第361話 現在の五稜郭の風景
<<五稜郭 旅館のスイートルーム>>
俺、マダコ、ランさん、そしてカテジナさんの4人でゲートを潜る。ユーレイさんは、もう少し焼きたいらしく、移動砦に残った。
五稜郭、棚湯付きスイートルームのリビングに出る。
「さて、俺は自衛隊に顔を出して、その次は居酒屋に行こうかな」と言った。
「私は一旦エンパイアに顔を出します。飲まれるんなら、私も夕方合流しますよ」と、ランさんが言った。
「私はどうしよっかなぁ。というかさ、私もこのスイートに住んじゃ駄目?」と、カテジナさんが俺をチラリと見て言った。これでも色気を使っているらしい。今は水着ではなくワンピースを着ているが、全く色気がない。
「駄目。お前はかまくらだ」
「ケチ」
「嫌ならサイレンに帰れ」
カテジナさんは、正式に恩赦を貰っているから、別にサイレンに戻ってもいいのだ。というか、こいつは五稜郭にちゃっかりかまくらを造りそこにどこから買ったのか、マットレスなどの生活用品を持ち込んでいる。そして、毎朝いつの間にか俺の近くに出没してついて回るのだ。
「それは嫌。一旦罪を犯した私に、社交界の居場所はない。というか、こっちの方が楽しいし」と言った。
俺は、日本に持って行っていた釣り道具を自室にぽんと置くと、そそくさとスイートルームを後にした。
スイートルームの出入り口には、自衛隊の護衛が立っていた。ご苦労様だ。
この旅館のスタッフは、全員自衛隊員だ。
日本国にとって、超重要人物である俺を守るのが、ここの目的らしい。
・・・
<<五稜郭 居酒屋綾子>>
「ただ今」と、カウンターの椅子に座って、帳簿か何かを付けている綾子さんに言った。なお、エンパイアの勇者ランさんと、カテジナさんは、途中で別れた。
「あ、お帰り。釣れた?」と、綾子さんが帳簿に目を向けたまま言った。
「釣れんかった」と返す。
厳密には、青ヤガラというマズそうな魚を1匹だけ釣ったが、それは刺身にして現地で食べた。見た目に反し、そこまでマズくはなかったけど。
「そっか。まあ、今回は沖縄だっけ? ミーバイ系を期待してたんだけど。しゃあないか」と、綾子さんがこちらを向いて言った。
今日の綾子さんは、何故か色艶がある気がした。少しむらっとくる。
「何か買ってこようか?」
今の五稜郭は、無理してラメヒー王国から輸送艦の定期便を飛ばしてもらっている。なので、お店もあるし、そこそこの物資はあるのだ。まあ、俺なら日本に行って帰ってこれるけど。
「いやいいよ。今日は八重さん来るでしょ? きっと何かお土産あるよ。というか、もうすぐ軽空母が帰ってくる。異国の食材積んでくるっしょ」と、綾子さんが言った。
なんと、今日は軽空母も五稜郭に帰ってくるのか。最近の軽空母は不定期だから、予定は俺も把握していないのだ。行こうと思えばゲートで行き来できるし。
軽空母は、メイクイーンへの再入植やら田植えやらのお手伝いが一段落し、今は長寿モンスターの魔石狩りなどに、ちょくちょくリン・ツポネス国等にお出かけしている。
今は、五稜郭の西約1500キロの位置に、イセの城の建設も始まったから、たまに西側にも飛んで、そこでも長寿モンスター狩りに勤しんでいる。
そうそう、通常モンスターは、未だに発生し続けている。俺が月に持って行った1個の核爆弾だけでは、あまり影響はなかったのかもしれない。
だけど、今度の9月がまた一つの節目だ。9月は、次の年のスタンピード転移門が発生する時期だからだ。
それ次第では、また日本人600人は、3月に五稜郭に立てこもることになる。まあ、今度は準備期間がある。きっと大丈夫だ。
実は、勇者魔法と聖女魔法時空化の日本人600人限定魔力回復機能は、ラスボス戦の後もそのまま使用出来るらしい。死に戻りの方の時空化はもう発生しないと思われているが、今ここに生きる俺たちにとっては、もうどうでも良いことのように思う。
まあ、今の所まだ誰も死んでいないけど。
第二の
今は8月。もうすぐその結果が分かる。
すなわち、去年と同じように悪意を持った転移門が発生した場合、月とのバトルはまだ続いているということになる。逆に転移門が全く出なければ、第1世界の魔石文明を早急に見直さないといけないこととなる。そうなったらまた大変だ。一番良いのはぼちぼち規模の転移門が、ランダムに発生することなんだが・・・
そんなことを考えつつ、「料理手伝おうか?」と、綾子さんに言った。
「いや、今日はルナも学校お休みだから。もうすぐ部活も終わって帰ってくるし」と、綾子さんが言った。
「それならいいけど」
綾子さんの一人娘であるルナは、今は中学3年生だ。志郎は2年生。志郎なんてつい先日まで小学生だった気分だ。早いもんだ。
俺と綾子さんは、日本国の法律的には内縁の妻状態だが、マ国に婚姻届を出したから、一応、ルナは義理の娘ということになる。何だか不思議な気分だ。
ルナは、先輩達が卒業して行く中、ここ五稜郭の学校に残った。
そう、この度、五稜郭に学校を造ったのだ。私立棚中学校の協力により、とりあえず中学校を。出来れば高校も造りたかったが、それは時間的に断念し、代わりに魔術やハンター、あるいは魔道飛行機の運転や整備などを取り扱う『五稜郭専門学校』を造った。
