第20話
涼真の発言によって優の感情は激しく揺れ、口から出てくる言葉も震えていた。
「な・・・なんで?」
真っ直ぐに目を見て来る涼真の目を見返せず、キョロキョロと視線を泳がせながら問うと、涼真は優しく落ち着いた声で返してきた。
「優、九重さんの変わり果てた姿を見たくないのは解るよ。でも、だからこそ九重さんをそのままにしておくのは良くないんじゃないかな?」
「・・・っ!・・・た、確かにそうだ。そうじゃないか・・・」
優は涼真の言った事にショックを受けた。
優は九重の無残な姿を見て恐怖を覚えていただけで、弔う等の事を一切考えていなかったのだ。
世話になった、いや、世話になっていなくともそんな事になっているのならば、せめて墓へと埋葬し弔うべきなのだ。
優が自分の事ばかりで考えが至らなかったことに落ち込んでいると、涼真がフォローする様に言ってきた。
「まぁこんな事を言えたのは俺が九重さんの事を知らなかったり、その現場を見ていなかったからこそ言えるんだけどね。実際に知り合いのそんな姿を見れば俺も思考が停止して動けないだろうし、そこまで思いつめなくてもいいと思うよ。それに、俺が九重さんの所へ行こうって言ったのはそれだけが目的じゃないんだ」
「え・・・?どういう事?」
涼真が最後に言った事が優には理解できなかった。
涼真は優が思い至らなかった九重の弔い、その事だけを考えていただけではなかった?
「九重さんには悪いと思うけど、優の力になる事を優先する俺としては、九重さんが持っていたっていう鞄を回収するべきだと思う」
「師匠の鞄を回収?」
「うん。恐らく紙袋に入っていたこれら、それよりも優の役に立つものがあるかもしれない。後は九重さんの同業者の連絡先も知れたらいいと思うんだ」
涼真の言葉を聞いた優は、嬉しい気持ちや申し訳ない気持ち、その他にも色々な感情が混ざり合い何とも言えなくなってしまった。
そんな優の表情を見て、涼真も何とも言えない表情になった。
「まあ・・・うん。俺も酷い事を言ってるのは解るんだけどね、事は俺が手を出せそうにもない事だからさ。使えるものは使ってどうにかしないと、今度は優がそうなると思うとね・・・」
「うん・・・」
「気休めかもしれないけど、九重さんに許してもらえるように祈るよ」
そう言って涼真は手を合わせて目を閉じた。
優も手を合わせて目を瞑り、心の中で謝罪と祈りを捧げた。九重の元へ行ったらもう一度同じようにしようと優は心に決めて目を開けると、涼真も同じく目を開けた所だった。
「花でも買っていって、九重さんの前でもう一度同じように祈ろうか」
「うん」
涼真も同じように考えていたみたいで、花を買っていく事を決めた二人は、続いていつ行くかを決める事にした。
流石に速い方がいいとなり、早速明日行く事に決めた二人は少し話し合った。そして明日の朝再び集合する事にして、それぞれ準備を始めた。
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「悪いな涼真、学校休ませてしまって」
「いいよ学校くらい。それに優も同じじゃないか」
翌朝、再び優の家のリビングに集まった二人はそんな事を話していた。実は涼真、昨日は部活も休んで来てくれたみたいで、レギュラーも張っているのに、と申し訳ない
気持ちになっていた。
だがそれを言うと涼真は、部活より優の方が大事だから大丈夫と笑いながら言ってくれたので、本当にいい幼馴染だと心の中で感謝を捧げておいた。
そんな感じに雑談も挟みながら、二人は出かける前の最終確認をしていた。
「それで優、九重さんからもらった物の確認は済んだの?」
「ああ、大体は。まぁ使えるかどうかはぶっつけ本番になるんだけど」
優はそう言って数枚のお札を仕舞ったケースを見た。
昨晩涼真と別れた後、護身として九重からもらった物を持っていく事を涼真から提案された優はレポートを読み込み、それらの使い方を調べた。
一応初心者でも使える様なモノを選んだのだが、実際に使えるかはその時になってみないと解らなかったのだ。
「忘れ物にも抜けが無さそうだし、それじゃあそろそろ出発しようか」
「そうだな」
最終確認も終わり、二人はいよいよ九重の元へ向かう事になった。それぞれバッグを持ち玄関へと行き外へ出ようとする。
「じゃあ俺は自分の内から自転車持ってくるから、門の外で待ってて」
「解った。靴を履いて玄関に鍵をかけたら待っておくよ」
涼真は隣の自宅から自転車を持って来るために、先に佐十家を出た。そして自宅から自転車を押しながら佐十家の前へと来た
涼真が不思議に思い佐十家の玄関の方を見ると、優の身に異変が起きていた。
「優・・・?」
優は玄関の扉を開けて外を見たまま固まっていた。それをおかしく思った涼真の呼びかけにも反応せずに。
涼真はそんな優の様子を見て、まさか!と思い、急いで優に駆け寄り小声で優に話しかけた。
「優・・・、まさか霊が・・・?」
そんな涼真の問いかけに優は首を小さく横に振った。涼真はホッとしたが、それならば何故?と優に理由を聞いて見た。
優はキョロキョロと目線を激しく動かしながら、か細く蚊の鳴く様な声で涼真の問いかけに答える。
「わ・・・わからない・・・。足が動かないんだ・・・」
