第5話

炎破壊衝撃波ファイアインパクト」魔力量 10万


「はあはあ……またか」

 サウザーはオロスターの予想以上の実力に苦戦していた。後ろを振り返る。背後で逃げているロゼ様とモニカの方を見た。この攻撃はコランとリスターでは対処出来ない。そして、モニカ達も逃げきれない。

「やるしか無い。三魔合守さんまごうしゅ」 魔力量 5万×4


 サウザー、コラン、リスター。そして少し離れた後ろにいる、モニカとロゼもバリアの壁に包まれた。炎、雷、風の3つの魔力の複合体がそれぞれ炎の攻撃から身を守った。

 だが、同時に後ろのクリスタル城は半壊した。その崩れていく城を遠巻きに国民が見守っている。

 モニカは攻撃が当たる瞬間、自分の背中を盾にして、赤ん坊のロゼを庇う様にかがんだ。

「ロゼ様、守らなくてごめんね」

 モニカは目をぎゅっとつぶって、どうか助けて下さいと祈る様に攻撃に備えた。


 だが、攻撃は来なかった。サウザーのバリアによって守られたのだ。しかし城は崩れた。足場にひびが入り、そのまま床が崩れて下に落ちた。頭上から瓦礫が降ってくる。視界が暗くなる。

土命鎧アストシールド」 魔力量2000

 モニカは最後の力を振り絞った。ロゼ様だけはなんとしても守る。たとえ、自分の体が瓦礫で押し潰されたとしても。


 サウザーは城が崩れていく様子を見つめていた。哀れなものだった。自分のせいだ。魔軍局の局長として、クリスタル王国を守るのが使命のはずだったのに、このザマだ。

 その一瞬の後悔がサウザーに隙を与えた。

炎竜頭ファイアヘッド」 魔力量10万


 オロスターがこちらに向かって突進してきた。

二刀水剣ダブルすいけん」 魔力量2万

撃雷サンダーパンチ」 魔力量1万

 先に気づいた、コランとリスターがオロスターと応戦する。だが、力の差で吹き飛ばされる。

 サウザーは三叉刀を構えた。

 残り魔力量は8.4万か…普通に考えればこの魔術は止められない。だが、それでも。


三魔断絶さんまだんぜつ」 魔力量5万

 炎頭ファイアヘッドに対して突撃する。

「破壊竜が、舐めるなよ」

 三叉刀が軋む音がした。限界だった。

 そう思った時、急に三叉刀にかかる圧力が弱くなった。よく見るとオロスターの顔が歪んでいる。


医体衝撃炎メディカルリンク」魔力量7万

「グオオオオオオオオオ」

オロスターは地面に落ちていった。

「サウザー様、大丈夫ですか?」

 ハイゼンが大声で声をかけてきた。

 魔軍局の軍隊が来ていた。

「ハイゼンか、助かった」

「あ、今のは私ではありませんよ」

「細胞を内側から焼く魔術です。これで大人しくなれば良いのですが」

 背後から女性の声がした。ハイゼンとエレナは何かの魔術で空に浮いていた。

「これは、エレナ様でしたか。まさか女王様本人が駆けつけてくれるとは光栄です。ですが危険です。ここは魔軍局を盾にできるだけ前に出ない様願います」

「サウザー、私はそれほど弱くはありませわよ。それとロゼはどこですか?」

「はっ、それが……あの城の瓦礫の下にいる可能性があります。魔軍局で今すぐ探そうと思います」

 そういうと、皆一斉に崩れたクリスタル城の瓦礫を見た。

「まあ、なんてことを」

 エレナは不安そうに下を眺めた。

 

