第13話
「よう、リック君。こんな時間に何処に行くのかな?」
僕はいつのまにか、体格の良い大人五人に囲まれた。特に最近になって僕はこの村で、悪い大人に絡まれることが多くなった気がする。
「ば、晩御飯を買いに行くんだよ」
「そうか…でもその前にお金見せてくれるかな?」
「え?」
「え? じゃねえーんだよ。いつものことだろうが」
そういうと五人は一斉にリックに詰め寄り財布を奪った。恐怖が体を走る。
「知ってるだろ。俺達ジャク村の人間は金がねぇんだよ。ガキが1万ルーだと? こんなに必要ないだろ。2千ルーで十分だ」
そういうと村人の一人はリックの財布からお金を抜いた。少なくなった財布をリックに投げつける。
「後は俺たちで山分けだな」
「ふふふふっ」
リックは体が震えて抵抗出来なかった。確かにこの村は貧しく、ゴミを拾うような仕事をしている人が多かった。だがそれでも自分は狙われ過ぎていると思っていた。それが何故なのか、自分では分からない。いや、多分僕がひ弱でダメな子供だからだろう。村は所詮こんな大人の集まりなのだ。
「もう用はねぇよ。早くどこか行け」
リックが立ち去る姿を見届けてから、五人の内の一人はお金を数え直していた。
「で、あいつの母親はいつ頃死にそうなんだ?」
「あの調子だと後一週間も持たないだろうな」
「では、そろそろ例の計画のことでガロス様からお呼びがかかるだろうな。それまでにリックの精神と肉体をもっと壊しておかないとな」
「それにしても、あんなガキに100万ルーの価値が本当にあるのですか?」
「魔力量が観れるガロス様がそういうんだ。希少な魔力量で売れば相当な金はなるとよ」
「それに俺たちはこれで金が貰えるんだ。安い仕事だと思わねぇか?」
「ふふふ、そうですね兄貴」
ガロスは自分の家の屋上からその様子を見ていた。ここからは村が一望出来る。この村で一番大きく、高いレンガで出来た建物に住んでいた。
ガロスはポケットから赤い魔石を手に取り、顔の近くに持ってきた。この魔石は通信に使われるものだった。魔力を流し込むことで音声を相手に伝えるA級の魔石だ。
「よくやった、お前ら。今晩の報酬を払う。俺の館に来い」
「ありがとうございます」
魔石から向こう側の声が聞こえてくる。ガロスは感謝の気持ちを込めた。
「これからも奴の邪魔を頼むぞ」
「はい、喜んで」
それから一週間が経った。その間にリックは毎日カツアゲを受けたり、何処からかゴミが飛んできてぶつかったりと明らかに攻撃されていることが分かった。今日で最後にして欲しいと思いながら、外に出ていた。
幸い魔石売りは順調だったし、魔力ボールに誘われるのも悪くなかった。ロゼとも仲良くなり、自分の境遇を話したり、魔石に付いて色々教えてあげた。特に魔石で通信したり、スクリーンに映したりと凡庸性のある使い方に目を輝かせていた。リックは単純に嬉しかった。ロゼが自分にとって眩しい光のように感じた。
「おーい、リック。なんか、首のところにあざがあるけど、どこかぶつけたのか?」
魔力ボールの休憩中にロゼに話しかけられた。
「えっと…、これは……」
リックは少し喋るのをためらった。それを感じ取ったロゼが聞いてくる。
「何か悩みがあるなら、俺に言えよ。俺はこの国の王子様なんだぜ。リックが困ってるなら、俺は国家権力を駆使してでも助けるぜ。それが友達ってもんだろ」
「そ、そうだね。実は…」
そこから先リックは吹っ切れたようにロゼに母親が病気のことや今までに起こった自分を狙った攻撃のことを語った。語っている内に肩の力が抜けて来た気がする。これが悩みを友達に打ち明けるということかもしれないと思った。
夕暮れになり、リックは肩の力が抜けた状態で村に帰って来た。母親は相変わらず寝たきりだった。
「おかえり、リック」
「おかえり、お母さん。今日は薬を買ってくるからね。待ってて」
「リック無理しちゃだめよ。無理矢理外に出て危ないことに巻き込まれたらだめだよ」
リックは内心がぎくっとした。現状毎日のように周辺の村人に、嫌な思いをさせられている。今日もおそらく来るだろうと思われる。でもそのことを母には話していなかった。病気の母に余計な心配はかけたくない。
「大丈夫だよ、お母さん。この周辺の人は皆親切に僕に話しかけくれるんだ。それに僕も、周りには注意してる。何もなく帰ってくるよ」
「そう、ならいいけど」
母はそう言いながらもリックのことをじっと見つめていた。リックはずっと心の中で震えながらも、平常心を装った。
「うん、もう行ってくるよ。直ぐ帰ってくるからね」
「リック気をつけてね」
母は少し起き上がって扉を開け部屋から出て行くリックを見つめた。
無造作に置かれているドラム缶の物陰から男が動いた。リックが家が出たのを目視で確認した。その瞬間、影は地中に潜り込み、その穴をドラム缶で隠して姿を消した。
土の中に穴が空いた。やがて、村で一番大きな家の庭に男は姿を現した。
「ふぅ…、後で穴を埋めておかないとな」
「ご苦労だなテウ。で、リックの奴は出て来たのか?」
「はい、ガロス様。何も知らずにノコノコと晩御飯を買いに行きましたよ」
「そうか、作戦決行だな。あの女も今日限りの命だ。最後の毒盛りは俺も立ち合おう。死んだことも確認したいしな」
「はい、ガロス様。地中を辿っていけば奴の家まで直ぐですよ」
「よし、出立するか。お前らはリックが村から逃げ出すタイミングまで隠れていろ」
そう言って、ガロスは後ろを振り返った。そこには今日のために集まった、武器を持った村人の集団が50名程度いた。
リックの母は何者かの魔力を伴った気配を感じて扉のほうを見た。
トントン。ノックの音が響いて、扉が開いた。一人の男が入って来る。
「こんばんわ」
「あなたは、ガロス村長。何故ここに?」
「おやおや、まさか気づかなかったのですか? 私は毎日あなたの家の前に来て、ゴミを捨てていたのですよ。」
「ゴミ? まさか……あなたが?」
「そうですよ。あのゴミには水魔力の毒の水分を含ませてありました。それも、リック君が毎日夕方には帰ってきてどかしてましたけど。それでも毎日、半日は吸い続けていた事には変わりはない。誰も魔術だと気づかないままじわじわと体に毒が周りやがて死に至ます。そして、今日がその時なのです」
ガロスは悪魔のように楽しそうに笑っている。自分の計画が思い通りに進んで嬉しかったのだ。
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