優の答えを聞いた涼真は動かないと言う足を見ると、何故か目を瞑り考えるようなそぶりを見せた。
そして少しすると何かを決めたのか、ヨシと頷き優の横へと移動して来た。
「りょ・・・りょうま?」
何故横に来たのか解らなかった優が問いかける様に名前を呼ぶと、涼真はニッコリと笑い
『バシンッ!!』
と大きな音がするほど力を入れて背中を平手で叩いてきた。
凄い勢いの張り手に押され、優は体が前方へと動いてしまう。そして体が動くほどの力で背中を撃たれたので当然凄く痛かった。
「いっだぁぁぁあいい!何するんだバカァ!」
優は涼真へと詰め寄り胸倉を掴んだ。
しかし涼真はそんな事をされているのにもかかわらずニコニコしていたので、カチンときた優は涼真へと問い詰めた。
「なに笑ってんだよこのバカ野郎!何であんなことしたんだよ!」
「何でってほら?ちゃんと家出れたでしょ?」
「あぁ!?」
そんな風に言われ今いる場所を見ると、何故か出ようとしても足が動かずに出れなかった外だった。
あれ?と思っていると、涼真は未だに胸倉を掴んでいる優の手をそっと外した。
「まああれだよ、優が霊にビビルあまりに家を出れなかったみたいだからさ。活を入れたってやつだよ」
「ビビッて家を出れなかった・・・?」
「だと思うよ?盛大に足が震えていたしね。・・・解らなくもないけどね」
そう言われてもピンと来ていない感じの優に、涼真はふぅと一度ため息を吐き自分の考えを説明した。
「多分だけど・・・、霊を恐れるあまりに、外へ行く=霊と会う、と言うような感じに優の頭のどこかが判断したんじゃないかな。だから外へ出ようとすると恐怖のあまり本能的に足が動かなくなる・・・所謂トラウマって奴だと思う」
「トラウマ・・・」
「本当は時間をかけてメンタルケアしなくちゃいけないんだろうけど、生憎そんな時間もないと思ってね。荒療治ってやつをさせてもらったよ」
そこまで言われると優の中でも流石に理解が追いついてきた。そして確かにやり方は荒かったがお陰で外に出られ、しかもなんだか胸につかえていた感じが少しだけスッキリした気持ちになっていた。
「なるほど・・・理解した。なんかスッキリした気分だ、ありがとな涼真」
「うん、上手く行って良かったよ。正直大丈夫って保証もなかったしね」
「はは・・・まぁ結果良ければ全て良しって事にしとこうか。けどさ・・・もうちょっと手加減できなかったのかよ」
「あー、それはごめんね?予想以上に強くなっちゃったみたいだ」
涼真は両手を合わせて謝って来た。然し何故か直後にニヤ~っとした顔をしてきた。
「これだったらもう一つのプランの方がよかったかもね」
「そっちを先にやっとけばよかったんじゃないか?実はまだ背中がヒリヒリしてるんだが・・・」
「良かったの?もう一つのプランはぎゅっと抱きしめるって感じなんだけど」
「それは勘弁だ!あ、だからさっきニヤっとしたのか!」
「ははは」
涼真は悪戯が成功したように無邪気に笑っていた。そんな涼真の笑いに、色々重しが乗った様な優の心が少しだけ軽くなった気がした。
しかし口に出してお礼を言うのは何故か恥ずかしかったので、心の中でだけ涼真にお礼を言って、現実の口からは出発を促す言葉を優は出した。
「いつまでも笑ってないでそろそろ行こうぜ!」
「ははは、そうだね。これ以上ゆっくりしてると折角入れた活が逃げちゃうしね」
「もう大丈夫だっての!」
・
・
・
「着いたよ優」
「おう・・・」
優は二人乗りして来た自転車の荷台の上でぶすっとしながら、涼真に抱き着いていた手を放して自転車から降りた。
「仕方がないよ、そう簡単には一度ついたイメージは直らないモノだしね」
「・・・」
何故優はこんな事になっているか・・・それは道中で霊を見てしまい再び優が怯えてしまったからだ。
それだけならばこんな風にならなかったのだが、霊に怯えた優は軽いパニックを起こしてしまい、咄嗟に涼真へと抱き着き背中に顔を隠してしまった。
そして少し冷静になっても、やはり霊への怖さがまだ強かった優はそのまま涼真へと抱き着き続け、目的地に着いた今ようやく離れる事が出来たのだが、羞恥心や自尊心等がごちゃごちゃになってしまった結果・・・。
「優、目的地に着いたんだから機嫌直したら?」
「・・・別に悪くはない。良くもないけど」
この様な面倒くさい感じになってしまっているのだ。
そんな優に涼真は肩を竦め辺りを見回した。
「あ、優の自転車はそのまんまっぽいね」
「だな・・・」
神社の石段下あたりにポツンと置かれている自転車・・・優があの日乗って来た自転車だ。
その自転車を見るとまた色々な事が思い出された。するといつまでもこんな状態じゃいられないと、優は気分を入れ替える為に自分の頬っぺたを軽く張った。
「うしっ・・・!涼真こっちだ」
「うん、解った。ついて行くよ」
涼真もそんな優を見て何か感じたのか、ずんずん進み出した優の後に無言で続いた。
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作者より:読んでいただきありがとうございます。
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