『ま、待てっ!』

 校舎の中へ消えようとしていたアイリスの背中に、俺は言葉をぶつける。彼女は一瞬足を止めたものの、それでもすぐに歩みを再開した。だから俺は、構わず言葉をぶつけ続ける。

『お、お前が誰かを見捨てれないのなら、それでいい。でも、俺はお前を、仲間のお前だけをこのまま行かせることなんて出来ない!』

 アイリスの足が、止まる。

『そ、それでも行くなら、俺はお前を止めないよ。でもな、俺もお前の後をついていくぞ? 這ってでも、俺はお前についていく』

『だから、どうしてわたくしに――』

『い、言わないとわからないのか? 瑠利子や克実も言っていたように、俺もお前が心配なんだよっ!』

 だから――

『俺の傍にいろ、アイリス! 一人で何でも背負おうとするなっ!』

『そ、そーだよ、アイリス! アイリスが行くなら、あーしもついてくからねっ!』

『わ、私も、あ、アイリス、ちゃんと、一緒が、いい、ですぅっ!』

『……本当に、皆さん、無茶苦茶ですわね』

 そう言って振り向いたアイリスの顔は、呆れたような、それでいて、安心したような表情を浮かべていた。

『でも、どうするのです? わたくし、もう彼らに会うと連絡してしまっていますのよ?』

『な、なら、奴らに、ここに来るように言うんだ』

『武道館前に、ですの?』

『どーゆーことぉ? とーま』

 アイリスと瑠利子の疑問に、克実が口を挟んだ。

『せ、戦力の、ぶ、分断、です、か?』

『そ、それも、ある。でも、一番稼ぎたいのは、時間だ』

『時間、ですの?』

 アイリスの言葉に、俺は頷く。

『み、見た所、奴らは『変態』後に、校舎の四階へ侵入した。あんな動き、人間が耐えられるわけがない』

『あー、なるほどー。つまり、とちゅーで、『変態』が解けるかも知れないのかぁ』

『じゅ、十分、毎に、って、せ、制限を、つ、つけた、のも、ぺ、『ペッジョーレ』側の、ほ、方が、こ、困る、から、って事ぉ?』

『……確かに、テロリスト側に時間的制約があるのは、ありえますわね』

『だ、だから、時間を稼げば稼ぐだけ、俺達が有利になるんだ』

 通信遮断の効果範囲が狭いのも、ひょっとしたら奴ら、十分な血を飲んでいないのかも知れない。もし血が足りていたとしても、外部との通信が途絶している時間が長ければ長い程、いずれ誰かが異変に気づき、救助される可能性も上がる。

『だ、だから、アイリス。まず、奴らのボスをここに呼び出せ。下っ端じゃ話はしないって言ってな。俺達は、近くで見守っている』

 そう言って、小さく頷いた後、俺は更に言葉を重ねた。

『お、お前だけ、一人にさせねぇよ』

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