第2話

「あら、かわいい子ね。あなたの名前はロゼ。私の名前はエレナ。これからよろしくね」

 おっとりした優しい声がした。誰かが喋っている。暗くて見えないな。そう思った。

 俺は目を閉じているのだろうか。さっきの女神様とは違う声だと気づいた。気になった俺は目を開けた。

 そこには灰色の髪をした青い目の女性が写っていた。服装は西洋風のドレスを着ていた。まるで今から舞踏会かどこかに行くよな派手なファッションだった。


 誰だろ、この女性は。美人なのには間違いない。俺のことをロゼって言ってたよな。リンスが言っていたキング家の誰かなのかな。

 そこまで考えたところで俺は自分の状況を理解した。俺は前世に37歳のおっさん突入みたいな時期まで生きていたのだ。勿論、リンスに呼ばれた時もその姿で復活した。その感覚で立って喋っているものだと普通は思うだろう。でも俺はこのエレナとかいう女性に密着した状態で横になっていた。

 そう、俺はエレナに抱きかかえられていたのだ。改めて自分が赤ん坊なのだと認識できた。


 俺は周囲の物に注意を向けた。今いるこの建物自体がコンクリートの作りではないかとがぱっと見で分かった。多分レンガか何かだろう。前世にいた日本とは別の国、別の世界に飛ばされたと言うことが分かった。




 それから感覚にして1、2ヶ月ほどたったある日。俺が今日も今日とて同じゆりかご入れられて天を見つめていた。すると、ドアが空いて一人の女性が入ってきた。日本でいうメイドのような格好で髪は黒色だった。

「エレナ様。ご出産おめでとうございます。この子が将来キング家の王となる方なのですね。わぁ、大切に育てないと」

「モニカ、これからはあなたにも協力して貰うわ。挨拶して」

「はい、王女様。はじめまして、私はモニカと申します。ロゼ様が将来、立派な王になれますように、この世界の言葉や文字を教えていく担当です。よろしくお願いします」

 モニカはそういうと赤ん坊の俺に向かってウインクした。


 なるほどな、今の会話だけで色々と情報が掴めた。このエレナとかいう女性が俺の母親だそうだ。一番最初に見た異世界人が母親で良かった。そして、どうやら俺は王の長男だった。長男ってことは俺が死なない限り王の後継の第一候補だろう。ラッキーだ。リンスも言っていたが俺は王にならなければならない使命があるらしい。最初から王家の長男なんて恵まれているな。


 モニカというのがリンスがいっていた俺の教育係りだろう。これもリンスのシナリオ通りなのか、俺がわざわざ教育係りを探しに行かなくてはならないという手間が省けた。

「じゃあモニカ、私はこれからお茶会と…それから医療局の講義があるから、悪いけどロゼを土魔術で作った子供部屋に案内しといてね」

「はい、王女様。喜んで」

 モニカはかしこまって言った。


 お茶会だと? やっぱそういうのあるんだな。完全に金持ち王家だろう。こりゃ勝ち組だ。面白くなってきた。前世の俺とは比べ物にならないぐらいの豪華な暮らしが出来そうだな。あのセリフもいう時があるかも知れないな、ほら『パンがないならお菓子を食べればいいじゃないか』てな。


 俺はモニカに抱えられながら、異世界に来て始めて、自分の部屋から出た。壁の外はでかい通路になっていた。白くてピカピカした廊下、そして電球一つ一つに高級そうなシャンデリアが付いていた。

 向かい側の窓から見えるのは、この国発展具合だった。街がまるでオセロの盤のように整備されている。始めて見る異世界の外の街に俺は少し感動した。


俺が外を見ている俺に気づいたのか、モニカが窓の方に近寄った。

「ロゼ様もやっぱり、街のことが気になりますか。綺麗ですよね。この国は王であるサーロン様そして、王女のエレナ様のおかげで発展しているのですよ」

 へーそうだったのか。うん……? てか、今気づいたんだけど俺って今赤ん坊だからしゃべれないんだよな。にも関わらず相手の言っているとは理解できる。これはリンスが魔術で言葉を理解出来るようにしたのだろうか。まぁいずれにせよ、言葉が喋れなくても顔の表情とかで相手に伝えることはできるよな。


 やがて、子供部屋の前までついた。

「お待たせしました。ロゼ様。こちらがあなたの部屋ですよ」

 そういってモニカはドアを開けた。そこに広がっていたのは、カラフルに彩られたさまざまな遊具。そして、楽器を持った人形達。俺と目が合った瞬間、その人形達の目が光り、魔力を纏い動き出した。


 ♪シャラララ〜


人形達は楽器を持って演奏しながら動いている。一つがカラフルな滑り台に登る。一つがおもちゃの車に乗る。一つが動いているメリーゴーランドの乗る。


 俺は呆然とした。魔力が働いているのだけはなんとなく分かる。でもどういう仕組みは全く分からない。仕方ない。今はこの国の言語を喋ることもできない。後数年は、赤ん坊としての生活を楽しむ他はないだろう。

 よし、俺もあの滑り台に乗ってみよう。俺はモニカに抱っこされているのを、下ろしてもらう様に、手と顔を使ったジェスチャーで伝えた。モニカは驚いたような顔をしたが、すぐに理解できたのか俺をカラフルなカーペットの床に静かに置いた。

 

 俺はハイハイして滑り台のそばまで来た。そのまま、小さな、いや、赤ん坊の俺にとっては大きな階段を駆け上がって滑り台の鉄板まで来た。その時、妙な異変に気づいた。今までは自由に動き音楽を奏でていた、人形全員が俺の方を向いていた。なんだ……俺の顔に何かついているのか。でも違った。


 滑り台が輝き出したのだ。それに釣られたかのように人形も光り輝き出した。一体なんなんだ……まぁ取り敢えず気にせずに滑り降りるか。俺は光っている滑り台を滑った。光る現象は滑っている時もずっと続いた。やがてお尻が滑り台にから離れると全ての輝きが消えた。


 俺は訳が分からず、取り敢えずモニカに助けを求めるような顔をした。だが、モニカはそれ以上に驚いた顔をしていた。

「ま、まさか、ロゼ様。この歳でそんな…」

 俺は声を出して見ることにした。

「バブバブ」

 滑り台を指もさしてもう一度。

「バブバブ」

 すると、モニカは感嘆の声を上げた。

「素晴らしい才能ですわ。さすがキング家の長男様。これはすぐエレナ様に報告しなくては。それではロゼ様。しばらくここで遊んでいてくださいね」

 そう言ってドアを閉めて出ていった。


 一人取り残された俺の周りには人形が相変わらず音楽を奏でながら移動していた。異世界ってほんと前世とは違うんだな。多分、今のも魔法のなんかだと思うんだけど、勿論赤ん坊の俺に教えてくれるとは思えない。

 俺、別に遊具で遊ぶ趣味はないんだけどな。こりゃ当分は退屈になるぞ。俺はそう思いながら、移動する人形の後をハイハイしてついて行った。

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