「ハイゼン、頼んだ。」

 サウザーはハイゼンに指示を出す。

「はいよ、大風浮遊おおかぜふゆう」 魔力量2万

 地を這う風がどこからともなく吹いてきた。その風が瓦礫を下から持ち上げる。大量の瓦礫が宙に浮いた。

 瓦礫の下の地面に人が埋まっていた。うずくまったモニカに抱き抱えられたままのロゼである。

「ロゼ様、モニカ」 

ロゼの目がゆっくりと開き動きだした。モニカが体中に石を固めてロゼと自分自身を守っていたのだ。

「バブバブ」

 ロゼが何か言葉を発した。


 その声にエレナ達は安堵した。

「よかった…。モニカも気絶してるだけだわ。とりあえず安心だわ」

「そうですか…。良かった」

  サウザーは自分の実力不足に後悔するとともに安心した。自分が戦闘中にロゼ様に何かあったら王国に顔向け出来ない。魔力ももう少ない。力が抜けてきていた。


 オロスターは地面に這いつくばっていた。かつて同じような景色を見たことがある。あれ誰だったか、かつて破壊竜として人間どもに怖がられていた時、一人の男に一方的というほどにやられて、深い山奥に眠らされたことを思い出していた。その時も、山奥で地面に這いつくばっていた。ワシを倒した男が腹に乗っかり余裕綽々と飯を買っていたのだ。

 あの時の男が使っていた魔術が白魔術だった。

『何故、貴様はそんなにも強い』

『白魔術さ。正義の魔術だからな』

『正義だと? 嘘つくんじゃねぇよ』

『ふふっ、お前さんは本当に悪いやつだったからのう。俺の白魔術で当分は起きないようにしといてやるから、安心してゆっくり眠りな』

 最後に言われた言葉だった。しかもただ眠らされたのだだけではなく、魔力量も少しずつ減っていった。これも白魔術の力だとワシは思っている。そう……白魔術はワシ達の敵だ。破壊竜というのは勝手に付けられた名前に過ぎない。ワシただのオロスターというこの世の空を渡り歩いていたドラゴンだったのに。白魔術のせいで。


 徐々に怒りが湧いてきた。そうだ、おそらく白魔術の後継者とあろう者が目と鼻の先にあるでは無いか……。これから先、白魔術は必ず災いを犯す。かつての後継者達がそうであった様に。ここで頑張らなければ、種は種の内に潰しとかなければ、後に後悔するのは自分だ。


「ブオオオオオオオオオオオ(この魔術でお前ら全員を地獄に落とす。)」


 オロスター魔力量80万→残り44万


 地響きがしたのをサウザーは感じとった。オロスターの鳴き声だった。その音圧で周囲の物が振動を起こしたのだ。

破壊炎竜巻ブレイキングフレイム」 魔力量40万

 一瞬にして巨大な炎の竜巻が全てを破壊していく。魔軍局もエレナも避ける間もなく何も出来ずに巻き込まれていった。


 俺はあの攻撃に巻き込まれれば死ぬと言うことが直感で分かった。

 結局…俺は何をすれば良いか分からなかっていた。…もう誰も生きていないかもしれない。くそ、俺に魔術があればなぁ…。早かったが異世界の生活はここまでかな。結局赤ん坊だったから、何も出来なかったけど、新鮮なことが多かったし、人生最後の旅行だと思ったら悪い気はしなかったな…。

 俺は後悔に襲われた。


 この世の女神ことリンスは一部始終ロゼの様子を異世界のはざまから見ていた。大きな魔術の塊には異世界のおけるロゼの様子が映像として映し出されている。リンスは眉をひそめた。

「うーん、まずいことになったね。オロスターがこんなタイミングで出て来るとは。助けが必要かも」

 今まさにロゼがオロスターの破壊炎竜巻ブレイキングフレイムに襲われる直前だった。

 リンスは魔術の塊に人差し指をかざした。

「ちょっと早いけど予想外の展開だから仕方がないわ。白魔術 転生神話てんせいしんわ

 リンスの人差し指から出た輝く白い魔術が魔術の塊の中に入った。それは異世界へ繋がり、干渉していく魔術だった。


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