今、晶やミルミル達冒険者組は、一応、ここの専門学校生だ。魔術の勉強の他、エンパイアやマ国の教授達を呼んで、一般教養も教わっている。
徳済さんとこの息子さんやそのガールフレンド、高遠武君達は、日本の棚高校に通うことになった。
でも、彼らは親のお陰で魔力が潤沢に提供されるから、ちょくちょく異世界に帰ってきて、五稜郭専門学校のゼミにも通っている。
なお、異世界帰りが多い今の棚高校は、国家の威信をかけて守られているから、以前みたいな同時多発的誘拐事件が起きることはないらしい。まあ、あの子供達もたくましいからな。ほぼ全員魔道士だし。
そういえば、俺たちが造った魔術専門学校は、最初の転移組の他に、超お金持ちや政治家の子弟とかが通っていて、なんだか凄いことになっているらしい。通うだけでとんでもないコネが造れてしまうとか。
もちろん、今の所、ここの学校に通えるのは、厳しい審査を受けた人のみ。だけど、政治的配慮で色んな国の要人の子弟が入学しているのだ。
さらに、自衛隊特殊訓練学校、特殊警察学校、特殊レスキュー隊養成学校なども創られ、五稜郭運営費の足しにしている。この辺は、日本国からの要求を断れなかった。まあ、仕方が無い。アメリカやイギリスはラメヒー王国やリン・ツポネス国と同様のことをしているし。日本だけ遅れる訳にはいかないのだ。
そういえば、俺の上の子である桜子は、大事な受験シーズンを異世界で過ごしたこともあり、大学受験に失敗した。格好つけて親のコネを頼らなかったためだ。浪人させるくらいならと、自衛隊特殊訓練学校などの講師兼研究生として押し込んだ。
今では、マ国の大学で魔力が身体能力に及ぼす影響などを研究しながら、魔術戦闘の講師を務めている。まあ、親のコネだ。本人は頑張って夜遅くまで勉強しつつ論文を書いているらしく、元々地頭は良いやつなので、今後はあまり心配していない。
また、八重も、時々自衛隊訓練学校の講師として講壇に立っている。
八重は、五稜郭で訓練された楠木陰陽会や高橋道場の猛者達を引き連れ、日本を始め、世界中で諜報活動を開始している。マ国の特殊部隊と協働しながら。なので、ここの自衛隊訓練学校は、ほとんどスパイ養成学校みたいになっているらしい。かつて、五稜郭で魔術を学んだ各国の特殊部隊の方々とのコネも、ここで生きている。
そんなこんなで、今の五稜郭は、自衛隊や多比良軍によって重武装された学園都市みたいになっている。
・・・
「ただ今~、あ、お義父さん、お疲れっす」と、ルナが元気良く言った。
あ、ルナだ。 ねえ、私出してよ と、トモヨが言った。最近のトモヨは、俺と視界を共有しているらしい。
そういうこともあり、最近のトモヨは、保険も兼ねて、ほぼ温泉アナザルームの住人になっている。
俺は、自分の頭から出ている赤い糸を引っ張り、トモヨを取り出す。
ルナは、「あ、トモヨちゃんだ。お話していいの?」と言って、部活道具をその辺の椅子に置いて、こちらに走ってくる。とても嬉しそうだ。
「少しならな。今日は居酒屋のお手伝いするんだろ?」
「うん。なら少しだけ。エンパイアのエンペラーとエンプレスが、温泉に逢い引きしに来る話の続きを聞きたい。凄いんだって。いろいろと」と、ルナが言った。
女子の話題はエグいな。とか思いながら、エンパイア・ピンクを思い出す。あいつはセック○好きを公言していた気がする。エンペラーの薄毛の原因は、絶対にあの淫乱ピンク雌狐のせいだと思うのだ。
きっと、毎晩毎晩エグいセック○を強要されるのだろう。何回も何回も・・・うむ。彼とは仲良く出来そうだ。
俺が遠い目をしながら妄想していると、「こんちゃ~」と、玄関が開かれる。
ふむ。この声は
その後ろには、同じくスーツ姿の素子とレイもいる。
八重は、「あ、城さん、早かったんだ。はい、お土産」と言って、白いレジ袋を手渡してくる。
む? これはキノコ類か?
八重は、「もらい物だけど、おいしいらしいよ。あ~ビール飲みたい」と言って、居酒屋の奥に入る。
俺は、八重に「どうだった?」と言った。
八重は椅子に座りながら、「ん? 日魔友好条約締結のこと? 無事済んだ。ほっとしたわ~」と言った。
そうか。それはなにより。これで、日本とマ国は正式に国交を結んだ。色んな横やりが入ると思われたが、頑張って防いだようだ。嫁を初めとする日本の諜報機関と、マ国のユーレイさん達が頑張ったお陰だ。ユーレイさんは、これで引退とか言っていたけど。
俺たちのやり取りを微笑ましく眺めていた素子さんが、厨房の入り口にあるビールサーバーを操作し、冷えたジョッキにビールを注ぎ始める。気が利く
それを見た八重は、「ああ、素子ゴメンネ。私も手伝うわ」と言って、立ち上がり、ビールサーバーの方に行く。
ビールは、5人分あるようだ。俺と綾子さんの分も入っているのだろう。
「マダコはどうする?」と、俺の後ろに立つマダコに言った。
マダコは、少し残念そうな顔をして「おれはいいよ。護衛だからな」と言った。
ここで俺を襲おうというやつはいないと思うが、ここの周りは人類未踏の地、緊急事態とかあるかもしれない。ここは、マダコのプロ意識を尊重しよう。
まあ、俺は少し飲みますかね。
俺たちは真夏の五稜郭で、きんきんに冷えたビールで乾杯した。
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