事が起こる場合もある。その場合はシルバーエンジェル全員を使ってでも対処しろ」
「ハッ、王の望みとあらば汚れ仕事をなんでも請け負う。それが我々シルバーエンジェルですから。崇高な命令を下さればすぐに取り掛かります」
ウェルトはうやうやしく礼をした。銀髪が揺れる。かつてロゼにやられた時の傷は完治していた。あの時の借りは大きい。ロゼは必ずシルバーエンジェルが殺す。白魔術を世に野放しにさせてはならない。その考えはサーロンと一致していた。
俺は獣族のドディの家に向かっていた。何やらこれから重要な話があるらしい。サウザー、ジル、コラン、リスター、リックも一緒だった。
広い屋敷の中に入ると既に多くのブースター軍団が揃っていた。様々な動物の姿がずらっと並んでいる様子はなんとも奇妙だった。
俺を含む人間一派は、ウサギの獣族であるドナに案内された。入り並ぶブースター軍団の最前列が空いていた。そこに座ると、正面に座っているドディが立ち上がった。
「よし全員揃ったか」
ドディはライオンの顔で屋敷に集まった人間を見渡した。ブースター軍団に緊張感が走る。
「以前の宴会で言ったとおり、我々ブースター軍団は先代国王オズワルドの恩を返す為に行動する。つまりロゼ一派と協力関係になるということだ。そこでロゼ一派の現在の望みであるドウマン殺害の疑いを晴らすこと。それに我々も協力する」
「もちろんです。既に我々ブースター軍団はその気持ちです」
トラの獣族であるザッカリーがブースター軍団を代表してそう言った。
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