第3話

 〜遥か山奥。

 山脈が連なり、深い霧がかかっている。まるで霧逃さないかのように、山が周囲に連なっている。

 一つの山が動いた。いや、山だと思ったものは巨大なドラゴンだった。

 目を覚ましたのだ。紺色の体と赤い目が霧の中で輝いた。


 ワシを呼んでいる気配がした。かつて自分が負けた相手と同じ気配。ドラゴンは気配が来ている方向に向かって飛び立った。その風圧で地面が揺れる。石が砕け散った。



 モニカは驚いていた。ロゼのいる子供部屋にある遊具は全てモニカの土魔法で作った魔術品だ。魔術品は本物の物体と見分けられるように魔術に反応する様になっている。だから、ある程度の魔術使いは魔術品に力を込めると、自分の魔術の性質の反応がでる。

 あの反応……本当に実在したのか。

『白魔術を使いし者、魔術品を白く輝かせる』

 モニカは噂程度だと思っていた。書物や人から人への言い伝えレベルでしか知らなかった。

 これはクリスタル王国にとっても大きいな出来事だった。希少な白魔術の使い手。それもあの年であの様な魔力を出せるとは。最も、本人は気づいていなかったようだが。


 モニカはやがて、この国の政治に関わっている人間が会議の時に集まる一番広い集会場に出た。今日は医療局が国の新薬開発についての予算と技術面のバッアップについて話し合っている。

 半円形の形ををした施設に黒い椅子とその前側に木でできているのか茶色い机が置かれていた。人間は約半分ほど埋まっている。窓からは光が差し込んできていて、それが明かりになっていた。

 そして、椅子に囲まれる様にして、講壇に登り講演を行なっているのが、この医療局の局長でロゼの母親、エレナだった。


 講演中にエレナはモニカに気づいた様子だった。医療局は全員で500人程度いる。クリスタル王国の医師や薬剤師など医療に関わる人間が集まっているのだ。

「ですから、ブラック病という流行病に炎の魔力を分散させた薬の開発が進んで来ています。そのデータがこちらです」

  エレナが魔術で作ったモニターにグラフと何やら難しそうな数式を移した。

「この新薬の持続時間はいくらなのでしょうか?」

「魔力を込める量を増やすと半永久的に出来ます」

「人件費は?」

「後で詳しいものを渡します」

「実際完成までの時間は?」

「今年中の予定です」

 さまざまな意見が飛び交っていた。エレナはそれを次々に処理していく。その様子をじっと見ていた。モニカから見るとエレナは優秀な医療局のトップという、少し憧れがあった。


 会議が終わりエレナがこちらにやってきた。エレナとモニカは街が一望できる通路を歩きながら喋った。

「お疲れ〜モニカ。ロゼの様子はどう?」

「それが、エレナ様、あの子はとんでもない力を秘めているかも知れません」

 エレナはモニカの答えに驚いたようにこちらを見た。

「まさか…もう魔術品に反応を示したっていうの?」

「はい、しかも白く輝いたんですよ」

「……白魔術の使い手だったってことね。育て甲斐がありそうね。モニカ、さっそくクリスタル王国にいること優秀な教育者を集めておいて頂戴ね。あの子は歴代の後継者の中で潜在能力はかなりあると思わ。大事に育てるのよ」

「はい」

「じゃ、私はお茶会に行った炎の分身と合流するから、ロゼのことは引き続きよろしくね」

 エレナはそういうと、そそくさと別の通路に分かれていった。エレナのことだ、きっとロゼについて他に気づいていることがあるんじゃないかとモニカは思った。



 ベンチから立ち上がり、青い髪をかき上げた。身長は185センチ、背中には三叉刀を背負っている。

 サウザーは嫌な予感がしていた。魔力が高まっている。何かは分からなかった。今クリスタル王国の魔軍局の全体練習の真っ最中だった。もちろん緊急事態になれば動けるような調練は積んでいる。だが、クリスタル王国の法律上それは事後対応で、サウザーの予感一つでは全軍を動かすことは出来ない。 

 それでも、何かが来る予感がした。

 サウザーの目と鼻の先にはもう一人の男がいた。魔軍の訓練場の中心のその場所で木刀で素振りをしている。身長はサウザーと同じぐらいの体型で目立つ筋肉質。

 サウザーはその男に背後から喋りかけた。

「コランよ、魔軍の出来栄えはどう見える」

「はっ、最近の調練により、一部隊それぞれの魔力量は増加傾向にあります。ただ、それは集団での魔力量だけ。個人練習はまだまだ足りない部分があります」

 コランは素振りを止めて答えた。

「個人能力を鍛えるのは各隊長に任せていた。俺が見る必要もありそうだな」

「なんと、サウザー殿直々に見られるとなると、軍の指揮も上がるでしょう。なにしろクリスタル王国で最強の魔術使いなのですから」

「俺は己を鍛えているだけだ。それは俺の使命であり、クリスタル王国の国民の為にもなる。だが、魔力量や単純な軍を指揮する力はまだまだのようだ。もっと強くならないとな」

「サウザー殿ほどの人がそう言うから、厳しい調練でも、みんなついて行こうと思う様になるのですよ。俺も見習わなければ」

 コランは素振りを再開しようと木刀を振り上げた。

「待て、コラン何か感じないか?」

 コランは木刀を振り上げたまま止まり、考えた。

「はて? 魔軍局の気力、やる気そして汗。努力とは素晴らしいと感じますが」

「そういうことじゃない。何かが迫って来る感覚だ」

「迫ってくる……。分かりませんね」

「そうか、なら何でもない」

 -こいつもここまでの実力はないか。仕方がない。

「ついてこい。軍のことはハイゼンに任せるように伝えろ」

「はっ」



 その日は雲一つなく太陽がよく照っていた。だから、太陽と街の間に何かがあると影がはっきりと出来る。最初に気づいたのは八百屋の大将だった。

「何でぇい、今の影は。早すぎるのう」

よく見ると遥か天空に何かが飛んでいた。

「あの方向。お城じゃのう」

 心配そうに大将はいって、帽子を少し上に上げた。



 俺はいつのまにか寝ていた。赤ん坊は少し動くと体力がなくなるのが眠くなってくる。だから、突然大きな揺れが起こった事に対する反応に遅れた。


 ドオオオオオオオオオオオン‼︎


 時間差でどこかで建物の一部が崩れた音がした。その時勢いよくドアが開いた。モニカだった。

「ロゼ様失礼します」

 そういうと、寝ていたカラフルなベットから俺を引き離して、抱きかかえた。

「バブバブ」

さっきの揺れと音といい、何かが起こったのだろか。声を出そうとしたが、赤ん坊なので当然喋れない。


 モニカは子供部屋を出てドアを閉めると、廊下を走り出した。

「緊急事態です。謎のドラゴンがクリスタル城の上空に現れ、攻撃してきました。ここから移動します」

 謎のドラゴンだと? この世界にはそんなものがいるのか。興味があるな。そう思って俺は長い廊下の所々にある窓の外を見た。

 俺は目を見開いた。そこに居たのは紛れもなく巨大なドラゴンがこっちの方を向いていたのだ。

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