第6話

  見えない力が俺の中に入って来る。全身の細胞が活性化していることが分かった。頭の中で何かがプログラムされていく。

 目の前では迫り来るオロスターの炎が俺の命を奪おうと向かって来る。炎の渦の横に魔力量が表示されているのが見えた。


 魔力量40万

 どういう威力のものなんだろう。そんなことを一瞬考えた。だが俺はすぐに、炎が近くまで来ているのだから、そんなことを考えている場合ではないことを悟った。

 更に俺は自分の体の横に同じように魔力量が表示されていることに気づいた。


 魔力量100万

 魔力量100万か…魔力量が分かったところで意味がないんだよな。俺はさすがに焦っていた。焦るのと同時進行で何かが俺の体内で動いていた。そして、俺の身体が何故か白く光り輝いた。それは俺だけでなく、周囲すらも巻き込んでいった。


「ロゼよ。まだ異世界で生きたければ、これから私の後に続いて魔術を魔唱しなさい」

 突然どこから共なくリンスの声がした。

「そんな時間ねぇだろ。もう攻撃がすぐそこまで来ているんだぞ」

 ロゼの目の前には、いつの間にか異世界のはざまの空間が顔を出していた。

「ロゼ、あなたは本当に馬鹿ね。異世界と私は別次元の存在なの。よく見なさい。私とあなたの会話の間、異世界の時空は動かないようにしてあるわ」

「そういえばさっきから向かって来てないな」

「前世では苦労が絶えなかった原因は、やっぱりあなたの頭が馬鹿だったからでしょうね」

「おいおい、トラウマを掘り返しに来たんじゃねぇーよ」

「うるさいわね。せっかく人が助けてあげようとしてるのに」

「っ…、はいはい、やりますよ」

「よし、いい子ね。じゃあ早速行くわよ。せーの、白魔術 鏡神倍返ゴッドレクト

「白魔術 鏡神倍返ゴッドレクト」 魔力量90万


 俺はリンスの後に続いて、同じ言葉を言った瞬間、目の前にクリスタル城をはるかに超える巨大な鏡が出現した。破壊炎竜巻ブレイキングフレイムの炎の渦が鏡に映る。すると、鏡から同じような炎の渦が出てきた。それは、白い光に包まれ、白色の炎に変わった。

 白と赤の二つの炎の渦がぶつかった。天にも登る衝撃が走った。同時に白い炎の渦は赤い炎の渦を消し去り、オロスターをも飲み込んで成長していき、やがて天に登っていった。


 破壊竜オロスターは完全敗北した。白い炎によって焼かれ、魔力も尽きた。

 ワシはまた、負けたのか……。白魔術…必ず災いを起こす……。それまでに……きっと…はやってくる。そう信じて…今はただ待つ…。



「ただの赤ん坊が魔力量90万の白魔術だと。どうなっている」

 焼け崩れて地面に落ちていったオロスターを見て、キング・サーロンは驚きを隠せなかった。

「サーロン国王様、総会行きのお車の準備が整いました」

「ジルか、直ぐ行く」

 サーロンは考えた。息子のロゼは俺以上の魔力量を持っているだけじゃない。赤ん坊でありながら、なんらかの方法で白魔術を使い、オロスターを倒した。異常なことだった。これは才能なのか、それとも何か別の災いなのか、見極めなければならない。ロゼを利用し手なづけて、自分の地位をキープできるように。



「負傷者はこちらにお願いします」

 医療局の中央病院では大量の人間が医療ベッドに運ばれて、魔術による治療が行われていた。

「エレナ様、コラン様が先ほどからベッドで暴れていて、薬飲んでくれません。ラル困ってます」

「分かりました、ラルは患者は薬の調合をお願い」

「はい、エレナ様」


「俺は薬なんて飲まねぇぞ」

「困ります。コラン様。薬を飲まないと治りませんよ」

「うるせぇ。俺は人生で一度薬を飲まずに生きて来たんだ。ここで飲むわけにはいかねぇだろ」

 その時、ベッドルームの扉が開いた。

「あら、コランちゃん。まだ薬飲んでないのかしら?」

 コランはエレナが部屋に入って来たのを見た瞬間、血の気が引いた。

「こ、これはエレナ様。く、薬ならちょっと野暮用で飲めなかったんですよ。あ、安心して下さい。まぁ、俺は普段から鍛えたますから、薬なんて飲まなくても治せますけどねぇ」

 それを聞いた途端、エレナはドンッとコランのベッドに片足を乗せた。

「薬は大切な飲み物です。ちゃんと時間と適量を守って下さいね」

 エレナの魔力を含んだ殺気に怯んだコランは薬の入ったコップを持ち上げた。

「もちろん、美味しくいただきございます」


「うるさいな……横の部屋のやつ」

 同じくサウザーもベッドで横になっていた。そこにお見舞いに来ているのか、もう一人いた。

「元気でいいことだ。それより、まさか魔軍局にここまで負傷者が出るとは。破壊竜オロスターの強さが窺い知れるな」

「あいつは魔力量80万の魔力持ちで、魔軍局がやられたのは40万の魔力量の攻撃だった。

正真正銘のバケモンだ」

「そんな攻撃をロゼ様が…」

「そこだよアラン。ロゼ様は魔力量100万という人類の中でも希少な魔力持ちだ。と言ってもまだ赤ん坊で魔術の出し方も分からない筈だ。一体どうやってオロスターを倒したんだ」

 高級そうなスーツに身を包んだ、黒髪のアランと言われた男は持ってきた花瓶に魔力をこめるため、手をかざした。

 すると何も入っていないはずの花瓶から花が咲き、その花の中央から何かの資料が魔力によって可視化されたものが出てきた。

「報告によるとロゼ様は魔力量90万の白魔術を使い、オロスターをの魔術を押し退け、一撃で倒したそうだ。到底人間技とは思えんな」

「クリスタル王国、キング家の末裔だ。我々でも知らない何か秘密の力があるのかも知れんな」

「どうだかな。どちらにせよ、それ以上は俺達の関わるべき領域じゃないな」

「そうだなアラン。ロゼ様という頼もしい魔力量を持つ方がクリスタル王国の国王の後継者として生まれてきた。それは喜ばしいことだ」

 サウザーはそういうと、窓の外を見た。今日は空は雲一つない青空だった。それは事件が一つ終わった平和な一日だった。



 俺はオロスター戦後、母のエレナの部屋によって城の地下にある特別保護施設へと連れて行かれた。そこでメディカルチェクを受け、何もないことが確認されると、とりあえずはオロスターが破壊した城が修復するまでの間、特別保護施設が住処となった。

 俺を庇って城の瓦礫の下敷きになったモニカは現在入院中だという。それにしても、すごいことだ。あんな高いところの城が崩れて、さらに大量の瓦礫の下敷きになったのに、死んでないとは。これが異世界人の生命力ということなのか、それとも魔術とやらのおかげなのか、まだ分からない。というか、分からない事だらけだ。


 まぁいいさ……、正真正銘の第二の人生を歩めるんだ。それに感謝して、確実にゆっくりと進んでいこう。前世よりも絶対に充実させてやるぞ。

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