第23話
太陽の光が降り注ぎ、気温は低いが温かいそんな日の昼間、森の中の開けた場所に一人の少女がいた。
その少女は大き目のバッグを肩に提げ、辺りを見回していた。
「またここに来るのもどうかと思ったけど、師匠のレポートにもここは霊的力場がいいって書いてあったしなぁ・・・」
そう言って少女は、自宅で読んだレポートの事を思い出す様に思案した。
少女の名は佐十優、普通の人には見えない『霊』と呼ばれる何かが見える者である。
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≪九重のレポート・一部抜粋≫
まず初めに・・・
◎霊とは
定義するのは難しいが、一般の人が呼ぶ幽霊・妖怪・神・悪魔等が該当する。
偶に、神は神、違うだろうと言う人もいるが、俺達の定義では霊となっている。ただ、一般に神と言われるだけはあり一線を画した力を持っているので手出しはしない方がよい。
◎霊対処屋とは
一般的なイメージでいくと、拝み屋・祓い屋・エクソシスト等を想像すると解りやすい。変わり種だと霊能力者でもいいかもしれない。
要は、霊によって引き起こされる現象に対処する者達、だ。
然し対処の仕方は人それぞれで、多種多様な対処方法が存在する。俺も全てを知っているわけではないので、知っている事だけを記しておく。
対処について・・・
◎退治
人に対してよく悪影響を及ぼし、尚且つ自分の手に負えるならば退治する事が望ましい。
俺が知っている方法は後述しておく。
◎封印
人に対してよく悪影響を及ぼすが、自分の手に負えないならば封印すると言うのも一つの手である。
俺が知っている方法は後述しておく。
◎観察
対処依頼もなく人に対して影響を及ぼさないなら観察するだけに留める事がよい。
霊によっては、物や土地に憑き様々な影響を及ぼすモノもいる。一般的に神と言われるモノもここに分類される。
このモノ達の力は強大であったり、尚且つ下手に手を出すと災害を引き起こしたりするので注意が必要。
近場で俺の知っているモノは後述しておく。
対処方法について・・・
◎対霊具
俺は主に道具を使い霊の対処を行っているので教えるのはこちらになる筈だ。以前優には見せたかもしれないが、札や杭、縄等だ。
勿論これらは普通の物ではなく、対霊用の物だ。詳細は別に記しておく。
これら対霊具は使うために『霊力』と呼ばれるものが必要になる事がある。なので素質がない者には使えないのだが、素質がある者でも霊力を扱えないと使う事は出来ない。
最初は俺が横について教えるつもりだが、何らかの理由で無理だった時の為に霊力の扱い方も別に記しておくので、それを見る様に。
◎霊能力
俺にはこちらは使えないので触りだけ記しておく。
対処屋の中には道具を使わずに霊力のみで霊に対処する者がいる。それらの者達が使っているのが霊能力だ。
霊能力はかなり特異で、使う者によっては全く別物になりうる。なのではっきり言ってコレという感じのモノはない。
使える者達は代々受け継いできているのが殆どな筈なので、一族で受け継がれる秘伝の技、こんな風に思っておくとよい。
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「んでこの対霊具を使うのに必要な霊力の扱い方、これを学ぶためにここに来た訳だけど・・・」
家で読んで来たレポートの内容を、所々メモして来た物を見ながら思い出していた優は再び周囲を見回す。
ココは例の九重が待ち合わせ場所に指定した場所であった。レポートには霊的力場なるモノが良いので、霊力の扱い方を学ぶのにはここが良いとの事だったが・・・。
「やっぱりここに来ると少し気分が落ち込むな・・・」
やはりこの場所に来ると九重の事が思い出され、優の気分は落ち込み気味になった。だが・・・
