第7話

「これより、クリスタル王国の上級国民ジースによる総会議を開催する。まずは出席者の挨拶だ」

 クリスタル王国で破壊を免れていた半円形の集会場で講壇に立った。その周りの最前線を五人の代表が一人の王を囲む様に座り、その後ろにも大量の人が座っている。中央にいるサーロンがいった。

「まずは、マハダ総局長」

 坊主頭で僧侶の格好をしている男が手を組みながら言った。

「よろしく」

 その一言はしわがれていた。歳は70前後といったところだろう。ゆっくりと周囲を見渡した。


「外交局からアラン局長」

「はっ、この度は破壊竜オロスターの襲撃の復旧で皆さんお忙しい中ありがとうございます。私ども外交局が今こそ国外との連携を強化して問題解決に向けて取り組んでまいりますのでよろしくお願いします」

 ほこりひとつ無い、紺色のスーツ姿に整った黒髪のアランはそう言って一度礼をした。


「次は魔軍局よりハイゼン軍師」

「ハイゼンと言います。現在魔軍局はサウザー局長、コランは副局長がオロスター戦の傷で入院中の為、私が代理を務めさせて頂きます」

 仮面を被った男がくぐもった声でそう言った。

「なぜお前は無事だった?」

 後ろの席から大きな声がした。

 その男は金髪で七三分けの髪型。体は鍛えているのか、かなりゴツい。

「これはチーク殿。詳しくは話せませんが、私は特殊な風の魔術を習得しています。チーク殿こそ、戦闘に参加しないで何処にいたのですか?」

「なんだと? この仮面野郎が」

「ゴホン。おい、二人とも静かにしてもらおうか?」

 サーロンは魔力を篭った殺気で言葉を放った。それを聞いてハイゼンとチークは座り直した。

「では、次に資材局のケイブ局長」

「へい、俺が資材局のケイブだ。まぁ主にクリスタル王国の資材を調達したり、生成したり、管理したり、とやることは大量にあります。今はオロスターの野郎が壊した城を修復に時間を割かれてるせいで、趣味の魔石集めがが出来ていません。非常に遺憾です」

 ケイブは年齢は40歳ぐらいだろうか。身長は150センチだが、どこか器用さを感じる。

「次は医療局の局長で我が妻エレナ」

 ドレス姿のエレナは立ち上がり、一礼をした。

「医療局長のエレナです。皆さん、この度は破壊竜オロスター討伐お疲れ様でした。負傷者は全員クリスタル王国の各病院に搬入しました。医療局総出で対処し、全員を健康的に送り出します」

 エレナはもう一度礼をして、座った。

「次に通信局のルーテ局長」

 ルーテはロングの緑髪の外から通してはめている、自分のゴーグルを片手で触った。ゴーグルから光線が出て、半円形に座っている皆の中央に映像が写し出された。

「私がルーテだ。これがオロスター襲撃に対しての下級国民ジャラスの反応だ。データによると90パーセントの下級国民ジャラスがオロスター討伐に感謝している。その中で、60パーセントの下級国民ジャラスがロゼ様のお陰でだと声を上げている状況だ」

 そういうと、そそくさと映像を閉じた。


 サーロンはいった。

「今回集まったのは、他でもない、破壊竜オロスターの襲撃のことだ。未だになぜ、クリスタル王国の城の上に現れたのかは不明だ。だが、結果的に魔軍局、エレナと我が長男ロゼのお陰で助かった。それは感謝する。それから、今回は襲撃自体が予想外だった。特別に処罰はなしだ。全員治療に専念せよ」

「サーロン国王様、ありがとうございます。ロゼ様の潜在能力は非常に興味深いものです。ちゃんと育てれば、クリスタル王国最強の魔術師になれるでしょう」

 仮面の男、ハイゼンがいった。

「うむ、ワシもそう思うぞハイゼン。ではエレナよ、ロゼの成長の手助けの為にクリスタル王国中から優秀な教育者を探して、三人つけよ。もちろん、この会議の中のメンバーでも良いぞ」

