第26話

 お互い力は互角だった。コランとポンチは手を繋いだ様な状態で押し合いをしていた。

 −このままじゃ埒が開かない。ここは仕掛けるか。

 コランはポンチの犬の足をはらった。バランスを崩したポンチはそのま真っ直ぐ地面に向かって倒れる。だが、地面につく寸前で体を捻った。前足2本とも地面につき、そのまま後ろ足でコランを蹴り上げる。

「ぐゎ」

 コランは脳震盪を起こして視界がふらついた。おまけに空中では身動きが取れない。

「くらえ、獣族体術 獣崩けものすぐし」

コランは何も出来なかった。ポンチはコランの首を掴むとそのまま、地面に叩きつけた。

 ウォーーーー

 周りを囲んでいた獣族の歓声が聞こえて来る。

 コランはびくとも動かない。気絶していた。

「勝者、獣族のポンチ〜」

 いつの間に司会進行をしていた馬の獣族がマイクを持って高らかに叫んだ。

 イェーーーーイ

 再び歓声が上がった。

「そんな……魔術を使ってないとはいえ力自慢のコラン副長が負けるとは」

 リスターは驚いた。

「なるほどな、これが獣族の力か…」

 サウザーも素直に感心していた。


「やるじゃねぇか、あんたの所の家臣もよ」

 俺の近くにいたトラの獣族のザッカリーが話しかけてきた。

「俺は国王じゃないから家臣なんていないよ。それに今は濡れ衣を着せられて追い出された身だし」

「家臣てのは何も権力の上下関係じゃねぇ。自分について来てくれる仲間だ。ロゼの周りにはああいう男気のある味方がいるのだろ。誇りに思うべきだ」

 ザッカリーは気絶しているコランを見てそう言った。

「ははは、そうだね」

 -自分について来てくれる仲間か。俺に力があるか自分自身にも分からない。だが、わざわざリスクを犯して、濡れ衣を晴らそうとしてくれる仲間のためなら俺も頑張ろうと思える。

「そうか、ありがとう」

「なんだよ、俺はお前がサーロンのクソ野郎よりはマシだと思ってるだけだよ」

 ザッカリーはトラで顔を恥ずかしそにしながらそっぽ向いた。どうやら俺の父親は相当嫌われていることが分かった。


「コラン殿大丈夫ですか?」

 リスターが気絶しているコランに話しかけていた。やがて何度かほっぺたをつねったり叩いたりした時、コランは目を開いた。

「いってぇーな……リスター。くそ、あの野郎やるじゃねぇか。あ…いてててて」

  首を押さえて上下左右に少し動かした。どうやら首を痛めた様だ。そこにポンチがやって来た。

「おい、コラン」

「なんだよ犬ヤロウ」

「いい勝負だったぜ」

 ポンチは手を差し伸べて来た。手のひらの可愛らしい肉球がこちらを向いている。

「あん?」

「仲直りの握手だよ」

「あんたは強い。それは認めてやる。だが、俺はもっと修行してお前より強い体術を身につけてやるぜ」

「待ってるよ」

 コランは肉球を掴んだ。

「これで握手になんのか……」


 パチパチパチ

 そこに手を叩きながらドディとザッカリーがやって来た。

「素晴らしい勝負だったよ」

「どうだ、今晩ブースター軍団で歓迎会をしようと思っている。場所は同じくこの土俵とその周りだ。ロゼ達もいかがかな」

「いいぜ」

「乗りましょう」

「うん」

 それぞれ返事をした。


 それからブースター軍団は慣れた動きで酒やら肉、野菜やらを運んできた。肉はもちろん獣族の死体というわけではなく、クリスタル王国でも売っている魔獣の肉を切ったものだった。やがてキャンプファイヤーが起こり、肉の匂いがして来た。日が暮れてキャンプファイヤーが太陽の代わりの様に照ってきた。

 再び土俵を囲う様にしてブースター軍団が集まって来た。俺はドディに呼ばれてブースター軍団が集まっている中央にいた。

土俵の上には俺とドディしか居ない状態だった。ドディが代表で言った。

「皆のもの今日は集まってくれてありがとう。こちらにいるのがクリスタル王国のサーロンの長男で次期国王となるお方だ」

 ドディがそういうとブースター軍団は怪訝な顔をした。

「サーロンの長男だと、あんな奴の子供だとろくな奴じゃないだろ」

 リス姿をしたブースター軍団が愚痴小さな声でを呟く。ドディはその言葉を聞き逃さなかった。

「もちろん批判的な意見もあるだろう。だがサーロンとは違いこの子は白魔術を生まれつき使うことが出来る」

 ドディのその言葉を聞いた瞬間に周囲がざわついた。

「生まれながらに白魔術だと……」

「まさか……」

「そうだ、我がブースター軍団はかつてモノクロ帝国に追われている時、1人の白魔術を使う少年に助けられた。その少年はやがてクリスタル王国国王となり、白魔術によって世界を平和に導いた。国王が死んで以来、我々は再び白魔術が使える者を待ち望んでいた。この少年ロゼはかつての国王、オズワルドになれる才能がある」

 一瞬ブースター軍団は静まり返った。だがすぐに歓喜の声が渦の様に聞こえて来た。

「ウォーすげぇぞ。ついに来たんだ」

「本当かよ」

 一方の俺は突然のことによく分からなかった。オズワルドってのは誰だ? 教育担当者からも聞いたことが無い人物だった。

「良し真面目な話はここまでだ。みんな、今日はブースター軍団とクリスタル王国ロゼ一派の仲良くしようの会だ。大いに飲んで騒げよ」

 ウォーーーーー

 獣族達の大声が響いた。サウザーやジル、コラン、リスターは獣族のさまざまな動物達と楽しそうに飲んでいた。一方で俺とリックは酒が飲めない年齢ということでキャンプファイヤーを眺めながらゆっくりすることにした。俺は正直にこういうのが苦手だった。虐められていた前世の記憶が蘇ってくる。集団で周りを囲まれて罵詈雑言を浴びせられる。馬鹿にされ笑われる日々。あの世界とは別と分かっていても体が動かない。ちなみにリックもこういうのが苦手なのか俺の横でじっとしていた。


 だが、そこに近づいてくる1人の獣族の少女がいた。俺は記憶のフラッシュバックのせいで感知することを忘れていた。だから「ロゼ次期国王様」と言われた時にはビクッとして後ろに倒れてしまった。


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