「それもこれも霊のせいだ・・・!絶対対処法を覚えてやる!」
今の優の頭の中は霊への怒りで一杯だったので、直ぐに元に戻った。
「ヤってやる!ヤってやる!ふぅー!ふぅー!」
それどころか霊への怒りで興奮気味になる。少しの間唸っていたのだが、徐々に落ち着いてきた優は深呼吸をした。
「すぅ~・・・はぁ~・・・すぅ~・・・はぁ~・・・。ふぅ・・・落ち着け落ち着け・・・レポートにもあったじゃないか、冷静に行動する事って・・・」
九重のレポートには『霊へは冷静に対処する事。霊は心の隙間に付け込んでくる』と書いてあった。それを思い出した優は、冷静になれ冷静になれ、と自分に言い聞かせる様に呟いた。
「よし・・・それじゃあそろそろ初めてみるか」
開けた場所の中心・・・九重からの紙袋が置いてあった場所にたどり着くと地面にバッグを置き、中からある物を取り出す。
それは長細い・・・丁度1000円札が入るくらいの大きさの封筒だった。
そして勿論だが中身はお金などではなく・・・
「ただ三角形が一つ描いてあるだけの紙に見えるけど・・・これ・・・だよな?」
優が取り出したのは一枚の札だった。だがそれは札と言うにはあまりに簡素で、以前に九重に見せてもらった物とは全く違った。
訝しがりながらも書いてきたメモを確認する。
「うん・・・やっぱりこれでいいはず」
メモには『霊力訓練札・・・霊力を流す事が出来ていれば三角形の色が変化する。他にも、霊力を扱えているなら三角形を動かすことが出来る』と、この様に書いてあった。
九重のレポートによると、先ずはこれを使い霊力の扱い方を学ぶとの事だ。
「で・・・肝心の霊力の使い方ってのがなぁ・・・」
優はバッグからピクニック用のシートを取り出し地面へと置き、そこに靴を脱いで腰を下ろし胡坐をかいた。
「楽な姿勢でいいってことだからこれでいいか・・・よし・・・」
そう言うと目を瞑り深呼吸をしだす。
そしてレポートに書いてあった通りの修行法を行うのだが・・・
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◎霊力の扱い方
霊力の扱いは感覚的なモノでもあるので、最初の一歩がとても難しい。だから最初は俺が補助して扱い方を教えるが、もし何らかの理由でそれが出来ない場合の為に一応だが扱い方を記しておく。
霊力は丹田で創りだされ心臓へと巡り、心臓が創りだされた霊力を移動・増幅等を行う。そして指先等に霊力を移動させたのならそこから放出し道具等に流す。
感覚的と言ったのはこの事だ。「体内で血を自由に動かせ」と言われてもどうしていいか解らないだろう?
言葉で表すと・・・丹田(臍の上辺り)に意識を集中させ、そこから何かを生み出すように考える。
そしてもし霊力が創りだせたなら、血と同じように体の中を巡るイメージで心臓へと移動させる。
心臓へと霊力が移動したのなら、心臓の鼓動と合わせる様に霊力が膨らむようにイメージする。移動も同じく、心臓の鼓動に合わせる様にするとよい。
移動先を今回は指先とするが、指先に移動させた霊力は、体内から皮膚へにじみ出る様にイメージする。
そして体外に出た霊力を対霊具に当てると、対霊具は発動する。霊力を指先に留めたままにすると細かく動かせたりもするので、これは解らなかったら聞いてこい。
因みにだが、霊力の扱いは霊的力場が優れている場所で行うと効果的だ。
何故なら、霊的力場の殆どは自然の霊力が湧き出していて、初心者が扱いを学ぶ上では霊力を身近に感じられるので非常に良いからだ。
尚、俺はできないが、自然の霊力を取り込むことが出来る者達も存在する。もしこの人達に合う事があったら教えを請うと良いかもしれない。
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「ふぅ~・・・やっぱりだけど全然駄目だ・・・。さっぱり解らない・・・」
