王家に転生したので最悪の人生やり直して魔術で世界平和に導きますw

浮世ばなれ

後継者の誕生

プロローグ

『37歳中卒無職です。さっきまで社会人だったけど職場がブラックだったので辞めました。人生が辛いです。なんとか改善していきたいので年収1000万円以上のホワイト企業に転職したいのですがどうすれば出来ますか?』


 俺はYouTubeのチャット欄にそう書き込んだ。この画面に映っている黄色いパーカーのおっさんはなんでも相談屋らしいからな。まぁ、あんまり期待してないが。

「ええっと……、今30歳で中卒で更に無職ってなるともう厳しいんじゃないかと思いますね。そもそも、中卒ってデスクワークが出来ない人って判断されるんですよね。なんだろ……責めて通信制の高校を卒業するか、それかもう異世界に転生したらどうですか? なんか転生すると人生楽にやり直せるらしいですよ。てことでカンパイ。ウェース。」

 異世界か、それもありかもしれないな。うん。本当に行けたらいいのになぁ。そう思いながら俺はボサボサの髪を掻きむしった。でも幻想だって、俺も画面越しのおっさんも分かってる。そうやって惨めな人生を慰めてくれているのだろう。


 あーあ、結局現実逃避するしかないか。そう考えながら布団の上に寝っ転がり、天井を見た。


 いつからこんなことになったんだろう。この世が学歴社会なんて小学校の先生は教えてくれなかったぞ。小学校の時から俺は体型のことで軽くいじめられていた。なんといっても俺は太っていたからな。


 ほら、小学生の頃は足の速いやいやつがモテるだろ。そんな中、俺はデブだとか豚だとか言われて来た訳だ。おまけに勉強も出来なかった。成績も平均より下。先生の言うことがあまり理解できなかったので家に帰っても不貞腐れてゲームばかりしていた。


 結果、底辺高校にしか行けなかった。でもヤンキーばかりでつまらなかったので入ってすぐに辞めた。そこからゲームをやって引きこもっていた。このままだといけないなと思ってネットで見た学歴不要の求人に応募して、何とか就職できた。だけどそこはブラック企業だった。


 で、そこから十年以上働いた訳だが安月給で全く貯金もできず、全てその月の最後には空になっていた。頑張ったがこんな調子じゃ続く訳もなく、心身を壊してやめた。そこから2ヶ月ゲームしまくって過ごしたきたが、財布の中身が遂に0になった。


 終わったな俺の人生。いや……始まってもいなかったか。首を横にして部屋に散らかっていたプラスチックビニールのゴミ達を見た。俺を笑っているのだろう。ずっと失敗続きだった俺を。目眩がしてきた。金もない、友達もいない、親とは絶交。もう俺は終わりだろう。


「 うっ……」

  腹の底から何かが込み上げてきた。思わず寝床から起き上がった。座ったまま腹を押さえた。


 口の中が鉄の味がする。体の中に広がる液体はやがて洪水となって外に吹き出した。俺は手で口元を押さえて液体を受け取った。


  赤い……血だった。気持ちわりいな。しばらく血を見つめた。何故か、たまに視界がぼやける。目のピントが合わなくなる。視力はゲームばかりしていたせいで、良い訳がなかったが、これはそんな問題では無かった。


 そうだ、病院に電話しよう。お金は残りわずかだった。俺は机の上の携帯を取りに行くために、立ち上がろうとした。だが立った瞬間に力が抜けた。だめだ、力が入らない。俺はまるで赤ちゃんのように四つん這いになり、両手両膝を床について、ハイハイする格好になった。実に情けないな。


 机の上には携帯の他に、安い酒やカップラーメンの汁がほったらかしになっていた。そういえば病院なんて大人になってから行ったこと無かったな。体調悪くても会社休めなかったしな。うん、あの時は地獄だった。

 

 まためまいがした。今度は大きくぐらついた。机とその上の携帯やらゴミやらが2、3重に見えた。くそ……なんでこんな事になったんだ。もう一度呟いた。


 机までの距離は1メートルほどだった。気力を振り絞れば余裕で到達できる距離だろう。俺は多分他人が見ていたら笑われるだろう体勢をとった。四つん這いになりながら、一歩目の手を動かしたのだ。


 その時、俺は身体の中から汗が噴き出ているのに気づいた。腕に大粒の水滴が付いている。なんだ……もしかして、俺今日死ぬのか?


 さらに一歩前に進んだ。膝を前に出す。もう机に視点が合わなくなってきた。滝のように噴き出る汗が止まらない。床に汗がひたたる。身体の平衡感覚がない。それでも一歩ずつゆっくりと進んでい行き、机までのたどり着いた。あとは電話をとって病院に連絡するだけだ。手を伸ばして携帯を取った。携帯の文字が打てない。番号が打てないほど手が震えていたのだった。


「ガハッ……」

 今度は勢いよく口から血が出た。体の震えが止まらない。めまいが強くなってくる。携帯が手から滑り落ちる。俺は地面に這いつくばる形で倒れた。


 俺の目線の先には茶色の床と黄ばんだ壁がある。そんなものを見ていたら意識が朦朧としてきた。


 俺は今までの人生を振り返った。よくわからないが走馬灯ってやつかもしれない。死ぬ前にはよく人生を思い出すっていうしな。俺は頭の中にボヤけたイメージが飛び込んできた。


 -何故か大量の体操服をきた小学生男子に囲まれていた。その中のリーダー格のやつが言う。

『おーい、デブ。そんなボールも取れねぇのかよ』

『ご、ごめんよ。みんな…』

『もう俺らのチームでは邪魔だよ。ほんっと役立たずだな』

 あれ、これおかしいな…。こういう時は楽しかった思い出がでてくるのにな。これは小学校の頃、体育の授業の後のロッカールームで浴びせられた暴言だった。

 なぜか心の奥底に閉まっていたはずのトラウマを思い出していた。そういえば俺楽しいことってあったけ?


 うーん、ぱっと思いつくのは虐められていた記憶だけで、俺は生まれてから37年間何も無かったからなぁ。仕方がない。


『お前は社会で通用しない』 

 確かこれをいったのは中学の時の学校の先生だった。俺は勉強も運動も出来ず、他人の言うことも半分ぐらいしか理解出来なかった。当然テストの点も悪い。これは何かの実技テストの時、成績を取った為に先生がキレた時のことだ。クラス全員の前でこいつみたいな社会不適合にはならずにいろよ。そして俺以外のクラスメイトに俺のことを反面教師にするようにと大々的に宣言したのだ。


 人間は怒った時に本性が出るのだとこの時学んだ。やっぱり俺みたいな本物の社会不適合者には救いがないのだろう。


 案の定、この世に絶望した俺はそこからゲームざんまい。おや? てか、ゲームだったらいい思い出があるじゃないか?


 まぁRPGをクリアした時とか、敵を倒した時とかは嬉しかったけどな。何故かリア充って感覚じゃなかったんだよな。


 でもこの時は若かったしまだ気力が残っていた。お陰で就職することが出来た。そこから先はまた別の意味で地獄だったが。


 俺は現実に意識が戻った。安くて小さい家の中で一人。俺は自分が倒れているのだと自覚していた。もうほとんど体の感覚もなかった。視界がどんどん暗くな来る。闇の中に引き込まれる様な感覚がある。ここまでだろう。バカな俺でも流石に今から死ぬことぐらい分かった。光が閉じていく。なんだか太陽が沈んでいく感じに似ているな。


 最後に俺はそう思って死んだ。


 ……

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