第21話
「もう少ししたら開けた場所に出る筈なんだ、そんでそこから・・・って言ってたら出たな」
「あ、本当だね。一帯が開けてる」
優と涼真は九重が集合場所に指定した、森の中にある一帯が開けた場所まで来ていた。
「で、あの紙袋は此処の中心・・・このあたりに落ちていたんだ」
「なるほど。それで優・・・九重さんはどっちの方に?」
涼真がそう言うと優の動きが途端にぎこちなくなる。
「た・・・たしかあっちに鞄があって・・・そこから10時の方向だった筈・・・」
しかし涼真の問いにキチンと答え、覚えていた方向を指さした。
「あっちね・・・解った。優、覚悟はいいかい?」
涼真は優の目をまっすぐ見ながらそう聞いてきた。優は言葉では言わなかったがしっかりと頷いた。
それを確認した涼真も一度頷き、短く「行こう」とだけ声をかけ、優の示した方向へと二人は歩き出した。
少し歩き、二人は九重の鞄があった辺りへとたどり着いた。だが・・・
「あ・・・あれ?確かここら辺に鞄が置いてあった筈なんだけど・・・」
優の記憶では確かこの辺りに鞄があった筈だったのだが、鞄は見当たらなかった。優がオロオロしながら周囲を見回していると、涼真が手分けをして探そうと提案して来た。
優は頷き、二人は互いが見える範囲に分かれて鞄を探し始めた。
暫く時間が経ち、涼真が優を呼んだ。
「優!こっちへ来てくれ」
「・・・!見つかったのか?」
「いや・・・でもここを見て」
どうやら鞄が見つかったわけではないらしい。だが何かを見つけたらしく、ある場所を指さした。
「これは・・・?何だろう?」
涼真が指さした場所にあったのは鉄の棒らしき物だった。長さは30cm程で片方はとがっているので杭だろうか?
「鉄の杭かな・・・?何でこんなところに?」
「優、こっちも見て。ほらここ、何かがあった様な跡がある。この感じだと言っていた鞄っぽくない?」
「言われてみたらそうかも・・・?」
確かによくよく見れば何かが置いてあったような跡があったが、痕跡が薄っすら過ぎて何とも言えない感じだった。
「もしかしたらここに鞄があって、この杭はその鞄の中にあった。でも何かの拍子に
杭だけ落ちてそのまま・・・ってことかも知れないよ?」
「なるほど・・・。ん?でもそれだと誰かが鞄を持って行ったって事か?」
「状況から見るにそうかもね。近くにはないみたいだし・・・。確かにここら辺であってるんだよね?」
「そうな筈・・・だけど・・・」
優の記憶では確かにこの辺だった筈なのだが、見つからないとなると自信が無くなってくる。
そんな優の様子を見た涼真が、優の肩に手を置いた。
「一応聞いただけだから大丈夫だよ。まぁあった形跡は見つけたし、九重さんの所へ行こう」
涼真がそんな風にフォローしてくれたので、優も気持ちを切り替える事にした。
しかし・・・。
「いよいよ師匠の・・・うっ・・・」
九重の所に行く覚悟はしたのだが、意識すると優の頭の中にまたあの光景がフラッシュバックする。
しかし覚悟の差か最初の頃よりかは大分マシで、一瞬フラフラしたものの直ぐに九重がいる方向へと顔を向けた。
そんな優の事を見て大丈夫だと思ったのか、涼真が行こうと声をかけて来た。
「でもその前に・・・はいコレ。一応九重さんが持っていたアイテムだし、持っていこう」
「そ・・・そうだな」
涼真は落ちていた杭を拾って優へと差し出してきた。
確かに九重の持っていたのならば、何かしら霊に対して効果があるのかもしれない。勝手に拝借する事にはなるが、役には立つだろう。
これも後で師匠の前で謝ろうと思い、差し出された杭を受け取ろうとする。
「・・・あつっ!?」
しかし杭に触った瞬間、焼けた様な痛みが優を襲った。
「えっ!?だ、大丈夫?」
涼真は優の手と、自身が持っている鉄の杭を交互に見ながら慌てていた。
「だ・・・大丈夫みたいだ。手を見ても何ともなってなかった。けど何だったんだ・・・?」
優は自分の手を見て何ともなっていない事を確認すると、涼真が持ったままの杭を人差し指で恐る恐る突っついた。
