第27話
「あっ…えっと…なんか、ごめんなさい」
仰向けに倒れた俺に逆向きの猫耳が視界に入った。猫耳から更に顔が出てくる。困り顔をした猫耳のついた女の子が逆向きに覗き込んで来る。俺はその瞬間、全身に稲妻が走った。可愛いすぎる。俺はその子から目を話すことが出来ない。いや……ちょっと待てヤベェ。俺は焦っていた。仰向けの俺に上から覗いている為、俺起き上がれない。こういう時、どうする? 退いてくださいって言うか? でも、そのせいで嫌われたらどうしよう。そんな童貞の発想をしていた時、猫耳の女の子の方から顔を上げた。
「私さっきまでクリスタル城に侵入していたの。ロゼ次期国王はクリスタル城がどうなってるか聞きたい?」
俺は名前の呼び方が引っかかったが、それよりもクリスタル城のことが気になった。俺は起き上がると猫耳の少女に問いかけた。
「本当か? もちろん、聞きたい」
「それがね、サーロン国王はやっぱりロゼ次期国王が殺したと思ってるよ。反対する人達をキレ散らかしたりしてるし、よく無いね。それにロゼ次期国王がドウマンを殺したと証言する目撃者もいたよ」
「目撃者?」
「うん、ドウマンが殺されたハルカゼ塔で獣族の移住計画を話し合っていたミンディっていう移住賛成派の獣族の代表、それからハルカゼ塔の近くに住む住人」
「待って、ドウマンは殺される直前にその獣族のミンディって人と会ってたってこと?」
「そうよ。私は最初ミンディの動向を探るために後を付けてたの。クリスタル城に侵入したのはそのついでなんだけどね」
「ねぇ、俺の母親のエレナとは会った?」
「うん、会議の場にはいたよ」
「そうか、ありがとう」
「どういたしまして」
そう言って猫耳の女の子は満点の笑顔を作った。それが作り笑いだとしても俺には可愛いくて仕方が無かった。俺は咄嗟に目線を背けてしまった。ダメだな、俺は。完全に童貞の反応をしちまっている。前世で37年も生きて来たのにこのザマだ。まぁろくな人生送ってこなかった証拠でもあるが。
「おーい、フィオナはどこだー」
ドディが大きな声で呼んだいた。
「あ、総大将がお呼びだ。また後でね、ロゼ次期国王君」
「え、うん」
フィオナと呼ばれた猫耳の女の子はそう言って何処かに行ってしまった。
「ロゼ次期国王君だって」
フィオナが去った後、リックは待ってましたとばかりに揶揄ってきた。
「なんだよリック、お前もフィオナを可愛いと思うのかよ」
「僕は猫耳の趣味は無くてね。共感出来なくて悪いねロゼ君」
「あっそうですか」
異世界に来てまさか自分のタイプの異性に出会うなんて思っても見なかった。俺は恥ずかしさを隠すために燃え盛るキャンプファイヤーの炎を見つめた。
次の日、俺は声で起こされた気がした。まだ頭がボーとする。昨日の夜は用意された宿ですぐには寝れなかった。
「うおおおおおおおおお」
ドオオオン
窓の外が何やら騒がしい。俺は咄嗟に脳細胞を動かした。しまった。もしかしたらシルバーエンジェルの奴らに居場所がばれて攻めて来たのかも知れない。ならば一大事だ。俺は獣族から貰ったパンツ一丁の姿だったが関係ない。
「
俺は獣族がやっていた身体を地面と水平にして狭いた場所を通り抜けるやり方をした。窓の枠ぎりぎりで飛び出した。
フィオナはウサギの獣族であるドナに毎朝稽古を付けてもらうのが日課だった。獣族の朝は早い。いつも稽古を付けてもらう時間帯には皆起き出す。だから突然、近くの窓からパンツ一丁姿で
窓の外を出た瞬間、白魔術を繰り出そうと身体の中に力を溜めた。だが、よく見るとフィオナとウサギの獣族がいるだけだった。勘違いだったか。しかもフィオナがいる。俺はパンツ一丁という女の子が見たら卑猥な姿で登場してしまった為、変にドギマギしてしまい地面に着地し損ねた。が、そこはサウザーとの稽古を付けてもらった身だ。なんとか地面を転がりながらも受け身を取った。
「……ロゼ次期国王君? どうしたの?」
フィオナがまた驚いた様に話しかけて来た。
「いやーこれはフィオナちゃん。な、なんでも無いよ。急に大きな音がしたからね。シルバーエンジェルが来たのかと思って慌てたんだよ。あはは…」
「この子、昨日ドディが言っていた白魔術の子か…。私はドナ。よろしくね。ロゼ君」
ウサギの獣族は優しい声でそう言った。
「あ、よろしくお願いします」
俺は慌てて挨拶を返した。くそ、なんだかフィオナと出会ってから調子が狂っている。動揺しすぎだな。綺麗な女の子の前では冷静にいなくちゃ。
俺は無理に笑顔を作って聞いた。
「朝から稽古なんてすごいですねー」
「私たち獣族は、かつて人間から差別を受けて来た歴史があるの。だから今でも人間にいつ襲われても対処できる様に稽古を積む習慣があるのよ」
ドナは少し悲しそうな表情をしていた。俺は閃いた。ここでいい格好をすれば、今までの失態を取り戻せるかもしれない。フィオナが俺に目を向けてくれるかもしれない。
「そんな過去が…。でも大丈夫。フィオナちゃんもドナさんも俺が来たからにはそうさせませんよ」
「ロゼ次期国王君…何カッコつけてんのよ。別に助けなんて必要ないわよ」
「え、ええ‥てかロゼ次期国王って言い方やめろよ」
今までニコニコしていたフィオナが少し顔が曇った様になった。
「何よ、じゃあなんて呼べば良いのよ」
「ロゼで十分だよ。ロゼで」
「ふーんじゃロゼね」
フィオナは何か気に食わない様子だった。全く、これだから女の子の考えていることは分からない。俺はタジタジだった。
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