第二章

「お、おはよう」

 達矢と加奈女に挨拶をして、俺は自分の席に腰掛ける。自業自得ではあるのだが、最近貧血気味なのが、地味に辛い。こめかみを押さえていると、呆れ顔の達矢と、心配顔の加奈女がやってきた。

「おはよう、冬馬。何だ? 最近重役出勤じゃないか」

「……ちゃんと来てるだけ、マシだろ? たまに遅刻してくるお前に言われたくないよ」

「でも、冬馬、大丈夫? 顔色悪いよ? ペアリング、相変わらず上手く行ってないの?」

「ま、まぁ、そんな所だ」

 持病の目眩と冷や汗に悩まされるものの、加奈女の心配は純粋に嬉しい。だが、彼女の言った通り、俺は今、ペアリングの課題に躓いている。

 最初の課題をクリアして以降、アイリスとはそこまで険悪な関係ではなくなっていた。アイリスと話し合える関係性が築けたのは大きな収穫だが、しかし次の課題は、そういう次元で解決できるような問題ではない。

 貧血気味の頭を軽く振り、俺は学ランの内ポケットに手を当てる。

 ……もしもの時の奥の手は事前に用意しているが、使うとしたら、本当に死にそうな時だしな。

 どうしたものかと思っていると、達矢が思い出したように、こう切り出した。

「そう言えば最近『人間撲滅派』の奴ら、献血できる施設の周りにい出没してるって、SNSに投稿されてたな」

「……ちょっと達矢、止めてよ、その人達の話するの」

 加奈女は心底嫌そうに、顔を歪める。

「あの人達は吸血鬼だけど、私、あの人達同じ吸血鬼だと思ったことないから」

「何だそりゃ?」

「わかんないかな? 何ていうか、こう、年に一回会うか会わないかぐらいの、すっごい遠い親戚のおじさん、みたいな? この人とは血がつながってるんですよ、って言われても、いや、こっちは次会う時には顔すら忘れてる、みたいな感じの。わからない? ねぇ?」

「うーん、わかったような、わからないような」

 加奈女の言葉を聞いて、達矢は唸り始める。その達矢にどう言えば良いのか悩んで、今度は加奈女まで唸り始めた。

 ……本当に、仲いいな、こいつら。

 達矢たちのペアリングが上手く行っているのは、二人の様子を見ているだけで察しが付く。恋人としての仲も、順調なのだろう。そこで、俺はふと思い至った。俺がペアリングで上手く行ってない課題も、こいつらに助言を求めたら、いいアドバイスがもらえるのではないか?

 協力とは、話し合い、助けになる事だという。

 だから、素直に助けを求めてみようと、そう思った。

「な、なぁ、お前ら、ペアリングの課題でVRシミュレーションが出された時、どうやってクリアした?」

 俺の言葉を聞いて、達矢と加奈女が互いの顔を見合わせる。

「え? 普通にどうすればいいか、考えながらやるだけだぜ。な?」

「うん。普通に考えながらやれば、クリアできたよね」

 ……こいつら、何の参考にもならねぇっ!

 何だか、目眩が酷くなってきた気がする。でも、彼らが答えた内容が、恐らく全てなのだろう。どうすれば良いのか、組んだメンバー、各々が最善の方法を考えながら行動する。互いにそれぞれ与えられた役割を全うする事で、初めてペアとしての成果が出せるのだ。

 ここまで言えば、察しのいい人なら、気づいているだろう。今回、俺達に出された二つ目の課題は、VRシミュレーションで。

 あまり深く物事を考えるのが苦手、というか、破棄している吸血鬼が一人、俺達のペアリングのメンバーにいるのだ。

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