第22話
「静さん!幸平おじさん!涼真の容態はっ!?」
病院内にいた桐谷夫妻の姿を見つけた優は思わず大声で叫んでしまった。直ぐに気づいて周りに謝り、桐谷夫妻の元へ近づいた。
「優、涼真なら大丈夫よ。まだ私達も姿を見れてないけど、命に別状はないらしいわ」
「そ・・・そうですか」
「けど安心したよ優ちゃん。涼真は昨日優ちゃんと用事があるって言ってたから、連絡が着かなかった優ちゃんも事故にあっていたのかと心配したよ」
「あ・・・す、すいません。わ・・・私、涼真と別れた後ずっと寝てしまってて・・・。それで朝起きて携帯を見たら・・・涼真が入院したって・・・。それでタクシー呼んで・・・」
優は涼真が入院したというメールを見た後直ぐにタクシーを呼び、メールに書いてあった病院へと急行した。タクシーに乗っている間に静へと連絡も着き、予め居場所を聞いておいたので、現在桐谷夫妻と落ち合えたという感じだった。
「そ・・・それで、涼真は何で入院する事になったんですか!?さっき、私『も』事故にあったかとって言っていたので事故なんですか!?」
優がそう問いかけると静が「そうよ」と肯定して、現在までで解っている状況を話してくれた。
それによると、涼真は信号が変わるのを待っていたのだが、待ちきれなかったのか途中で信号を無視して動き、走って来た車と接触事故を起こしたと言うのだが・・・
「涼真が・・・信号無視・・・?」
「ええ・・・私達も不思議に思ったわ。だから警察の人にそう言ったら、少し聞き込みをしてくれることになったわ。あの子の普段の行いのお陰ね・・・」
この様な状況は普通だと『少年が信号無視をした』で終わってしまうのだが、涼真は地元では少し顔が知られている有名人だった。
主にやっている部活での知名だったが、ボランティア等もよく参加していたりしたので普段の素行が良く知られていた。そしてそれを知っていた警察の人がいて動いてくれたのだと言う。
「そうしたらある証言が出て来たの。だからそちらの線でも動いてくれるそうよ」
「ある証言・・・ですか?」
「ええ、どうも涼真が信号を無視して動いた時の動き、その動きがまるで押されたような不自然さがあったらしいの」
「つ・・・つまり・・・」
「ええ、人の手による故意的なモノ、つまり殺人未遂ね」
まさか涼真が誰かの手によって事故にあっただなんて・・・と優は手で口を覆い絶句した。自分達が気づいていなかっただけで、誰かに恨まれていたのだろうか・・・そんな事を考えていると、話していた3人の元に看護師が来た。
「桐谷さん・・・とそちらは?」
「この子は娘みたいなものよ。それで、どうかしました?」
「そうですか、お子さん・・・涼真さんですが、無事病室へ移動が完了しました。ご案内しますね」
どうやら涼真の様子が見れるとの事なので、3人は看護師の案内で移動し病室へ入った。するとそこには色々な機械が繋がれて眠っている涼真がいた。
桐谷夫妻は涼真の近くへと行き案内してくれた看護師と喋っていたのだが、優は病室の入口で固まっていた。
やがて桐谷夫妻と看護師が再び病室の入口へと歩いてきた。
「優?」
「・・・はっ・・・はい!?」
「私たちは少しお医者さんと話してくるわ。少し涼真の傍についてあげててくれるかしら?」
「はい、わかりました」
「お願いね?」
「頼んだよ優ちゃん」
そう言って桐谷夫妻と看護師は病室を出ていった。
一人病室に残された優は涼真へと恐る恐る近寄り、見えていたあるモノをジッと見た。
「これ・・・まさか・・・霊・・・?」
優が見た物とは、涼真に絡みつくようにしている黒い腕みたいなものだった。それは蛇の様にぐるりと涼真の体に巻き付き、手のひらの部分で涼真の顔を覆っている様だった。
その時初めて優は気づいた・・・涼真が事故にあったのは自分のせいだと。
「・・・あぁ・・・っ」
後悔の念で頭の中が埋め尽くされた時、急に視界がぐらぐらしだして立っていられなくなり、へたり込んでしまった。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・・・・・・」
自分のせいだ、自分が涼真に相談したから涼真も霊に狙われたんだ。