「既に検討しています。話しを通すだけだわ。安心して」

「ふん、ワシの息子だ。それは強く無くてはな」


 すると突然、サーロンの前に映像が映し出された。

「オロスターは恐らく白魔術に反応したのだと思う。証拠がモニカの証言だ」

 ルーテはまたゴーグルをいじった。

 映像にモニカが映し出される。

『確かに、直前にロゼ様に魔術品を触らせました。でも、まさか白魔術の反応を得るとは思いませんでした。すみません、私が責任をとります』

 映像はそこで終了した。

 サーロンは血の気が変わった様にルーテを見た。

「ロゼが白魔術を使えることを自覚しているのか?」

「さぁ、彼は赤ん坊ですし、そこまで意思があるかは本人にしか分かりませんね」

「ちょっと待って、ロゼに罪はないわ。白魔術は彼の才能に違いない。私が白魔術使いの過去の人達みたいにはさせない。しっかりと教育すれば大丈夫よ」

 エレナが立ち上がってサーロンに訴えた。

「それはワシが決めることだ。とにかく、教育担当者には、白魔術の過去だけは伏せさせろ、これは命令だ」

 サーロンはそういうと腕を組んで仁王立ちした。

「はぁ」

 アランはやれやれという様にため息をついた。


「ゴホン。良し、ロゼのことはもう十分だな。それで眠りについたオロスターだが、既にシルバーエンジェルが引き取っている。お前たち局の人間は手を出さないように」

 サウザーは最前線に座る五人に忠告した。

 アランは納得出来ない様子だったが、サーロンはクリスタル王国の国王で一番の権力者だ。逆らう訳にはいかず、頷いた。

 他の四人もそれぞれ返事や頷きで返している。


 これで、会議は解散になった。アランは帰って行くハイゼンに喋りかけた。

「サーロン国王にも困ったものだな。シルバーエンジェルを私物化して、我々には一切情報を教えないとはな」

「現状、誰もサーロン国王には逆らえないのだよアラン局長。前国王様が亡くなってからというのも、金や権力を自分のものにしてやりたい放題している。それでも、この国が豊かだから、まだなんとか保っていられるのさ」

「ロゼ様のことはどう思っておられるのだろうか…」

「国王の性格からして、自分より能力があるであろう、ロゼ様とどう接して行くのか。これから、じっくりと様子を見ていこうではないか」

「接し方次第では、我々も行動を起こさないといけないのか?」

「おっと、そこまではいってないだろ、アラン局長」

 ハイゼンはアランに仮面越しに鋭い目を向けた。


 サウザーの元に話が来たのはその次の日だった。サウザーはベッドの上で何やら本を読みながら寝転んでいた。

「俺がロゼ様の教育者だと?」

「はい、あなたほどの実力者はクリスタル王国には居ません。それに暫く怪我で動けないのもあるとか…」

 近くで座っていたモニカはそういってサウザーを元気づけた。モニカは何故か顔を赤らめていた。

「も、もし良かったら私と…」

 その時、ドア側開いた。

「サウザー局長、ロゼ様の教育担当おめでとうございます。魔軍局副局長として、とても嬉しく思います」

 コランがドアをノックせずに大股で入って来た。鼻息は荒くサウザーがロゼと関われることに興奮していたのだ。

「確かに任されたが、俺がいない時はお前が魔軍局が背負ってくれよ。頼むぞ」

「まーかせて下さいよ。この俺が魔軍をビシバシ鍛えて、オロスター程度じゃ負けないぐらいの軍にしてやりますよ。」

「いつも威勢はいいんだがな…」

 モニカはコランのことを睨んでいた。サウザーとの折角の二人っきりのタイミングで仲良くなろうとしたのを邪魔をされて内心少し怒っていたのだ。


 

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