第14話

 リックの母は諦めのような表情を浮かべながらも、ガロスを睨んだ。

「どうして、私を狙うの?」

「狙いはあなたではありませんよ。全てはリック君です。彼は特別な魔力量を持った超人なのです。彼を追い詰めて、本来の力を出させてから捕らえ高く売る。すると大金が手に入る。そうすればこのゴミだめの村も良くなるでしょう。君たち親子は尊い犠牲なのですよ」

「なによ、それ、グハッ…」

「もう毒が暴れ始めてますね。もう、持って数分。ではこれで別れの挨拶を済ませてもらいます。後はリック君によろしく。まぁその時は死んでるだろうけど」

 ガロスはそう言って苦しむリックの母を背に扉を閉めた。


 リックは何事もなく帰って来れて嬉しかった。今日はついているのか、それともあの村人たちも諦めてくれたのか。そうだ、ゆっくりご飯を食べて寝よう。そう思って家の扉を開けた。


 家の配置は変わっていない。だが、見知らぬ足跡が付いている。それは母が寝ている奥の部屋の扉までついていた。


 リックは心配になり、勢い良く奥の扉を開けた。するとそこには血を吐いて明らかに倒れている母の姿があった。

「お母さん、どうしたの?」

 反応がない。血が臭う。何がなんだか分からない。パニックになって来た。頭が痛い。体から何かが込み上げて来る。涙だ。涙が出てくる。これが悲しいという感情なのか。他にも込み上げて来る感覚。


 リックは走って外に出た。そこには沢山の村人が待っていた。なんだ、みんな心配で駆けつけてくれたのかな。と一瞬考えた。でも涙を拭いて良く見てみると違った。それぞれが網や刀と言った武器を持っている。


「リック君。もうお母さんはいないよ。僕達と一緒においで。甘いお菓子をあげるからさ」

「お母さんがいないってどういう事だよ。お前らが何かやったのか」

 リックの体から魔力が込み上げて来る。

「うおおあああああ」


 リックは走った。村人の前で跳躍する。村人達の頭を通り越す。やがて着地するとすぐに走り出した。

「クソ、追いかけろ」

 50人近い村人が一斉に後ろから追いかけて来る。

「はあはぁ」

 リックは思い出した。毎日のようにカツアゲや暴力を振るわれた日々を。それが嫌で外に出る時は、顔をマスクと帽子で覆って隠していたのだ。でもすぐに見つかってボコボコにされた。母も気づいていたかもしれない。でもその母もいない。


『何か有れば俺たちに連絡してくれよ。友達だらさ、この魔石にかけたら直ぐに出てやるよ。な、ロゼ』

『ああ、当たり前だろ』

 思い出した。魔石を売りに行った先で最初は人数合わせと言われながらも魔力ボールを通して仲良くなったカロ、ポタ、ダニー、ロゼ。まだ彼らがいる。

 

 リックはマスクと帽子を取って捨てた。走りながら赤い魔石を取り出す。通信に使われる魔石に全てをかける。

「お願い。村人に襲われてるんだ。助けて」


 俺は寝ていた。近くには赤い魔石が置いてある。そこからリックからもらった赤い魔石から声が聞こえてため、眠い目を擦りながら起きた。

「助けてって今どこにいるんだよ」

 魔石に注意を向けるとポタが既にリックと会話していた。

「ジャック村だよ。いつも魔力ボールをやってるところから見えるゴミ山の麓の」

「そうか、俺たちがすぐに向かう。それまで生き延びろよ」

  ゴミ山の麓か。俺の住んでるクリスタル城からだと少し遠いな。

「俺も魔術を使ってすぐに行く」


 子供部屋の窓を開けた。風が少し吹いている。だが、まだ足りないな。

風加速かぜのかそく」 魔力量1000

 背中から風を感じた。俺は窓から外に飛び降りた。風の力を使って衝撃を吸収して立ち上がる。


 ポタはダニーとカロを起こした後、三人で走っていた。二人とも眠い目を擦りながらついて来る。リックを魔力ボールに連れていったのは自分だった。魔石に興味があり、買いに行った時、自分と同じぐらいの子供が寂しそうでありながら、どこか心の奥に何かを秘めている目をして売っていたからだ。多分ロゼも、そのことが気になってリックに話しかけたのだと思う。


「二人とももうすぐだ。リックに何があったのかはしらねぇけど、あいつは友達だしほっておけねぇよ」

「僕もそう思うよ」

「そうだな」

 ダニーとカロも返事を返す。

 その時、三人の前の地面でから二人の男が現れた。ガロスとテウだった。

「なんだこいつらは?」

「なんだよ。リック君が助っ人を呼んでたから誰だと思ったら、こんなガキ三人かよ」

 ポタの問いかけを無視するようにテウは舌打ちをした。

「いや、残念がるのは早いぞテウ。この子達はリック君の精神を壊すのに使えるな」

ガロスはそう言って、手のひらから水を出した。


 俺はすぐに下級国民ジャラスが住んでいる橋の所までやって来た。この夜の時間は人通りが少ない。だから、橋の真ん中で佇んでいる人がいると余計に目立つ。


 俺のことを見つめている一人の男がいた。肩よりも長い銀髪を靡かせ、防具を全身に着込んでいる。俺にとって見知らぬ人だったが何故か呼んでいる気がして立ち止まった。

「ロゼ様。一体こんな夜にどこに行こうとしているのですか?」

 ここから先は行かせないというオーラが出ている。

「誰だ、あんたは?」

「シルバーエンジェルのウェルトです。以後お見知り置きを」

「シルバーエンジェル?」

「シルバーエンジェルが何かですか。残念ながらまだロゼ様にはそれを明かすことは出来ません。それより、私の質問に答えてくれますかな。こんな夜にしかも、下級国民ジャラスの元に向かおうなど、禁止されていることですよ」

 なんだこいつは。クリスタル城内では見たことがない顔だな。それに魔力量も30万とかなり高い。


 慌てるな。俺はこの国の王子だし、魔力量も俺の方が上だ。ここは威圧的に言って帰ってもらうとするか。

「俺は友達を助けに行くだけだ。クリスタル王国の王子としてな。だから、そこをどけよ銀髪。俺はお前より権力を持っているぞ」

 俺は体に魔力を溜め込んだ。

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