クリスタル王国獣人の乱
第19話
コツンコツンと階段を登る音が聞こえた。首から頭にかけてマダラ模様がある。風貌はまるでキリンだった。だが、2速歩行で歩いている。5本の指でしっかりと本を持っていた。
やがて階段は途切れた。広い空間が広がっている。一つの席が用意されていた。向かい側に人がいる。茶色い髪を後ろで結んでいるドウマンが座っていた。少し威圧感を感じるのはその茶色い髪のせいだろうか。
「ようこそ、ミンディ。ここはクリスタル城の中で防音壁が使用されている場所だ。音は外部に漏れない仕様になっている。安心してしゃべりたまえ」
「なるほどね。失礼するわ」
ミンディはふかふかの椅子に座って早速、本を開けた。そこには地図が載っている。
「もう本題か? せっかちな奴だな。俺はクリスタル王国の
「私は貴方の事を完全に信用してる訳じゃないの。ただ…」
「ただ獣族の為に行動している。そういう事だろ?」
ドウマンはミンディの言葉を遮って続きを言った。
「ええ、そうよ」
ドウマンはその返しにニヤリと笑った。何を考えているか読ませないつもりだろうか。ドウマンからは危険な香りがする。そうミンディは野生の勘が囁いてた。
「前に伝えた通り、クリスタル王国は君たち獣族の移住地が用意できている。場所はクリスタル王国城下町から南に行ったところにあるアニマリー平原だ。大地の泉から流れて来るドレス川の影響で豊富な資源がある。山に囲まれて人間は殆ど入らない。どうだ。これで気に入らない理由は無いと思うが?」
「今回の移住の件、獣族の大方は賛成している。いい条件だと思う」
そう言ってミンディは本を畳んだ。
「よし、全て決まったということで祝杯をあげようではないか。君…出番だよ」
ドウマンはそう言って近くにいたシェフに指示を出した。
「はい、準備致します」
シェフは慌てて部屋の扉を開けた。
ミンディはシェフが部屋から出て行ったのを確認した。そして立ち上がった。
「私はこれで帰らせて貰います」
「別に構わんよ。これは私の趣味だからね」
ミンディも扉を開けて、階段を降りて行った。ドウマンとの話し合いに使われた部屋はクリスタル城の隣にある塔の最上階に位置していた。その為、階段で降りるには時間がかかる。ようやく地上まで降りれた時、何やら騒ぎが起きている事に気づいた。この辺りにの住民が集まっている。
「きゃー」
「誰か医者を呼んで下さい」
「ここから落ちたんだ、もう息はあるまい」
ミンディは入り組んだ人をかき分けて騒ぎの中心に来た。人が倒れている。その男に見覚えがあった。ドウマンだった。背中には刃物がつき刺さっている。
「ウソ…」
ミンディはふと顔を上げた。塔の最上階から誰かが覗いている。
−子供?
ミンディに釣られて、周りにいた住民も顔を上げた。
「おい、誰かいるぞ」
「手に血がついてるぞ」
「待てよ、見たことある顔だな。サーロン様の息子のロゼ様じゃ?」
「じゃあ、あいつがやったのか?」
「そんな………ロゼ様がなんで…」
それぞれ口々に住民は話している。
そんな中、ミンディは手のひらをロゼに向けた。取り敢えず魔術で捕らえる。クリスタル王国では王族でもそれなりに刑を受けることになっている。
「それはいけませんよ。獣族殿」
一人の住民に手をつかまれた。
「魔術を使ってしまうとあの塔まで崩れてしまうかも知れない。そうすると近くにいる住民まで被害が出る。ここはサーロンに直接報告しましょう。それでロゼ様は逮捕されるでしょう」
ミンディはその言葉にハッとなった。
「そうでしたね……すみません」
「構いませんよ。僕が通報しておきますから」
住民はそれだけいうと何処かに行ってしまった。
「いやー今日も頑張ったな」
俺はサウザーとの練習終わりにリックとシャワーを浴びていた。
「ロゼ君は流石だね。僕はまだ感知魔術が上手くいかないや」
リックは自分の濡れた体をタオルで拭いて言った。俺はというとタオルを使わず水と炎の魔術をうまく使って水を体から消している。魔術ってのはうまく扱えば便利なものだ。最近は特にこの世界に来てよかったと思っていた。
あれから俺の教育担当だったサウザーは、リックにも本格的に魔術を教えていた。リックはなんどもサウザーにやられては立ち上がって、魔術を習得していっていた。
リックが来てからは同世代(俺は人生二度目のおっさんだが)話し相手出来て、退屈せずに済んでいた。生まれながらに国王確定ルート、家賃もかからない、詳しくは知らないが税金も多分取る側。これであとは可愛い女の子とかいれば完璧なんだが……。
俺は頭の中でそんなことを考えながら、リックと風呂上がりにクリスタル王国名物のクリスタルアイスクリームを食べようと城内の売店に向かう事になった。
「僕アイスクリームなんて食べたことない。
「アイスクリームってのは、キンキンに冷えた甘い魔法の食べ物のことだよ」
俺は少し揶揄うように言った。
「まっ魔法の食べ物かぁ、そんなものがあるんだね」
相変わらずこいつは純粋だな。それにしても
アイスクリームの製造方法は前世と変わっていないと俺は見ていた。最も前世でもアイスクリームの製造方法なんて知らなかったが。
それ以外でもこっちの世界と前世で似ているところは沢山ある。リンスの奴がわざとそういう世界に俺を連れてきたのかどうかは分からない。でもお陰であまり苦労せずに済んでいるのも事実だった。
「冷た! なんだこれ」
リックはアイスクリームを口に入れた瞬間になんとも言えない顔になっていた。
「だから言っただろう。そういう食べ物なんだって」
「でも美味しい」
「それはよかった」
言葉とは裏腹に俺は気を張り巡らせていた。リックとアイスクリームを食べている間、密かに何者かが近づいて来る気配を感じたからだ。だけどクリスタル城内だった為、おおごとにはならないだろうとも思っていた。
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