第1話

「今回の転生者だけど……ロスト家……いや、キング家に生まれてもらおうかしら」


 何も見えない。

 何も感じない。

 ただ透き通った声が耳元に囁くように聞こえて来た。

「その前にっと……前世の姿やら記憶やらを復元しないといけないのよね。まったくこれじゃあ漫画読んだり、ゲームとかやる時間ないじゃん。神も楽じゃないわね」

 誰の声なんだろ。とても心地が良く、かつ凛々しい。


 てか、あれ? 俺って死んだよな。自分が死んだ姿を自分は確認出来ないけど、走馬灯とかも見えたし、多分死んだはずだ。どうなってるんだこれ。


「白魔術 現世創造げんせそうぞう。その1、胴体復元」

 その声とともに何もない暗闇から、自分の前世の姿をしたぼろぼろの服を着た、胴体が現れた。

「よし、その2両腕復元、その3両手復元」

 次々と体が前世の姿に戻っていく。

「最後に顔復元」

 そして全ての身体のパーツが帰ってきた。

 

「あ……、あーあー。おっ喋れるな。あのー、さっきから聞こえる声の主は誰ですか。視界が暗くて何も見えないのですが」

 俺は喋りかけてみることにした。誰か分からないが身体を返してくれた訳だ。そこまで悪い奴じゃない気がする。すると答えと共に何やら厨二病くさい名前を叫んだ。

「あら、そっか。まだ魔法がかかったままだったわね。それ、白魔術 光界到達ライトテンペスト


 最後の声に合わせて暗闇が消滅した。全てが見えるようになった。そこは前世でいうヨーロッパ風の作りをした宮殿だった。


 広さは東京ドームぐらい。そして、なんというか、この世のものとは言い難いほど輝いている。白い光がふわふわと浮いていた。それも大量に。

 目の前には階段がある。俺はその段の上に立ってる一人の女性に目をやった。か、かわいい。髪色は緑、目も緑色だった。俺がよく見るアニメでいうところの一番の美女にして、男どもに囲まれると紅一点のポジション。

 もちろん非モテだった俺はもともと女の子慣れしていない。そのせいもあり、かわいい女性がいるだけで緊張してしまった。


「よく来たな。とやら。ここは“異世界のはざま”だ。お前は3月13日の午後3時に肉体の衰弱によって死亡した。だが、神である私の手によって、これからキング家の長男、キング・ロゼとして生まれ変わり、異世界で王になって貰う。目的は王になってからまた知らせる。何か質問は?」

おいおい、情報量多くないか? いきなりなんだよこいつは。異世界? 神? どうだなってんだ。死んだら天国じゃなくて異世界に行かなきゃならねぇのか。


「ちょっと待ってくれ、俺は今までのの人生無茶苦茶酷かったんだ。何も出来なくて。だから……異世界に行っても俺は無能のまま死んでいくんじゃないかと心配なんだ」


「勿論お前の前世の生活も見せてもらった。たしかに人間の人生の中で、最低ランクの生活をしていたようだな。そう、勉強も運動も出来ず義務教育の学校ではいじめられて、やっと社会に出たけどブラック企業に搾取されて身体を壊して死亡。人生何一つ楽しいことが無かった……。私、なんというか見てて悲しくなってきたの、そこで、せめて異世界だけでも強く生きて欲しいなと思って」


 この女は手で顔をお覆い、涙ぐみながらそう言った。

「だが、だから…これから先は偉大なるこの私、リンス・ゴッド様により最高ランクの力を授けようと考えたのだ。受け取れ我が白魔術を」

 リンスはさっきまで泣いていたのが嘘だったように大きく構えて見せた。てか嘘泣きだろさっきの。

 周囲の浮いていた光の一部が俺の元に集まってきた。そして集まった光が突然俺の身体に入った。


「なんだこれは…力が湧いてくるぞ」

 俺は今までの人生では感じたことのないようなエネルギーが、身体が発していることに気づいた。

「それが魔力だ。しかも、私の魔力は特別性だ。お前は異世界の中にあるの魔力性質を使える身体にしておいた。といっても今はまだ使えないが。いずれ転生後にお前は、とある教育係り達からその魔力の使い方を教わるだろう。そして次はこれだ」

 リンスはそう言って両手を天に掲げた。手に白い光が生成されていく。そして白い光は巨大な渦になって俺の元にやってきた。俺は避ける間もなく、渦に飲み込まれた。


「うわ、今度はなんだよ」

 いや、飲み込まれたと思ったが渦は俺を中心にして回りだして、やがて俺に吸い込まれるようにして消えていった。


「それは魔力量だ。現在、異世界に存在する全ての人間の中で最高最大である100万の魔力をお前にさずけよう。詳しいことは異世界に行ってから聞いてくれ。どうだ、転生する準備できたか?」

「それって前世の記憶を維持したまま飛ぶのか?」

「ええ、そうよ。前世の記憶は私でも消せないの」

「そうか、じゃあ性格は変わらないということだな」

「私も昔、設定を変えることをに提案したんだけどね」

「彼らって?」

「うん? いや、なんでもないわ。じゃあ準備OKね。ロゼ。いってらっしゃい」


  おいおい、俺のことは色々調べ上げて置いて自分のことは話さないのかよ。それはモテない女のやることだぞ。あっ、でも顔がいいからチヤホヤされてきたんだろうな。いいよな、この世は何か一つ秀でていることが有れば、それで食っていける。俺は今まで全ての能力が最下位レベルだったからな。でもせっかく人生をやり直す機会を得れたんだ。今から行く異世界ではそうならないように頑張るか。俺がそういうことを考えている間に視界は暗くなっていった。

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