第21話
俺は地下に連れて行かれた。そこはクリスタル城の裏通路とも言える場所。いくつかの階段を降りると、おそらく最深部であろう地下水路に出た。蝋燭がところどころに置いてある。薄暗い水路が奥の見えないところまで続いている。
「ここはクリスタル王国城下町全体に広がる地下水路だ。ロゼは初めて見るだろ。俺達シルバーエンジェルは日の目を浴びること無く裏の工作活動が基本だ。こういう場所こそ我々の庭なのさ」
セシルは手の中の結界に閉じ込められた俺に語りかけた。
「さて、ここから地下牢までの道は見せるわけにはいかないのでね。ここらで眠ってもらう。結界魔術
俺を捕らえている結界の中で雨が降り始めた。次第に瞼が重くなって来る。頭もボーとして来た。無意識に視界が真っ黒になった。
リックは必死に走っていた。振り返ったら、さっきの怖い人達が追いかけて来るような気がしてならなかった。クリスタル王国の内壁を抜けたところに魔軍局の練習場がある。そこまでの辛抱だ。
やがて内壁と外へと繋ぐ門がある場所まで来た。そこには数人の人間が立っていた。
「そんなに急いで何処に行くつもりだ?」
スーツ姿の男が喋り掛けて来た。
「アランさん、ぼ…僕の後ろに悪い人達が追いかけて来てませんか?」
リックは走りなが喋った為滑舌が悪い。
「ん…?……別に誰も居ないけどな」
それを聞いたリックは立ち止まった。恐る恐る、首だけを後ろに向けて見る。風が吹いているだけで人ひとり見えなかった。
「はぁはぁ…なんだぁ。僕、勘違いしていたみたい。あははは」
リックは照れて笑いを浮かべて頭を掻いた。
「いや、勘違いじゃないぞ」
一緒にいたサウザーが言った。
「つい先ほどクリスタル城、中層階で妙な魔力を感じた。騒ぎが起きていないから、気にしてなかったのだが…何かあったのか?」
「はい、それがシルバーエンジェルとかいう連中が現れて奴らがロゼを攫っていったのです」
その後、リックはロゼがシルバーエンジェルにドウマンという男を殺した罪を課せられていると言う経緯を話した。
「なんだって、それは一大事じゃないか」
サウザーの横にいた刈り上げ頭の筋肉質の男が大声を出した。
「あっえっと…」
リックがその威圧に怯えた。
「コランそれは誰でも分かっている。問題はそのロゼ様が何故連れて行かれたのか。そして何処に連れて行かれたかだ」
サウザーが冷静にコランを制した。
「この件はサーロン様には秘密で動いた方が良さそうだな」
白髪でおじさんとも言うべき年齢ですあろう人が喋り掛けて来た。
「うんジルさんの言う通りだ。これは恐らく仕組まれている。ロゼ様はまだ7歳だぞ。ドウマンを殺すほど感情的な成長はしていない筈だ」
サウザーはそう答えた。
「そうですよね、獣族の担当だったドウマンとロゼ様には接点がないような……」
一番後ろにいたリスターがそう話した。
「どうする、ここにいるメンバーだけでやるか?」
アランが尋ねた。
「何処でシルバーエンジェルが目を光らせているか分からない。極力目立った行動は避けよう。人を誘うより少数精鋭が良いと思う」
「少数精鋭なら作戦を立てないとな。リスク分散のために静と動人間分かれるか」
「それならアラン。そっちは頼んだ」
「任せておけ」
サウザーはリックの方を向いた。
「リックはどうする。俺達とロゼ様を助けに行くか?」
「勿論そのつもりだよ」
リックは強く決心した。
俺は目を覚ました。わずかに廊下から漏れる光。今が昼か夜かも分からない。体に意識を向けると、まず口をテープのようなもので縛られていた。それから足を紐で縛られ、その紐が地面の杭に繋がれており、立てないことが分かった。手首にも紐がついてあり、自由に動かせない。なるほどな、完全に魔術対策だろう。何も出来ない。唯一良かったのは結界魔術が無くなったことだった。持続時間が切れたのか、それともシルバーエンジェルの奴らが解いたのは分からない。それでも、俺に取ってはかなりのアドバンテージだ。魔術を放出できなくても、感知はできる。せめてここが何処だか突き止めてやる。
感知魔術は魔術を暗唱する必要はない。俺は目を閉じた。自分以外の魔力に集中する為、意識を外へ向けた。やがて体で他人の魔力を感じることが出来る。少し上に行ったところに人が行き来していた。恐らく街だ。クリスタル王国の外壁に囲まれた城下町。その何処かであることは確定だろう。
意外と地下牢の全体像は狭いのかもしれない。近くに二人が立っていた。二人とも魔力量は1万ちょっとか。それ以外は誰もいない。俺が魔術を唱えれたら一瞬で倒せるレベルだ。
リックならばどうだろうか? あいつは成長している。魔力量の高い攻撃を出しさえすれば勝てない相手ではない。まぁ多分リックのことだ。今頃サウザーか誰かに助けを求めていると思うがな。どちらにせよ俺は自力ではここから出れない。助けをただ待つしかないと俺は思った。
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