そう思った優はひたすらに涼真へと謝罪の言葉を言い続けた。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・・・・・・」
・
・
・
その後、優は涼真の方を向きながら座り込み、桐谷夫妻が病室に戻るまで延々と「ごめんなさい」と言い続けていた。
そんな優を見て心配した桐谷夫妻は、このまま涼真の前にいるのは良くないと考えて優を強制的に佐十家へと連れ帰った。
佐十家へ連れ帰る途中、静は優へと言葉をかけ続けながら抱きしめていた。そのおかげか、優は何とか「ごめんなさい」と呟く事はやめて少しマシな状態にはなった。
しかし未だボーっとした感じで反応が鈍く、それを心配した静は暫く休ませた方がいいと判断した。
「優・・・今日は横になっておきなさい・・・。学校には暫く休むって連絡しておいてあげるわ・・・」
「・・・」
ベッドの上に腰かけながらボォーっとしていたものの、優は小さく頷いたのを静は確認した。
「また後で来るわ。それまでゆっくりしておきなさいね?」
静がそう言って優の部屋を出て行くと優の部屋は静かになり、部屋には優の呼吸音だけが聞こえるようになった。
暫く静まり返っていた優の部屋だが、突如音が生まれた。
『ピロン』
携帯のメッセージ着信音だ。
無意識にそちらへと目が行った優は、メッセージの送り主に気付いた。
少しだけ思考力が戻っていた優は、そのメッセージを確認する。
結:『心配なのでお見舞いとか言っても大丈夫かな・・・?無理そうなら無理で断っても全然いいからね?』
結からの、友達からのそんなメッセージを見た優の心は激しく動きを見せた。
「だ・・・ダメだっ!俺と関わると・・・涼真みたいに!!」
急いで結からのメッセージへと返信を返す。
優:『心配してくれてありがとう。でもごめんなさい、暫くは会う事ができません。また大丈夫になったら連絡します』
優は、これ以上自分と関わっていると涼真みたいになってしまうかもしれない、だから今回のメッセージを最後のやり取りにする、そんなつもりで返信をした。
優にとって涼真は勿論だが、弘子と結も接した時間は短いものの、掛け替えのない友人となっていた。
そんな二人を涼真みたいな不幸に合わすわけにはいかない、だからこのままどうにかして二人との関係を断たなければ・・・そう思っていると・・・
結:『解りました。いつか会える日を心待ちにして待っていますね。ずっとずっと待ってるから、絶対連絡してきてね?じゃないと無理矢理にでも会いに行くよ?』
弘子:『結と一緒にメッセージ見たよ!私もずっと待ってるからね?それに私は結より気が短いから、直ぐに会いに行くよ?ダメって言っても行くからね!?』
結・弘子:『優の事が大好きな親友より』
「弘子・・・結・・・」
自分だけが大事だと思っていたわけでなく、向こうも同じように思ってくれていたのだと知った優は心が温かくなった。
そして同時に・・・燃え上がった。
優はもう一度だけ『元気になったら連絡します』とメッセージを送ると、手に持っていた携帯を枕へと投げつけベッドから立ち上がった。
そして九重が用意してくれた紙袋を手に取り、中身を机の上にぶちまける。
「いい加減恐怖よりも怒りが来たぞ!もう許さん霊共め!俺の親しい人たちに危害を加えるってのならこっちもやり返してやる!とりあえずは涼真を助けるぞ!えぇっと・・・何かないかな・・・」
優は九重が書いたであろうレポートを取り出し、端から端まで舐める様に確認しだす。
今の優の心は霊への恐怖より怒りが勝っていた。その為、今まではビクビクと怯えるだけだったが、今は霊を見つけたら片っ端から退治してやる!そんな気持ちになっていた。
暫くして静が再び佐十家を訪れると、優が何故か元気になっていたので驚いていた。
だがこれならばもう大丈夫と思われたのか、静は涼真の元へと戻って行った。
それからしばらくの間、優は時も忘れたかの様に九重のレポートを読み込み、霊の理解を深めていった。
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作者より:読んでいただきありがとうございます。
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