第360話 岩手突撃日本版?

<<日本、暖かい海の上>>


C国の海上兵器は、対イージス艦、若しくは空母用の飽和攻撃が主体とされている。無人飛行機による攻撃も得意とされるが、そんなもん、全く通用しないのがこの岩手軍団だ。今、この岩手が軍事関係者の垂涎の的らしく、注文の相談が絶えない。現在、ラメヒー王国が岩手を売り出そうかどうか悩んでいるらしい。主要な輸出品目になるとは思うのだが、兵器を輸出するのも気が引けるらしい。あの国らしいと言えばあの国らしい。


などと考えながら、俺はユーレイさんに少しずつサンオイルを塗る。色んな所を触りながら。


ユーレイさんはどこ吹く風で、触られ放題になっている。


隣では、「ねえ、私にも、岩手操縦させて」と、ペチャパイイカロリが言っている。


「いいですよ、カテジナさん」と、エンパイアの勇者が応じた。


勇者は、パソコンの画面を少しずらし、何やら操作する。


勇者は、「はい。これで端っこのヤツは、このコントローラーで操作できます」と言って、カテジナさんにコントローラーを手渡す。


エンパイアの勇者も子供には甘い。でも、カテジナさんは、子供に見えるが、実は30歳なのだ。


そのカテジナさんは、「やった。嬉しい。これで、相手の船を握り潰してやろうかしら」と言った。


よくよく考えると、カテジナさんの乗る潜水艦を握り潰したのは、カテジナさんの隣に座るエンパイアの勇者ランさんだった。大丈夫なのだろうか。


「お? やってみましょうか。カテジナさん。多分、戦争になりますけどね」と、勇者ランが言った。そんなことは止めて欲しい。


今、尖閣諸島周辺には、様々な国の船が集結している。一発触発状態なのだ。


ところで、今なんで俺たちがこういうことをしているかというと、きな臭い状態だから。


R国がウクライナに攻め込んだのが今年の2月。


西側諸国の手助けもあってか、ウクライナはまだ持ちこたえている。

というか、アメリカ軍から貸与された長距離ロケットランチャーのお陰で、逆に盛り返してきている。


このままいくと、本当にR国を追い払えるのかもしれない。

今のウクライナには、徐々に魔道兵が入り込んでいるし。

戦争で大っぴらに攻撃魔術を使うことはしないようだが、魔術は大量破壊より寝技の方が得意なのだ。今はイギリスSUSやアメリカCIAの魔道兵達がR国軍支配地域に入り、何やら軍事支援を行っているようだ。空港に駐まっている高価な戦闘機を爆破したり、長距離ロケットランチャーで狙う戦術目標を探したりしているようだが、俺は深入りしていないから詳しくは知らない。


しかし、核兵器保有国が民主主義国家を堂々と侵略するとは・・・しかも、核攻撃をちらつかせて。

最悪な連中だ。なので、俺は怪人会に出動命令を出し、今はハマグリとミスターパーフェクトがR国に侵入している。


これでR国が負けたら、国家解体の上に、核兵器没収だろう。如何なる理由があろうとも、核兵器を盾に、他国に侵略するような国家には、永久に核兵器を保有させてはならない。核兵器保有国には、それなりの品位とプライドが必要だと思うのだ。


話はR国からC国に戻り、今度はC国もきな臭くなってきた。


アメリカの議員、それも下院の議長さんが、台湾に入国したのだ。それに激怒したC国が、顔を真っ赤にして、大規模な軍事演習を行った。それに相対するように、アメリカも原子力空母を台湾東方に派遣したりしたのだが・・・


日本政府もその議長さんを日本に招いたりしたものだから、C国がもう怒る怒る。挑発行為のオンパレードだ。


それで日本としては、遺憾の意を発した後、突如として尖閣諸島に水道管を引くことを発表した。


C国は暴挙だなんだと騒いでいるが、今の首相はその様な恫喝ではびくともしない。

逆にアメリカが少し引いている。アメリカの真意は何なのか、C国とまだ相対したくないのか、逆に軍事バランス的にこちらが勝ちすぎても不都合なのか・・・


ま、おそらく後者だろう。彼らは、こちらの手の内をなるべく見せておきたくないのだ。アメリカは、事が始まってから、圧倒的軍事力で勝てば良いと考えている。それまでは、相手がこちらに勝てる、いや今しか勝てないと思わせたいのだ。


そして、相手から最初に撃たせる。アメリカの常套手段だ。

こちらが優位に立ちすぎると、相手から撃ってこなくなる。それでは困るのだろう。


でも、日本としては、相手から撃ってこないなら好都合で、着々と領土防衛を固めるのみだ。


「そろそろ到着ですね。岩手を上陸させます」と、勇者が言った。


勇者ランは、パソコンをカチャカチャと動かし、岩手をカタツムリより先行させる。


そして、島上空にさしかかった岩手が、ぐにゃぐにゃと形を変える。それは台形の壁になり、そのままゆっくりと着陸する。台形の壁の下部分は、最初柔らかい状態であり、島の地形に合わせてがっちりと固定される。次々と他の岩手達が壁や天井になり、瞬く間に島に要塞を築いていく。