しかし今度はあの焼けるような感覚はせず、もう一度手のひらで触ってみる。
すると今度は何ともなく、普通に持つことが出来た。
二人は首を傾げたが、もしかしたら九重からもらったレポートの中に書いてあるかもしれないと考え、取りあえず考えるのは後回しにすることにした。
杭はそのまま優が持つことにして、二人はいよいよ九重の元へと向かう事にした。
・
・
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「・・・」
「うーん・・・」
現在優と涼真は、佐十家のリビングにてソファーに座りながら難しい顔をしていた。
「九重さんの同業者が人知れず回収した・・・とかなのかな?確かにいた形跡はあったからね」
「・・・」
結局二人は九重を見つけられなかった。
血の跡は残っていたので、鞄と同じく確かにそこに九重の遺体はあったのだろう。しかし何故か見当たらなかったので、だったら回収されたのでは?という説を涼真は言ったのだ。
「んー、ココで二人で話してても解らないか。ちょっと俺は出て来るよ」
「・・・どこ行くんだ?」
「神社とかお寺に行ってみようと思う。もしかしたらそこらへん関係の人だったら九重さんの同業・・・霊対処屋だっけ?そこと連絡を着けれるかも知れないからさ」
「・・・成程。それは気づかなかったな。・・・じゃあ行こうか」
涼真が出ていこうとしたので優も立ち上がったのだが、涼真は首を横に振った。
「いや、俺だけで行くよ。優は休んでて」
「・・・いや、でも」
「気づいてないかもしれないけど、大分顔色悪いよ?若干フラフラしてるし・・・。明日は学校行くつもりなんだよね?だったら今日はもう休んでおいた方がいいよ。明日の朝少し早めに迎えに来るから、その時に話すよ」
優は自分では気づいていなかったが、あまり調子がよろしくなかった。というのも、九重の血の跡を見てしまった事で精神的に負荷がかかってしまい、それによって体にも若干影響が出ていたのだ。
何となくそれに気付いた涼真は優に休むように言い、一人で佐十家を出ていった。
「・・・寝させてもらうか」
涼真に心の中で謝りつつも、確かに体がフラフラすると思った優は大人しく休ませてもらう事にした。
優は自室に戻りベッドへと寝転んだ。すると思ったより疲弊していたのか、直ぐに眠りについてしまった。
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・
「・・・真っ暗だ・・・夜?」
優が目を覚まし窓の方を見てみるとカーテンの隙間から明るい光は見えず、まだ夜だと判断した優だが・・・。
「夜と言うか朝か・・・」
時計を見ると時刻は3時になるかどうかだった。優が先日ベッドに入った時間が14時くらいだったので、13時間程も寝ていたことになる。
「そんなに疲れてたんだ俺・・・」
その時初めて自分の状態が酷いモノだったと自覚した優は、もし先日無理をして涼真について行ったら倒れていたかもしれないなと、休むように言ってくれた涼真に感謝した。
「感謝の印に弁当でも作ってやろうかな。・・・まぁ静さんが作ったものの方が美味いんだろうけど。まぁ気持ちだよな気持ち」
昔から父親と二人で家事をこなしてきた優は料理等も一通り出来、学校の弁当も大体自分で作っているのだ。
涼真の分も作ろうと決めた優はベッドから出て支度を始める事にした。
まずは、昨日帰って来たまんまで寝てしまったのでお風呂に入り着替えをする。そして着替えたら弁当作りを始めた。
出来上がる頃には静さんが起きてくる時間だったので、今日は涼真の分の弁当は自分が用意したと連絡をしようと携帯を取り出す。
「ん・・・?昨日から着信とメールが大量に・・・?」
携帯の画面を見ると、何故か静と幸平から着信とメールが大量に来ていた。
一体何だ?と思いながら取りあえずメールを確認してみる。
「・・・嘘だ・・・」
そこには、涼真が入院したと書いてあった。
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