第9話
俺はその後、残りの雷、風、土、水の性質を同じ方法で白魔術から引き離した。
「さてと……ようやく魔術を教えれるな。ロゼ様、こっからはもう手加減出来ないっすよ」
そういうと、サウザーはニャッと笑い、拳を大袈裟に振り上げた。
「へっ?」
消えた。気づいた時にはサウザーはその場に居なかった。いや…正確には俺の目の前にいた。
「グハッ」
俺は何が起こったのかは分からず、だが吹き飛ばされたのだけは分かった。倒れた俺は上半身だけ起こした。右のほっぺたがジンジンと痛んできた。
「今、俺はロゼ様の右のほっぺたにビンタした。でも、もし、自動的に魔術でこれが防げたらどうだ。すごくないか?」
「魔術で自動的に防ぐ、そんなことできるのか?」
「ああ、できるさ。魔術同士の戦いは常に死が取り巻いている。だから……これからは死を意識した魔術訓練に入る。その為に、まずは俺とロゼ様の間の上下関係は取っ払う。死の間際で上下関係など邪魔なだけだ」
そういうことか……面白くなってきた。異世界での修行イベントってやつか。二度目の人生、こっからが勝負だ。
「オッケー、サウザー。俺は強くなってみせるぜ」
「ふん、その勢いだ」
俺はメキメキと様々なことを覚えていった。魔術には技を出す前の基本的な動作が二つに分かれていることも知った。それが、放出魔術と纏魔術だ。
「おっ、そうだ、うまく纏えてるじゃん。纏う魔力量が大きいほど魔術攻撃を受けた時に体へのダメージは軽減される。そして放出魔術で目の前の空間に魔術を放出して周囲に影響を及ぼすんだ」
「へい、サウザー先生」
俺はモニカが自分を庇って城の瓦礫に埋まってしまった時のことを思い出していた。あの時モニカが助かったのはこの纏魔術のおかげという訳だ。
それから、纏魔術の応用で魔力量の見方も教えて貰った。これは性質はなんでもいいから魔力を目に貯めて相手を見ることで、相手と自分の魔力を測れる物だった。これで俺は自分自身の魔力が100万であることを自分で確認出来た。たしかに周りが言うようにクリスタル王国で俺より高い魔力量を持っている人は見当たらなかった。総合的にクリスタル王国最強と謳われているサウザーの魔力量が50万なので確かに潜在能力的に期待されていることがが分かった。
そこから7年程月日がたった。ある日、クリスタル王国では新たなニュースに浮ついていた。クリスタル城を含む国内で皆んなが朝から夜までパーティをしていたのだ。そんな雰囲気が冷めた夜中、にウェルトはサーロンの王室に呼び出された。
「サーロン国王様、第二子誕生おめでとうございます。これでまた、クリスタル王国は安泰になりますね」
「ウェルトか、お前はロゼの白魔術と魔力量のことをどう思う?」
ウェルトと言われた人物は顔に傷があった。全身を防具に包み、刀をを背負っている。
「生まれ持った才能としか思えませんね。赤ん坊の頃に既に白魔術を放出したと聞いた時は驚きましたが」
「才能か…、ウェルトよ、シルバーエンジェルは何のために存在する」
「クリスタル王国の繁栄の為に邪魔な存在の暗殺、あるいは妨害を行い国王様を影で支えるのが我々の使命です」
「その通りだ。局の連中は総会議ではロゼの白魔術について誉めていたが、俺個人の考えは少し違う。ロゼが破壊竜オロスターを呼び寄せたのだ。ロゼが2年にわたるクリスタル王国の城の修理の原因になった元凶だと俺は思っている」
「ほう、では我々にどうして欲しいのですか?」
ウェルトは悪魔のような笑みを浮かべた。
「国の至る所にロゼの悪い噂を流し続けろ。ただし、過剰にやる必要はない。少しの噂を継続的に続けるんだ。噂は人から人に流れる。やがて、ロゼではなく、次男のティムの声が大きくなるようにすれば良い」
「了解です」
一言そう言ってウェルトはサーロンの前から消えた。ウェルトは生まれてからずっとこの仕事をやってきた。自分自身も魔軍局のような全体行動的な強さより、もっとスリルを求めていた。いずれはサーロンはロゼを始末するかも知れない。その時は是非自分にやらせて欲しいと思っていた。
次の日サーロンの王室にはティムを抱いてるエレナと付き添いのモニカが現れた。室内ではサーロンの執事たちが部屋の隅を掃除していた。
「エレナか、俺のところになんのようだ」
サーロンは大きなソファに座って両手を広げて足のマッサージを受けていた。
「私はそろそろロゼ様に城の外の世界を探検させるべき時期が来たと思っています。是非、許可をお願いしたいのですがどうですか?」
「まだ、半年は早いな」
「何故? ロゼ様はもう今年で8歳よ。いくらわたし達キング家の後継者といっても普通の子なら既に外で元気に遊んでいる年齢のはず。いつまで、そうやって城の中に閉じ込めておくつもりなの?」
– いつまでだと? シルバーエンジェルがロゼの悪い噂を国内に浸透させるまでは少なくとも半年のかかる。それまではロゼを外に出すわけにはいかないのだよ。
「ゴホン、エレナよ。俺が誰だか分かっているのか?」
「ええ、あなたはクリスタル王国の王でこの国で一番偉い。でもね、私はクリスタル王国の将来を決める子供のことを考えて、そう発言しているのよ。あなたにももっとその自覚が有れば良いのだけど」
その瞬間、サーロンの足のマッサージをしていた従者の女性を蹴飛ばして立ち上がった。ドンと音がして、従者の女性は壁にぶつかった。
「ほう……王女の分際で俺に意見する気か? この国で一番偉いのは王であるこの俺だ。エレナ、お前は黙ってティムを育てろ。ロゼのことは俺に任せておけ。わかったら出て行け。お前もあの女のようになりたくなかったらな」
サーロンは蹴り飛ばした従者の女性に指を刺した。壁に激突して震えてうずくまっている。
エレナもその方向を見た。自分自身と従者の姿が重なった。エレナはティムを抱いたまま黙って王室から出て行った。モニカも後に続いた。
「モニカ、提供すまんな。ありがとう」
アランは予め、エレナがティムを連れてサーロンにロゼを城から外出するという許可を貰いに行くということを知っていた。だから、モニカに頼んでエレナの従者としてついて行き、サーロンの様子を探らせていたのだ。
「この録画が入った魔石はアラン様にお返しします。私はこのことは一切他言にします。じゃあ、ロゼ様もバイバイ」
俺は複雑な気分になりながら、モニカに子供らしく手を振った。
「どうですか、ロゼ様。これが今のクリスタル王国の内政の実情です。サーロン国王は国の他の人の意見を聞かず自分勝手に振る舞っています」
「確かにこれは変だな。実は父親に関してはほとんど会ったことないんだよね。まさかこんな感じの人だとは……」
あのサーロンのおっさんこと俺の父親はまさかの癇癪持ちなのかよ。こういう人がいるのも前世とは変わらないんだな。この出来事をきっかけに俺は父親に不信感を抱いたのであった。
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