第8話

 俺はエレナにおぶられながら、新しく作り直された子供部屋に連れられた。オロスターの襲撃から2年が過ぎていた。城の大部分の修復が終わり、新たに生まれ変わったクリスタル城は新品の香りがする。


 最初に子供部屋に入った印象は前の部屋よりも、だいぶ広くなっていたことだった。以前は無造作に置かれていた魔術品も固められ本や木刀といった本格的に教育する為のスペースになっていた。


 そして何よりも先に俺の子供部屋に三人の人間が待っていた。

「紹介するは、左からモル、ピュナ、サウザーよ。ほらロゼ様あいさつしてね」

「こんにちは」

 この2年で簡単な言葉だけ喋れるようになっていた。モニカに教えて貰ったおかげだった。

「良し、全員揃ったからそれぞれの役割を紹介するね」

 モニカも移動して他の三人と並んだ。


「まず、私モニカは、今まで通りこの世界の文字や言葉を教えて行く担当です。引き続きよろしくね」

 モニカは相変わらずのメイド系ファッションだった。

「魔軍居局長のサウザーです。ロゼ様お初です。魔術や剣術を教えて行くことになりました。普段魔軍局にいるんでロゼ様の権力で呼んでくれたら駆けつけます」

 俺は歓喜した。なんといっても破壊竜オロスター戦での戦いっぷりを見ていたら憧れを抱かざるを得ないだろう。何度も命を助けられた。モニカもさっきからチラチラとサウザーを見ているがその気持ちも分かる。イケメン、強い、高身長の3拍子揃っているのだからな。異世界でのモテ男ってとこだろう。

「初めまして、ピュナです。この世界の歴史、地理、国の仕組みについて教えます。よろしくお願いします」

 美女家庭教師感が強い女だな、と言った印象だった。黒髪ロングのメガネ、顔のほくろ、スーツ姿が似合う。おっとイケナイ、俺はサウザーと違う意味で興奮してしまった。

「僕はモルだよ。みんなからはモル先生って呼ばれてるよ。科学者だよ。よろしくだよ」

 お相撲さんのような見た目の男がゆったりとした口長でいった。なんかキャラが濃そうなヤツが出てきたなと俺は思った。

「クリスタル王国にいる最大の実力者を集めました。全てはロゼ様に最強の王になってもらいたいからです。ロゼ様ならきっと良い王になれますよ」

 モニカが嬉しそうな表情を浮かべた。

 えーとこういう時どうするんだっけ。

 見た目は両足で立つことが出来たぐらいの子供だが、精神年齢は37歳だ。

「みんな…よろしくね」

 子供ぽくいってみた。

「ほう…もう喋れるのか」

 サウザーが少し驚いたようにいった。

「え、かわいい。将来は立派になってね」

 ピュアが口元を手で隠した。

 よしよし、こんな感じでいいぞ。受けは完璧だ。しばらくはこの感じで生活していこうか。


 それからは毎日のように四人からそれぞれ色々なことを教えて貰った。さすがは、国王の長男だけあってとんでもない力の入れ用だ。前世とはまるで違う。誰にもいじめられず、見せ物にもされなかった。逆にクリスタル王国の城の中では特別に優しくされた。多分、俺の物覚えが良いのもあったと思う。前世の経験があったからだということは流石に言わなかったが。

 朝昼夜は王宮で料理人が運んでくれる高級そうな飯が出された。かなり美味しかった。飯を食い終わると、それぞれの決められた時間に教育担当者が子供部屋に来て、色々なことを勉強していった。

 夜はフカフカのベッドで寝る。その繰り返しだ。俺は王家の生活を堪能した。


 四人に教えられて分かったのは俺には魔力量の多さに異例の才能があるらしい。これも異世界のはざまでリンスに与えられただけなのだが、それも黙っていた。一方でサウザーの教え方も良かった。

 魔力量の多さでサウザーに驚かせたことがあった。それは魔軍局がいつも使っている広大な訓練場でのことだった。

 俺はサウザーと向き合い、魔術の基礎を教えて貰っていた。後ろにはコランも控えていた。

「ロゼ様、この世界の魔術は5つの性質に分かれている。水、炎、土、風、雷だ。それぞれ、弱点があり、基本的に魔術がぶつかった時に、水は炎に強く、炎は風強く、風は土に強く、土は雷に強く、雷は水に強い。だが、覆すことも可能だ。それが魔力量。魔力量の差が大きい強力な魔術は小さな相性の悪い魔術の攻撃を跳ね返せる」

 それを聞いて、俺はオロスターがコランの水の魔術を火で蒸発させたのを思い出した。

「では、早速ロゼ様にもやっていただきたい…というところなんだが、ロゼ様は既に

魔術品に触れた時に白魔術を発症している。これは5つの性質全てを開花させ、さらに融合しないと発動しない魔術なんだ。だから質問がある。白魔術は意識的か無意識的のどちらで出してるんだい?」

「えーと、魔術品に触った時も、オロスターと戦った時も無意識だったな」

「そうか…ならば逆をいくしかないな」

 そういうとサウザーはポケットから何やら石を取り出した。

「これは魔石と言ってね、この世界に存在するあらゆる鉱石を含んだ石なんだ。この魔石を改良して様々な物に応用できる。その中で一番価値のあるS級の魔石には魔術を分散させる力がある。まずは…ロゼ様がこの魔石に白魔術をかける。それから、俺とコランがそれぞれ、合わせて5つの性質をかける。そして一つ一つ、引き離す。その時、性質を体に取り込む。まずは白魔術を魔石にかけるところからかな」

「あの〜僕どうやって白魔術を出すのかいまいち分からなくて……」

「まずは、魔石を力を込めて思いっきりにぎる。それから体の中にある白をイメージするんだ。頭の中を白くする感覚かな。最後に敵に襲われているところを想像する。例えばオロスターに追い詰められてるところとかさ」

 

 俺はサウザーから魔石を受け取った。そして、力いっぱい握った。頭の中で俺は思い出していた。あの時、オロスターの炎が魔軍局や自分の母であるエレナを飲み込み、俺を襲ってきた姿を。リンスの力に助けられた。確か、体の内側から圧倒的なエネルギーが出てくる…そんな感覚。そうだ…お腹のあたりだ。そこから力が全身に周り、エネルギーを放出したのだ。


 手のひらが熱くなる感覚があった。単なる摩擦や体温じゃ無い。魔石が俺の拳の中で白く輝いた。

「よし、まずは炎の魔術を引き出す。コランも頼むぞ」

「へい」

 サウザーが雷と風を、コランが水と土の複合魔術を俺の手のひらの上に乗っている白く輝く魔石にかけた。

 魔石のから炎の姿が現れた。俺の目の前にそれは広がった。

「ロゼ様、今です。炎に触ってください」

 俺は炎の中に手を伸ばした。体の中に炎の魔力が入っていく。かつて味わったことのない体験だった。異世界に入ってまた一つ何かを得た様な気がした。


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