第20話

 気配が近づいて来た。かなりの魔力を含んでいる。俺目当てか。そう思って振り返った。


 全員が防具に身を包みんでいる。しかし防具を擦る音や足音は一切聞こえてこない。

「キング・ロゼですね。貴方に指名手配が出ています。大人しく我々と来てください」

 先頭に立つ盲目の男が話しかけてきた。

「なんの話だ」

「先日、ドウマン氏が殺害されました。殺人現場にいた目撃者から、貴方が殺したことを示す証言が出ました。大人しく縄について下さい」

「俺はここしばらく、クリスタル王国の城下町には出てないぞ。それに俺を逮捕するってそんな権限あるのか?」

 すると盲目の男は拳銃と思われるものをを取り出した。

「ククク、魔軍局ならロゼの逮捕は渋るだろうな。だが、我々はシルバーエンジェルだ。権限はサーロン国王様より発令される」

 −シルバーエンジェル? こいつらがそうなのか。なら…。

「お前らの仲間にウェルトって奴いなかったか? 俺を襲って来たんだが」

「さぁな、今、そんなことはどうでもいい。ロゼ君には殺人の容疑がかかってるんだよ」

「俺はドウマンって言うやつと会ったこともない。この一週間はクリスタル城から出ていない。でっち上げはやめろ」

「目撃者は複数人いる。言い訳は効かないぞ。結界魔術 封炎土撃エンドン」 魔力量5万


 その瞬間、俺の周りに魔力の線が出来始めた。それは赤いヒカリを出して俺を取り込む。


「やれ、ガブリエラ」

 盲目の男の指示でガブリエラと言われた女が長い金髪を振りかざして前に出てきた。

「美味しそうな男の子」

そう言うと、結界に手をかざした。

「結界魔術 五性質吸引オールバキューム

 −魔力が吸い取られている。しかも5大性質全てがが対象か……。だが俺の白魔術は対象外らしいな。とりあえず結界を壊して外に出なければ。

「全てを切り裂く。白魔術 白剣はくけん」魔力量 10万

 俺は白剣はくけんを振りかざして結界を切ろうとした。


「出たか、白魔術。ベギルアンやれ」

「はい」

 フードを深く被った大男が前に出てきた。その前に白剣はくけんが結界に近づく。だが結界には届かなかった。何故か体が動かない。

 −どう言うことだ? 暗唱なしで魔術を出した? にしても体が全く動かない魔術ってなんだ? 想定がつかない。

「暴れられては困るからな。このまま地下牢まで連れて行く。おっとリック君。君は大人しくしておくことをお勧めするよ。今の君じゃ我々とやり合っても死ぬだけだ。それにロゼはまだ殺せない。安心して今すぐ我々の元からされ」

 リックは動揺して震えていた。そりゃそうだ。こいつらの総合魔力量トータルパワーは100万を超えている。こんな奴らがクリスタル王国にいたとはな…。


 俺は唯一なんとか動く目をリックに向けた。こうなればアイコンタクトしかない。一度目を下にして、そこからリックの奥に続く階段に目をやった。これは咄嗟に考えた「逃げろ」という合図だが、伝わっただろうか。


 リックは手を交差させた。リックの中の魔力が溜まって行く。

 

 −マジか。やっぱりアイコンタクトって前世だけのものなのかよ。リックが頑張っても勝てる相手じゃない。こうなったら魔術を使ったことをクリスタル城にいる誰かに気づいてもらうしかない。


 ロゼの心配をよそにリックは魔術を発動させた。

水大噴霧レブロウォーター」魔力量 7万

 リックの周りの視界が白くぼやけて来る。空気中の水分を霧に変える技だ。


「これは…視界だけじゃない。魔力すら認識出来ない」

 ガブリエラはそう呟いて戦闘態勢をとった。他のシルバーエンジェルも同じく戦闘態勢をとる。


 -ナイスだリック。俺は霧が出た瞬間、リックの狙いを悟った。これで奴らにはバレずに逃げることが出来る。リックが最近練習していた魔術だ。本来は五感と魔力感知、全て断ち切ってきた相手を攻撃する。だが、場合によっては今回のように逃げる為に使用出来る。


 案の定、霧が晴れる頃リックはその場所に居なかった。俺はリックが正しい行動を起こした事にほっとした。


「リックは逃げたか」

 今まで黙っていた黒髪のアフロヘアの男が掛けているサングラスをずらした。

「逃げる途中でちびってなきゃ良いけどな」

 同じく一言も喋っていなかったサウザーと同じような、青髪ロングの女が髪をかき上げた。肩にはシルバーエンジェルのマークが入った刺青がある。

「でもよ、あいつ絶対に魔軍局あたりにチクるぜ。最近サウザーと魔術の練習してるの見かけたしな」

 フードを被った大男のベギルアンは、指をポキポキ鳴らしながらそう言った。

「最初から作戦通りだ。これからロゼを地下牢まで運ぶ。お前らは周囲を警戒しろ」

 セシルはそう言ってロゼを閉じ込めている結界に触った。すると結界は縮んでいき、セシルの手の中に収まった。


 −クソ…、ダメだ。体が動かない。こりゃ助けが来るまでは逃げれないかもな。でも、不思議と殺気は感じない。俺は王の息子だから捕まえるだけで色々とメリットがあるだろう。俺はセシルの手のひらで色々と思考を巡らせていた。

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