そして、その中に、ゆっくりとカタツムリが入って行く。


後は、海底送水管を固定し、残りの岩手で追加の壁や天井を造るだけ。


その後、『ゲート』を使って、残りの機材や備品を運び込こんでちょこちょこ工事すれば完成だ。


これで、尖閣諸島内に、日本人の財産が生まれたことになる。


自衛隊は、日本人の生命・財産を守る事が任務である。なので、ここを外国が狙うようなことがあれば、それを理由に自衛隊が出動することができるようになったわけだ。


「お疲れ様ですランさん」と、一仕事終えた勇者ランさんに声を掛ける。


「いえいえ。貴重な体験をさせていただき、ありがとうございました」と、勇者ランさんが言った。


「ねえ、私の岩手はどうすればいいのぉ?」と、岩手のコントロ-ラーを持つカテジナさんが言った。


まだ50体くらいの岩手は宙に浮いている。


ここの工事では70体ほど使う予定にしており、10体ほどは予備だ。使っても良いし、引き返してもいい。


「そうだな。全部使う必要はないか。そいつらは、帰りの護衛にしよう」


カテジナさんが操る岩手プラス10体ほどの岩手は、送水管を積んでいた移動砦の復路の護衛にすることに。


「ええ~じゃあ、ずっと私が操縦しなきゃ」と、カテジナさんが言った。


「私が代わりますよ。というか、本職にお返ししても良いですし」と、勇者が言った。


漫才を繰り広げていると、移動砦から自衛隊の人が降りてきた。


ここと『いずも』は、ゲートで繋げている。それに、この移動砦には、自衛隊出身者を数名乗せているのだ。もちろん非公式で。なので、この自衛隊の人は、ラメヒー王国の国民が着るような服装をしている。今は七分袖の上下にサンダル姿だ。


その自衛隊の人は、「ああ、多比良殿、ここにいらしたか」と言った。彼には見覚えがある。確かメイクイーンにいた空挺科の人だ。俺のオロチで迷惑を掛けてしまった人。彼は、そのまま俺との連絡係になったらしい。


「はいはい。何でしょう」と応じる。


彼は、「海底送水管敷設事業の第1期工事はほぼ完了です。今回、あとは復路を帰るだけです」と言った。


「敵さん出てきた?」


「まあ、出てきてはいますね。ですが、今の所全て国際法に則った動きをしています。案外理性的ですね」と、空挺科さんが言った。


「じゃあ、尖閣ここの工事は終わりかな。で、次もあるんだって?」


「そうですね。次も我々の管轄ではないことになっています。文化庁からの依頼です。北海道のユクエピチャラシの復元事業ですね」と、空挺科さんが言った。


「そうだった。陸自さんの要望だった。だけど、あっちは送水管なくていいんでしょ? 面倒だから、岩手じゃなくて、最初からお城の形を作って飛ばしてみようか」と言った。


その作戦は、北海道にある文化遺産を復元します、といいつつ、魔改造した要塞を北海道東北部に築造するというものだ。要塞の名前を『ユクエピチャラシ』にし、『これは文化財です』と主張しておけば、誰も文句は言わないだろう。多分。世の中には、コンクリート製でエアコンの効いた天守閣があるのだ。岩手製の文化財的お城があってもいいはずだ。


まあ、お城を浮かせて設置させるだけの、簡単なお仕事だ。


今、日本は岩手の材料になる石材を大量に産出している。そして、自衛隊やゼネコンから選出した土魔術士と反重力魔術士を大量動員し、岩手を大量生産しているのだ。


最初は原発などの重要拠点の防護を行い、次にこういった国境地帯の要塞化に使用する。

いずれは日本中に要塞というか、核シェルターを造る計画らしい。


「詳細な工法はお任せしますよ。これは、文化庁からの依頼なのですから」と、空挺科の人。


「まあ、工法は後で考えよう。じゃあ、ここの工事はほぼ完了。後はお任せしていい?」


「はい。分かりました。この移動砦とモルディさんをお借りしますよ」と空挺科の人が言った。


面倒なことは任せるに限る。


「さて、俺たちはそろそろ帰るか。魚全然釣れないし」と言った。


カテジナさんは、「うん。帰ろ帰ろ。私直ぐに着替えてくる」と言って、移動砦の中に駆けて行く。こうしてみると少女のようだ。


さて、帰るか。


今日は、嫁が五稜郭に帰ってくる日だから、五稜郭に帰ろうかな。俺たちは、シャワーを浴びて少し休憩した後、五稜郭に戻るゲートを潜り抜けた。

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