九重のレポートにもある様に霊力の扱いは感覚的なモノらしく、いくら修行する場所が優れていたとしても優には全く解らなかった。
だがここで諦めていては前へ進めないので、優は色々と試行錯誤をしてみる。
「んー・・・この師匠からもらったお守りは霊力が扱えなくても大丈夫な物らしいけど・・・」
そう言ってお守りを握りしめ目を瞑り、何かを感じるか試してみるが・・・
「駄目だ、さっぱり何も感じない。他にはそうだなぁ・・・呪文とか?いや、励起文言だっけ?」
優はメモを確認しだす。
励起文言とは、九重が対霊具を使うときに言っていた不思議な言い回しの言葉だ。
一応これもメモって来て置いたので唱えてみる事にする。
封筒から、今から唱える励起文言に対応した札を取り出し手に持ち、メモを見ながら励起文言を唱え始める。
普段言わないような言葉なので噛みまくり、何度かやり直しを繰り返し後に正しく唱える事が出来たのだが・・・
「・・・。これも駄目か」
結果はやはり失敗。札はピクリとも反応を見せず何も起こらなかった。
「はぁ~・・・どうしたらいいんだろう。取りあえず時間をかけてここで長い間瞑想みたいな事を続けるしかないのかな・・・」
優は大きなため息を吐く。
「でもあんまり長い時間をかけるとな・・・涼真の事も心配だし・・・」
優は病院で見た涼真の姿を思い出す。
涼真の体には、明らかに霊と思わしきものが憑いていた。あのまま放置しておくとどんな悪影響が出るか解らないので、なるべくなら早いうちにどうにかしたかったのだ。
「そもそもまだ目を覚まさないのもあの霊のせいかも知れないし、クソッ!・・・駄目だ駄目だ、冷静に・・・心を静めて・・・」
優は毒づきながら上半身を後ろへと倒し、シートの上へと寝転がった。
そして青く晴れた空を見ながら深呼吸をして心を落ち着かせる。
「すぅ~・・・はぁ~・・・すぅ~・・・はぁ~・・・。すぅ~・・・・・・?」
深呼吸をしていると、急に不思議な感覚が生まれた。
吸っているのはただの空気な筈なのに、何か別の物を吸っている気がして・・・。
「すぅ~・・・はぁ~・・・すぅ~・・・はぁ~・・・」
深呼吸を続けると、不思議な感覚はより強くなる。
それは段々と頭をクリアにするような感覚だった。
「すぅ~・・・はぁ~・・・すぅ~・・・はぁ~・・・」
物忘れが激しいとか、言いたい言葉が中々出てこない等、そういう頭がスッキリしないという感覚ではなく、何かもっと根本的な・・・。
優が感じているのは、頭と言うより心がクリアになる様な感覚だった。
「すぅ~・・・はぁ~・・・すぅ~・・・はぁ~・・・すぅ~・・・・・・」
尚も深呼吸を続けていると、更に感覚はクリアになっていく。
透明に・・・透明に・・・透明に・・・
トランス状態にでも入ったかの様に優の思考は研ぎ澄まされていく。
やがて優の頭の中に色々な事が思い浮かぶ。
友達 楽しい感情 青空
かわいいぬいぐるみ コーヒー
桐谷夫妻 スポーツ 涼真
勉強 学校 先生 料理 商店街
阿部 父親 赤
九重 赤 神社 家 赤 赤
赤 赤 赤 赤 赤
赤 赤 赤 赤 赤
霊 赤 赤 赤 赤
赤 後悔 赤 嘆き 赤
赤 赤 恐怖 赤 赤
怒り 赤 赤 赤 絶望感
「・・・・はっ!!??」
突然思考の色が赤に塗りつぶされた優は飛び起きた。
優の顔からは知らず知らずの内に汗と涙が出ていた、それは頬を伝って顎へと流れ落ちていった。
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作者より:読んでいただきありがとうございます。
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